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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
守りの15歳
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老人の死 レナの決意

●レナ…主人公。コサムドラ国皇女・魔人

●エヴァ…レナの親友

●ギード(ハンス)…魔人・ムートル国第二王子。ブルーノの弟。

●カリナ…ベナエシ国王女。ルイーズの義姉

●アミラ…レナの母・故人。

●リンダ…アミラの従姉妹。ギードの母。魔人。

●アンドレ…レナの父。コサムドラ国、国王。

●エリザ…レナのお付。魔人。

●ジャメル…エリザの兄・高級役人・魔人

●ルイーズ…レナの祖母

●ドミニク老人…コサムドラの高級役人

●ドミニク王子…ムートル国第三王子。ブルーノの弟。ドミニク老人とは遠縁。

●ブルーノ…ムートル国国王。

●レオン…レナの幼馴染。レナの事が好き。



城に戻ったレナの目の前に、消えたはずの魔人皇族の歴史書が現れた。

 分厚く古い本数冊を前に、レナは溜息をついた。

 ジャメルが考え得る限りの事を試みたが、文字は姿を現さなかった。

「私が書き写せば良いのかしら。それとも、声に出して読みましょうか?」

 どちらにせよ、とてつもなく厄介な作業になりそうだ。

「安易な事は止めておきましょう」

 ジャメルはレナの提案を否定した。

 迂闊な事をして、再び本が姿を消してしまっては元も子もない。

「先ずは姫君に、全てを読んで頂きましょう」

 確かに、それが一番の策だろう。

 レナも、納得せざるを得なかった。

 この本は、本自身が持つ者、読む者を選ぶのだ。

 それだけ何か、重要な事が書かれているはずだ。



 レナがカリナから命を狙われた事は、国内でもごく一部にしか伝えられなかった。

 流石のレナも、それが表沙汰になれば騒ぎになる事くらいの予想はついた。

 改めて母アミラが、自分を普通の女の子として育てた理由が分かった気がした。

 あのまま街の片隅で母と二人暮らし続けていれば、こんな事態にならなかったのだから。



 コサムドラでは王座に着く立場の者は、十五歳から公職に就かねばならなかった。

 十五歳になったレナは、本格的に公職に就き、国を治めるという事を学ぶ必要に迫られた。

 女王カリナのいなくなったベナエシ国ではルイーズが帰国し、王座についているが、ルイーズも高齢である。

 国の混乱期をチャンスと捉え、他国の領土を奪い取ろうとする国への警戒も不可欠で、アンドレはこれまで以上に多忙になる。

 出来れば、レナに少しでも国を治める経験を積んでいて欲しい。

 しかし、誰に似たのかレナには少々無鉄砲に行動するきらいがある。

 今回の誘拐騒動も、元を辿ればレナが自ら城を出て行動した事がきっかけなのだ。

 レナの公務先の決定も、アンドレの懸案事項になってしまった。



「やはり、慣例通り警備隊が良いのだろうか。レナは女の子だから、警備隊の様な危険な仕事は避けさせた方が良いのだろうか」

 アンドレは、レナをベナエシ国にいるルイーズに預けるのも一つの手だとは思っていた。

「姫君は、自ら危険に飛び込む癖をお持ちの様ですので、警備隊で自らを守る術を学ぶのが一番かと」

 ジャメルの言葉に、レナが機嫌を悪くした。

「そんな癖、ありません」

 アンドレは、レナが一番したいと思う公務から経験すれば良いと考えていた。

「警備隊には、幹部候補にレオンが居るはずなの。あまり近付かないほうが良いと思うの」

 エヴァとの関係が悪くなってしまい、せめてレオンとの関係くらいは変わらず保っておきたった。

「それは一理ありますね」

 珍しくジャメルがレナに同調した。



 結論の出ないまま、レナは自分の部屋でリンダの遺した本を開いた。

 国の位置を示した地図を見たレナの心臓が、大きく跳ねた。

「これ、ベナエシ国……よね」

 ジャメルに報告をしようと立ち上がった時、それは起きた。



 レナは廊下に飛び出しジャメルの部屋に向かった。

 ジャメルも、同様に部屋を飛び出していた。

「姫君! 姫君も気付かれましたか!」

「何、今のは何?」

「ドミニクに、何かが起きたようです」

 


 ドミニクの亡骸が、城に運ばれてきた。

 傍らには、小さなドミニク王子と妻のグリットが寄り添っていた。

 レナが姿を現すと、ドミニク王子が駆け寄ってきた。

「レナ、ごめん、僕、じいちゃんを守れなかった」

「ドミニク、一体なにがあったの」

 ドミニク王子の顔は、ドミニク老人のものであろう血と涙で汚れていた。



「ばあちゃん、膝が痛いって言ったよ」

 祖父母の存在を知らずに育ったドミニクにとって、遠縁にあたるドミニクとグリットは祖父母そのものだった。

「そうですが、それはいけませんね。古城へ行って、ルイーズ様の薬草を分けていただきましょう」

 ここ数日忙しくしており、久しぶりの休みだった。

 二人のドミニクは警護もつけずに馬車で出かけてしまった。

 それに気がついたのは、森に入ってしばらくしてだった

「ねえ、おじちゃん。さっきから、ずっとついて来てるよね」

 ドミニク王子に言われるまで、全く気がつかなかった。

 王子を連れていると言うのに、警備の一人もつけず出て来た事自体が老いの証明だろう。

「王子、城に忘れ物をしたようです。一度引き返しましょう」

 ドミニクは、馬車の方向を変えた。

「おじいちゃん?」

 突然一言も話さなくなったドミニクの様子に、ドミニク王子も何かを察した。

 ついて来ていた怪しい馬車とすれ違う寸前、ドミニク言った。

「もし何かあったら、王子がこの手綱を握って、振り返らずに一目散に来た道を戻って下さい」

 馬車が、すれ違おうとした時、怪しい馬車から御者をしていた大きな男が、飛び移ってきた。

「ドミニク、走るんだ!」

 ドミニク老人は、そう言って、大きな男に飛び掛り、二人はもみ合いながら馬車から落ちた。

「城の者に伝えるんだ! 振り返ってはいけない!」

 ドミニク老人が叫んだ時、怪しい馬車から男たちが今にもドミニクが手綱を握る馬車に近付こうとしていた。

「僕、必ず戻ってくるから!」

 ドミニク王子は、震える手で手綱を握り、馬車を走らせた。



 ドミニク王子が城に戻り、報告を受けた警備隊が森へ向かったが、そこには亡骸になったドミニク老人だけが残されていた。

 亡骸にすがり付いて鳴く王子の姿は、動向した警備隊の涙を誘った。

 その中には、レオンの姿もあった。



「最後に王子をお守りできて、本望だと思います」

 妻のグリットは葬儀の挨拶で、そう言った。

 皆が涙を流し、コサムドラ国の功労者ドミニク老人の死を悼んだ。

 アンドレ、レナ、ドミニク王子も参列した。

 レナは、多くの参列者の中に、唯一ドミニク老人の死を悼んでいない参列者に気がついた。

 ドナルド・クレマンだった。

 レナの中に、クレマンに対する憎悪の気持ちが沸いた。



 結局犯人は見付からなかった。

「僕は、顔を覚えてるんだ。僕も犯人探しを手伝う」

 ドミニク王子の申し出は、聞き入れられる事もなく、ムートル国へ帰る事が決まった。

 預かっていた王子の命を、危険に晒したのだ。

 これ以上、預かる事は出来ない。

 レナは、ドミニク王子の記憶を覗き犯人の顔を見た。

「ドミニク、それは私にまかせて。手伝って欲しい時は、必ず言うわ。だって馬車でたった三時間よ」

 ドミニク王子は、レナの説得で帰国する事を承諾した。



 ドミニク王子を送り出したレナは、その足で父の働く執務室へ向かった。

「お父様、森の警備はどうなっているのです」

 アンドレは、レナの勢いに気圧されてしまった。

「ベナエシの事があって、定期的に森を巡回していた警備隊を、国境警備の応援に出したんだよ」

「そんな……」

「安易な解決法だと思うかい」

 分からない。

 レナには、何をどうすれば国を守り人を守れるのか、分からなかった。

「それは……」

「実際に経験して、学ぶのも良いけれどね」

 アンドレの言葉に、レナは決心した。

「お父様、私、警備隊に公務へ行きます」

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