カーラの恋 国境
●レナ…主人公。コサムドラ国皇女・魔人
●エヴァ…レナの親友
●ギード(ハンス)…魔人・ムートル国第二王子。ブルーノの弟。
●カリナ…ベナエシ国王女。ルイーズの義姉
●アミラ…レナの母・故人。
●リンダ…アミラの従姉妹。ギードの母。魔人。
●アンドレ…レナの父。コサムドラ国、国王。
●ジャメル…エリザの兄・高級役人・魔人
●ルイーズ…レナの祖母
●ドミニク老人…コサムドラの高級役人
●レオン…レナの幼馴染。レナの事が好き。
●アン…レナの同僚。
●カーラ…レナ付きのメイド。
●ドナルド・クレマン…野心家。元高級役員。レナを陥れようとし失脚。
●クリストフ…コサムドラ国古城の老兵。ベルの夫。
アンの容疑は晴れた。
が、今度はハンスが国境付近で目撃された。
国境付近の警備強化にレナが名乗り出たが……。
レナは、父アンドレの執務室で直談判に出た。
「リエーキ国と仲がいいんでしょう? だったら、何も危険な事はないわ。だから、行かせて下さい」
「少し考えさせてくれ」
アンドレは、その場で結論を出さなかった。
確かにレナの言う通り、隣国リーエキ国とは長く友好関係を保って来た。
ただ非常に閉鎖的な国で、実のところ国の内情は詳しくわからないのだ。
特に今の国王になってから、リエーキ国国王に直接会えた国はない。
資源もなく大きな国ではないため、諸外国も実害がない以上、無理に国交を持つ事もないのだ。
「もし何かあっても、姫君なら魔力で切り抜ける事は出来るだろう」
ジャメルはそう言うが、本当にレナの魔力はそこまであるのだろうか。
現にレナは一度、あのギードに連れ去られているじゃないか。
「あの時はエヴァを人質にされたも同然だったのよ、お父様」
レナは、何度もアンドレに掛け合った。
「それに、リエーキ国にもご挨拶に行かなければならないでしょう? 良い機会だと思うの」
レナは、何としても自らハンスを見つけ出したかった。
理由なんて無い。
ただ、会いたい一心だ。
「そうですよね。好きな人を見かけるだけで、その日が素晴らしい日に思えますもの」
カーラは、頬まで赤くしている。
「カーラ、あなた、好きな人がいるの?」
「それは……」
カーラの心に浮かんでいたのは、何とレオンだった。
「え! レオン?!」
レナは、思わず声に出して言ってしまった。
「どうしてお分かりになりましたの?!」
「ちょっと、そんな気がして」
何とか誤魔化せたかしら……。
つい、魔力でカーラの心を覗いてしまった。
これでは、父を説得できる訳がない。
「やっぱり、顔や態度に出てました?」
カーラの顔が益々紅く染まった。
「そ、そうね」
何とか誤魔化せたらしい。
これからの課題は、いかに魔力で知ってしまった事を自分の中で抑えられるか、レナは強くなる一方の魔力に何とか歯止めをかけたかった。
いくら魔力が強くなっても、知りたい事は何も分からない上に、魔力で失敗する事が増えてきた。
何とか制御できるようにならなければ。
「レナ様?」
レナが考え込んでいると、カーラが心配しはじめた。
「いえね、どうすればカーラの恋が叶うのか、考えていたの」
「ええ!」
カーラは、驚いて大きな声を出しだ。
「一度思い切って、魔力を見て頂いてはどうか」
ジャメルの提案だった。
あまり気は進まなかったが、もうこれ以外方法はない。
流石に腹をくくった。
「お父様、私が魔力を使っても、お嫌いにならないでね」
何と、ジャメルの用意した対戦相手は父アンドレだった。
もし、父に嫌われてしまったら、もう城では生きて行けない。
対戦になりもしなかった。
アンドレが武器を持つと、それはあっという間に姿を消し棚へ戻ってしまう。
「なんと……」
アンドレは、これ以上言葉が出なかった。
「ああ、お父様。本当に、お嫌いにならないで!」
父の元に駆け寄った。
「レナ! 素晴らしい、素晴らしいよ」
思いもしなかった父の歓喜の声に、レナは肩透かしをくらった気分だった。
「魔力で戦うというから、どう戦うのかと思ったら、戦いになりやしないじゃないか」
とうとうアンドレは、笑い出してしまった。
ジャメルも、レナが魔力を間違った使い方をしなかった事を褒めた。
「ジャメル、あなたに褒められると、何だか逆に絶望的気分になるわ」
レナは、もう何が何だか分からなくなった。
数日後、レナは警備隊幹部候補としてアン、レオンと共に国境付近の警備に向かう事になった。
任期は二週間。
人気終了後、レナはコサムドラ国王女として、リエーキ国国王に挨拶に行く事も決定した。
リエーキ国は、コサムドラ国以外とは国交がなく、非常に閉鎖的な国である。
だからこそだろう、他国から攻め込まれるような隙すら無い。
「何か得るものがあるかもしれないわね」
周辺には、隙あらば攻めてこようとする国が有るのだ。
国を守るためなら、学べるものは何処からだろうと、学ばなければ。
出発前日、カーラとの約束を実行する時が来た。
「いいカーラ、私はこの荷物を部屋に忘れて警備隊幹部室に行くわ。私が着いた頃を見計らって、この荷物を持ってきて頂戴」
「はい」
カーラは、レナに手渡された荷物を抱きしめた。
「私はアンを連れて早々に部屋を出るから、レオンに荷物を預けるの。その時がチャンスよ!」
「わ、分かりました!」
既に、カーラの手は震え、緊張で汗までかいていた。
レナは警備隊幹部室に到着早々に、アンを連れて幹部室を出た。
「レナ、何よ。どうしたのよ」
「お願い、静かにして!」
不審がるアンを無理矢理黙らせ、二人で物陰に隠れていると、レナの荷物を持ったカーラがやって来た。
レオンが、驚いた顔でカーラから荷物を受け取り、二人は少し言葉を交わしたようだった。
カーラが、弾むような足取りで戻って行くの確認して、レナとアンは幹部室に戻った。
「あ、レナ。君のメイドさんがコレを」
と、レナに荷物を渡すレオンの顔は少し緩んでいた。
「あら、ありがとう」
レオンの表情に、レナとアンは顔を見合わせて笑った。
翌朝、恋する乙女カーラと、ベルに見送られてレナは出発した。
「直ぐに追いつきますから」
レナが、リエーキ国国王に挨拶する際の付き添いメイドとして、ベルとカーラが後から来る事になっている。
「ちゃんとレオンに差し入れ持ってくるのよ」
カーラにそっと耳打ちすると、カーラは真っ赤になってしまった。
リエーキ国との国境のドプトス村に到着した。
レナの暮らした田舎町プルスとは違い、隣国との貿易で人通り賑やかな村だった。
「こんなに賑やかなのに、村、なの?」
アンが目を丸くして、人の往来を見ている。
「アン、ここの人口は非常に少ないんだよ。今、僕達の目の前の人達はここの人じゃない。他の街や村から隣国との貿易の為に来ている人だよ」
レナが、レオンの後に続いた。
「ここの村は、主にやって来る人達の飲食や宿泊で生計が成り立っているのよね」
「何よ、二人して。人を勉強不足みたいに」
アンが拗ねてしまった。
「でも、私が育った街よりも賑やかよ」
レナも、少し驚いていた。
こんなに沢山の人から、ハンスを見つけ出せるかしら……。
レナ達3人に任せられた仕事は、2人組になで村を国境付近を交代で巡回し、何かあれば直ぐに国境警備本部に報告する事だった。
レナの相棒は、ドプトス村出身のゴージェと言う屈強な男だった。
「レナ姫様の安全は、このゴージェにお任せください!」
ゴージェの大きな声に、先が思いやられた。




