勘違い アンが犯人?
●レナ…主人公。コサムドラ国皇女・魔人
●エヴァ…レナの親友
●ギード(ハンス)…魔人・ムートル国第二王子。ブルーノの弟。
●カリナ…ベナエシ国王女。ルイーズの義姉
●アミラ…レナの母・故人。
●リンダ…アミラの従姉妹。ギードの母。魔人。
●アンドレ…レナの父。コサムドラ国、国王。
●エリザ…レナのお付。魔人。
●ジャメル…エリザの兄・高級役人・魔人
●ルイーズ…レナの祖母
●ドミニク老人…コサムドラの高級役人
●ドミニク王子…ムートル国第三王子。ブルーノの弟。ドミニク老人とは遠縁。
●ブルーノ…ムートル国国王。
●レオン…レナの幼馴染。レナの事が好き。
●ドナルド・クレマン…野心家。元高級役員。レナを陥れようとし失脚。
●クリストフ…コサムドラ国古城の老兵。ベルの夫。
ベルが、ベナエシ国から、コサムドラに戻ってきた。
ベルに取り寄せてもらった本で、レナは真実に一つ近付いた。
その一方レナの魔力は益々強くなり、アンの衝撃の秘密を知ってしまった……。
「アンですか?」
思いもしなかった名前に、ジャメルも困惑を隠せない。
「そうなの。でも、私の見たものが本当かどうか、自信がなくて……」
まさかアンが、そんな訳ないじゃない。
あんな正義感と真面目の塊の様なアンが……。
「分かりました。念のため、用心はしてください。後は私が調べましょう」
間違いであってほしい。
レナは思わず祈った。
「おはよう、レナ!」
いつもと変わらず、自信に満ちたアンの心を思わずレナは見てしまった。
ほら、やましい所なんて一つもないわ。
「ん? レナ、どうかした?」
つい、まじまじとアンの顔を見つめてしまっていたらしい。
「なんでもないの、アンはいつも元気だなーと思って」
「どうせ、元気だけだが取り得って言いたいんでしょ」
ごく普通の十五歳の少女二人の姿だった。
ジャメルは、アンの事を調べ始めた。
成績優秀、身内にも問題のある者は居ない。
そもそも、そのような経歴の者が城の中で働くなど絶対に不可能なのだ。
と言う事は、アン自身が身を落としてしまったと言う事だ。
今までに、そんな事例が無かったわけではない。
様々な理由で生活に困り、生活の為にしてはいけない行為をする。
そんな事、今まで散々見てきた。
しかし、今回は事情が違う。
人が殺されたのだ。
アンの交友関係も調べてみなければ……。
いくら本人や家族に問題が無くても、その周辺はそうでもない事もある。
警備隊幹部室の女性は、アンとレナだけである。
アンは、初の女性幹部候補として採用された、言わば生え抜きなのだ。
父は元警備隊幹部だったが、アンが三歳の頃事件に巻き込まれ殉職した。
自慢の父の後を追うべく、アンはコサムドラ国初の警備隊幹部を目指した。
もし幹部がダメなら、現場でもかまわない。
現場から上り詰めてやる。
アンの鼻息は荒かった。
採用が決定した時、アンは母と手を取り合って喜び、涙を流した。
あの後、ジャメルからアンの事に関して何も報告はない。
やっぱり、アンは事件とは無関係だったんだ。
きっと、疲れて変な物を見てしまったんだわ。
そんなアンが警備計画書を警備隊以外の者に渡すなんて、絶対にありえない。
レナは毎晩深夜になるとベルが取り寄せてくれたベナエシ国の歴史書と、リンダの遺した魔人皇族の歴史書を並べ読み比べていた。
この作業は、カーラが下がった後にしか出来ない。
「この歴史書で知った事を、例え魔人である私にも、口にしてはなりません」
ジャンルは、本の魔力を警戒していた。
恐らく、代々この本の持ち主が手を変え品を変え魔力を発揮したから、ここまで現存したのだ。
迂闊な扱いは出来ない。
じゃぁ、どうしろと言うのか。
レナやハンス、そしてリンダや母アミラの先祖魔人皇族の国ナカジア国を滅ぼしたのは、レナの祖母ルイーズの母国ベナエシ国だ。
こんな事実、知ってどうなると言うのか。
レナは、頭を抱えた。
数日後、午前の公務を終えて、自室に戻ったものの幹部室に忘れ物をしたレナは、再度警備隊へ戻った。
「では、今週もよろしくお願いします。変更等ありましたら、直ぐお知らせします」
アンの声だ。
レナは思わず物陰に隠れた。
「了解です」
そう言って、幹部室から出てきたのはレナが見たあの男だった。
男の手には、各要人の警備計画書が握られていた。
どう言う事……。
まさかアン、あなた……。
無関係だと思っていたアンが、やはりあの男と繋がっていた。
突然の出来事に、物陰から動けなくなったレナに、アンの方が気付いた。
「あら、レナ、どうしたの?」
「アン、今の人……誰?」
「今の人、ああ、整備部の人よ」
それが、どうかしたの?
アンは、特に気にする様子もない。
「警備の契約書を渡してた?」
もう、直接聞くしかない。
「そうよ。どうしたの、レナ。あなた、何か変よ」
「どうして整備部の人が計画書を?」
アンは、一瞬驚いた顔した直後に、笑い出した。
「何を深刻な顔をしてるのかと思えば」
「だって……」
「馬車を警備に合わせて整備するのよ? 警備の計画書を持ってるのは当然でしょ」
「そ、そうよね!」
良かった、あの男は部外者ではなかったのだ。
ジャメルに報告、アンは全く無関係だったと報告しなければ。
「それは良かった」
幾ら調べてもアンの周辺からは、怪しい人物は出てこなかった。
かと言って、レナの見たものが間違いだとも思えないほどレナの魔力は確実に強くなっている。
「念のため、その整備部の者も調べておきましょう。それと」
「それと?」
ジャメルは、レナに報告すべきかどうか悩んだ。
しかし、もし本当に事件に魔人が係っているのであれば、レナにも警戒をしてもらわなければ。
「ギード、いや、ハンスでしたかな。目撃されました」
「どこで!」
レナは、感情を抑える事が出来なかった。
しかし、この感情が何なのか良く分からなかった。
レナにはハンスが何処に居るのか、生きているのかすら分からないと言うのに、目撃した人間がいるなんて。
生きていてくれて嬉しいのか、姿を現さない事に怒っているのか、さっぱり自分が分からない。
「コサムドラと、隣国リエーキ国の国境付近の村です」
「リエーキ国……」
聞いたことは有る。
非常に閉鎖的な国で、近隣諸国では唯一コサムドラと友好関係にあるだけで、他の国とは一切の国交と断っているのだ。
「どうやら、一緒に目撃されたのはドナルド・クレマンのようです」
またドナルド……。
先日城に乗り込んで来たのと、何か関係があるのだろうか。
しかし、ハンスはドナルドの事は利用するだけで、それほど重要視した関係とは思っていない様子だった。
また、今回もドナルドを利用しようとしているのだろうか。
それとも、ジャメルの思うように、今回の事件はドナルドとハンスが企てた事なのだろうか。
「リエーキ国との国境付近の警備を、強化させましょう」
「もう、リエーキ国に入ってしまっていたら、強化する必要はないんじゃないの?」
警備隊は、森の警備も増え手一杯なのだ。
「再び我が国に入ってくるかもしれません。その時に捕まえられるよう、強化するのです」
「捕まえるって、ハンスは何も悪い事はしてないわ」
レナは思わず、声を荒げてしまった。
「捕まえて、ここへ連れてくれば姫君も少しは気持ちが落ち着くのでは?」
確かに、今目の前にハンスが現れてくれれば、聞きたい事も聞ける、言いたい事も言える。
でも……。
「何か、捕まえて連れて来るって、凄く横暴」
「それが、国と言う組織ですよ」
レナそれ以上何も言えなかった。
翌日、国境付近の警備強化が発表された。
しかし、特別危険のある地域ではない。
要注意人物が目撃された、と言うだけだ。
「犯罪者でもない要注意人物なんて、そんな理由で警備強化って、変だよ」
レオンも首をかしげた。
本当の理由を知っているのは、ジャメルとアンドレそしてレナだけなのだ。
「どうだろう、幹部候補の二人、現場へ出てみないか」
「はい!」
警備隊隊長ディーンの提案に、アンとレオンは快諾した。
「隊長、私も行きます!」
まさかのレナの申し出に、ディーンは目を丸くした。
「レナ様を現場へ、ですか?」
「はい!」
誰よりも早く、私がハンスを見つけるの。
私なら、それが出来る。
「この件は一度、国王に伺ってみないと、私では判断できないので、一度保留にしよう」
いつもは威厳に満ちたディーンも、すっかり困ってしまった。
「分かりました、国王には私自身が話しをします」
レナには、父を説得できる確信があった。
危険など微塵もない。
なぜなら、レナには魔力がある。




