再びの友情 しかしまた……
●レナ…主人公。コサムドラ国皇女・魔人
●ブルーノ…ムートル国国王
●エヴァ…レナの親友
●ハンス(ギード)…魔人・ムートル国第二王子
●カリナ…ベナエシ国王女。ルイーズの義姉
●アミラ…レナの母・故人。
●ハンナ…ベナエシ国の高齢メイド
●リンダ…アミラの従姉妹。ギードの母。魔人。
●アンドレ…レナの父。コサムドラ国、国王。
●エリザ…レナのお付。魔人。
●ジャメル…エリザの兄・高級役人・魔人
●ルイーズ…レナの祖母
●ベル…レナの元付き人。その前は祖母ルイーズの付き人だった。
●ナナ…ムートル国食堂店主
レナは、リンダが幽閉されていた地下牢でリンダの日記を発見したが……
「きっと、お父様やお母様が片付けておしまいになったのよ」
リンダに関する物は何も見付からず、肩を落とすブルーノをそう言って励ました。
レナ本人はあのぎっしりと詰まった本が、どこへ消えてしまったのか、見当も付かずどうするべきか悩んでいた。
隠したはずのリンダの日記まで、消えてしまったのだ。
結局、レナも夜の内に地下牢から出た。
手掛かりは、全て消えてしまったのだ。
ハンスが生きている事、いつか必ず戻るという事をブルーノに伝えた。
もう、この宮殿でするべき事は無い。
レナは決心した。
このムートル国で残されているするべき事は、エヴァだ。
ブルーノに頼んで、信頼できる御者を読んでもらった。
「突然の訪問でしたのに、ありがとうございました」
ブルーノに礼を言った。
「御礼を言うべきは、私の方です。ハンスの事、ずっと気掛かりでした。レナ様のおかげで胸のつかえが取れたようです」
ブルーノは、ハンスが生きていた事を本当に喜んでいた。
「例え魔人の血を引こうとも、僕の弟である事には違いないのですから」
ブルーノの言葉に、レナは安心した。
ハンス、もういつ戻って来ても平気よ。
ブルーノと別れて一時間後、レナはハンスと初めて会った広場にいた。
まだ、あの時からそれ程の時間は流れていないはずなのに、すっかり変わっていた。
怪しい人達の場所から、働く男達の場所に様変わりしていたのだ。
ハンスは、エヴァがここに居ると言っていた。
仕事を終えた男たちが食事をする店が立ち並び、どの店も繁盛しているようだった。
一体、ここの何処にエヴァがいると言うのだろうか。
途方に暮れていると、一軒の食堂から、じゃがいもを山のように入れた桶を持った少女が出て来た。
「エヴァ!!」
レナは、後先考える暇もなく走り出した。
名前を呼ばれた少女は声の方を見ると、一瞬大きく目をみ見開き、手に持っていた桶を落とした。
足元には、洗ったばかりの芋が転がった。
「レナ……!」
気づいた時には、エヴァはレナと手を取り合って再会を喜んでいた。
「レナ、私レナにひどい事を……」
我に返ったエヴァは、レナから一歩離れた。
「あれはエヴァが悪いんじゃないわ」
レナは説くように言った。
あれ、ギードの仕業よ。
ハンスじゃない、ギードよ。
今は言えないけれど、いつかエヴァにも本当の事言える日が来る。
そう信じてる。
「それに、ほら! 私は元気なのよ」
レナは、エヴァの目の前で飛び跳ねて見せた。
エヴァが呆気に取られてレナを見ていると、店からナナが出てきた。
「やっと、お迎えが来たみたいだね。ギードから聞いてるよ。そんな所で、騒いでないで中に入りなよ。あ、芋は拾ってよ」
ナナは、それだけ言うと店の中に戻ってしまった。
レナとエヴァは、急いで芋を拾いナナの後を追った。
「これ、ギードから預かってたんだよ」
と、ナナが差し出したのは、コサムドラでエヴァが任されていた店の書類だった。
「店の名義が、私になってる」
エヴァは、書類を何度も確認した。
「何の書類か知らないけどさ、任せたって言ってたよ」
レナも顔を赤くして興奮している。
「エヴァ、良かったわね!」
「良くないよ」
ナナが、頭を抱えていた。
「エヴァ、あんたが国に帰ったらウチのキッチンは誰が仕切るんだい」
レナとエヴァは、顔を見合わせて笑った。
後二時間、馬車で走ればコサムドラの城に着く。
しかし、二人は城へは向かわず、二人の故郷プルスに向かっていた。
「ねぇ、レナ。本当にお城に戻らなくて良いの?」
一緒に両親に事情を説明してくれるのは嬉しいけれど、一国の王女を連れまわしてしまって良いのだろうか。
「良いの。エヴァを巻き込んでしまったのは、私なんだもの。エヴァのパパとママには、私が謝るべきだもの」
親友はいつの間にか嫉妬の対象になり、手の届かない人になってしまったと思っていた。
でも、レナ自身は何も変わっていないのだ。
無駄な対抗心を燃やしてしまった自分を恥じた。
レナに何があったのかは知る由も無いが、何か危険な目にあったに違いない。
少なくとも私に大怪我をさせられたんだもの。
可愛そうなレナ。
「エヴァ、どうしたの? 変な顔してるわよ?」
「変な顔って何よ、失礼ね」
と、二人は顔を見合わせて笑った。
馬車の中は、十五歳の少女二人の笑声と笑顔で溢れた。
自宅に戻ったエヴァの顔を見た母は、息を呑んだ。
そして、何かを言おうとしたが、言葉が出てこず無言で娘を抱きしめた。
レナは、エヴァが羨ましいと思った。
自分にはこうして抱きしめてくれる母は、もう居ない。
失いつつある魔力を補う為に、命を狙う大おば様ならいるけどね、思わず自嘲すらしてしまう。
「レナ、どうしてレナもいるの? レナも一緒だったの?」
「おばさん、ごめんなさい。エヴァを巻き込んだのは私なの」
「どう言う事?」
エヴァの母の目が、敵を見るような視線に変わったのをレナは見逃さなかった。
城へ向かう馬車の中で一人になった、レナは涙を流していた。
もうエヴァとは係らない、そう決めた。
エヴァの母の、敵を見るような視線が一変した。
「レナ、あなた王女様だったの!?」
「本当にごめんなさい。私もママが亡くなるまで知らなかったの」
「そうだったのね」
そう言うエヴァの母の目は、レナを慈しむかのような目に変わっていった。
「どうしてもエヴァに手伝って欲しい事があって、城に無理矢理連れて行ってしまったの」
「そうだったの。うちの、エヴァでお役に立てたのかしら?」
「もちろん……」
レナを見る、エヴァの母の目が羨望に変わり始めた。
これ以上嘘をつき続ける自信がなくなってきたレナは、話題を変えようとした。
「エヴァには、街のカフェに戻ってもらいます。本当に、ご迷惑を掛けてごめんなさい」
これで話を終わらせようとした。
が、エヴァの母の城に対する憧れは相当なものだった。
「あんなカフェ、城で働く方がよっぽど有意義なのにねぇ」
エヴァが表情を硬くした。
あんなカフェ……。
何一つ誇れるものが無かったエヴァの、唯一の誇りカフェを母に否定された。
繁盛していた時は、あんなに喜んでいたのに。
「じゃぁ、又ねエヴァ」
「うん」
レナもエヴァも、馬車の中ではあんなに楽しかった事が、嘘のような気不味い気持ちになった。
そして、馬車に乗り込むレナを見送るエヴァの心をレナは見てしまった。
『ただ国王の子に生まれたってだけじゃない』
出来る事なら、代わって欲しいわよ。
レナは大声で叫びそうになった。
叫ばない代わりに、出たのは涙だった。
こんな泣き腫らした顔で城に戻ったら、お父様が心配なさるわね。
レナは馬車の中で、大きく深呼吸をした。




