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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
守りの15歳
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再びの友情 しかしまた……

●レナ…主人公。コサムドラ国皇女・魔人

●ブルーノ…ムートル国国王

●エヴァ…レナの親友

●ハンス(ギード)…魔人・ムートル国第二王子

●カリナ…ベナエシ国王女。ルイーズの義姉

●アミラ…レナの母・故人。

●ハンナ…ベナエシ国の高齢メイド

●リンダ…アミラの従姉妹。ギードの母。魔人。

●アンドレ…レナの父。コサムドラ国、国王。

●エリザ…レナのお付。魔人。

●ジャメル…エリザの兄・高級役人・魔人

●ルイーズ…レナの祖母

●ベル…レナの元付き人。その前は祖母ルイーズの付き人だった。

●ナナ…ムートル国食堂店主


レナは、リンダが幽閉されていた地下牢でリンダの日記を発見したが……


「きっと、お父様やお母様が片付けておしまいになったのよ」

 リンダに関する物は何も見付からず、肩を落とすブルーノをそう言って励ました。

 レナ本人はあのぎっしりと詰まった本が、どこへ消えてしまったのか、見当も付かずどうするべきか悩んでいた。

 隠したはずのリンダの日記まで、消えてしまったのだ。



 結局、レナも夜の内に地下牢から出た。

 手掛かりは、全て消えてしまったのだ。

 ハンスが生きている事、いつか必ず戻るという事をブルーノに伝えた。

 もう、この宮殿でするべき事は無い。

 レナは決心した。

 このムートル国で残されているするべき事は、エヴァだ。



 ブルーノに頼んで、信頼できる御者を読んでもらった。

「突然の訪問でしたのに、ありがとうございました」

 ブルーノに礼を言った。

「御礼を言うべきは、私の方です。ハンスの事、ずっと気掛かりでした。レナ様のおかげで胸のつかえが取れたようです」

 ブルーノは、ハンスが生きていた事を本当に喜んでいた。

「例え魔人の血を引こうとも、僕の弟である事には違いないのですから」

 ブルーノの言葉に、レナは安心した。

 ハンス、もういつ戻って来ても平気よ。



 ブルーノと別れて一時間後、レナはハンスと初めて会った広場にいた。

 まだ、あの時からそれ程の時間は流れていないはずなのに、すっかり変わっていた。

 怪しい人達の場所から、働く男達の場所に様変わりしていたのだ。

 ハンスは、エヴァがここに居ると言っていた。

 仕事を終えた男たちが食事をする店が立ち並び、どの店も繁盛しているようだった。

 一体、ここの何処にエヴァがいると言うのだろうか。

 途方に暮れていると、一軒の食堂から、じゃがいもを山のように入れた桶を持った少女が出て来た。

「エヴァ!!」

 レナは、後先考える暇もなく走り出した。

 名前を呼ばれた少女は声の方を見ると、一瞬大きく目をみ見開き、手に持っていた桶を落とした。

 足元には、洗ったばかりの芋が転がった。

「レナ……!」

 気づいた時には、エヴァはレナと手を取り合って再会を喜んでいた。

「レナ、私レナにひどい事を……」

 我に返ったエヴァは、レナから一歩離れた。

「あれはエヴァが悪いんじゃないわ」

 レナは説くように言った。

 あれ、ギードの仕業よ。

 ハンスじゃない、ギードよ。

 今は言えないけれど、いつかエヴァにも本当の事言える日が来る。

 そう信じてる。

「それに、ほら! 私は元気なのよ」

 レナは、エヴァの目の前で飛び跳ねて見せた。

 エヴァが呆気に取られてレナを見ていると、店からナナが出てきた。

「やっと、お迎えが来たみたいだね。ギードから聞いてるよ。そんな所で、騒いでないで中に入りなよ。あ、芋は拾ってよ」

 ナナは、それだけ言うと店の中に戻ってしまった。

 レナとエヴァは、急いで芋を拾いナナの後を追った。



「これ、ギードから預かってたんだよ」

 と、ナナが差し出したのは、コサムドラでエヴァが任されていた店の書類だった。

「店の名義が、私になってる」

 エヴァは、書類を何度も確認した。

「何の書類か知らないけどさ、任せたって言ってたよ」

 レナも顔を赤くして興奮している。

「エヴァ、良かったわね!」

「良くないよ」

 ナナが、頭を抱えていた。

「エヴァ、あんたが国に帰ったらウチのキッチンは誰が仕切るんだい」

 レナとエヴァは、顔を見合わせて笑った。



 後二時間、馬車で走ればコサムドラの城に着く。

 しかし、二人は城へは向かわず、二人の故郷プルスに向かっていた。

「ねぇ、レナ。本当にお城に戻らなくて良いの?」

 一緒に両親に事情を説明してくれるのは嬉しいけれど、一国の王女を連れまわしてしまって良いのだろうか。

「良いの。エヴァを巻き込んでしまったのは、私なんだもの。エヴァのパパとママには、私が謝るべきだもの」

 親友はいつの間にか嫉妬の対象になり、手の届かない人になってしまったと思っていた。

 でも、レナ自身は何も変わっていないのだ。

 無駄な対抗心を燃やしてしまった自分を恥じた。

 レナに何があったのかは知る由も無いが、何か危険な目にあったに違いない。

 少なくとも私に大怪我をさせられたんだもの。

 可愛そうなレナ。

「エヴァ、どうしたの? 変な顔してるわよ?」

「変な顔って何よ、失礼ね」

 と、二人は顔を見合わせて笑った。

 馬車の中は、十五歳の少女二人の笑声と笑顔で溢れた。



 自宅に戻ったエヴァの顔を見た母は、息を呑んだ。

 そして、何かを言おうとしたが、言葉が出てこず無言で娘を抱きしめた。

 レナは、エヴァが羨ましいと思った。

 自分にはこうして抱きしめてくれる母は、もう居ない。

 失いつつある魔力を補う為に、命を狙う大おば様ならいるけどね、思わず自嘲すらしてしまう。

「レナ、どうしてレナもいるの? レナも一緒だったの?」

「おばさん、ごめんなさい。エヴァを巻き込んだのは私なの」

「どう言う事?」

 エヴァの母の目が、敵を見るような視線に変わったのをレナは見逃さなかった。



 城へ向かう馬車の中で一人になった、レナは涙を流していた。

 もうエヴァとは係らない、そう決めた。



 エヴァの母の、敵を見るような視線が一変した。

「レナ、あなた王女様だったの!?」

「本当にごめんなさい。私もママが亡くなるまで知らなかったの」

「そうだったのね」

 そう言うエヴァの母の目は、レナを慈しむかのような目に変わっていった。

「どうしてもエヴァに手伝って欲しい事があって、城に無理矢理連れて行ってしまったの」

「そうだったの。うちの、エヴァでお役に立てたのかしら?」

「もちろん……」

 レナを見る、エヴァの母の目が羨望に変わり始めた。

 これ以上嘘をつき続ける自信がなくなってきたレナは、話題を変えようとした。

「エヴァには、街のカフェに戻ってもらいます。本当に、ご迷惑を掛けてごめんなさい」

 これで話を終わらせようとした。

 が、エヴァの母の城に対する憧れは相当なものだった。

「あんなカフェ、城で働く方がよっぽど有意義なのにねぇ」

 エヴァが表情を硬くした。

 あんなカフェ……。

 何一つ誇れるものが無かったエヴァの、唯一の誇りカフェを母に否定された。

 繁盛していた時は、あんなに喜んでいたのに。

 


「じゃぁ、又ねエヴァ」

「うん」

 レナもエヴァも、馬車の中ではあんなに楽しかった事が、嘘のような気不味い気持ちになった。

 そして、馬車に乗り込むレナを見送るエヴァの心をレナは見てしまった。

『ただ国王の子に生まれたってだけじゃない』

 出来る事なら、代わって欲しいわよ。

 レナは大声で叫びそうになった。

 叫ばない代わりに、出たのは涙だった。



 こんな泣き腫らした顔で城に戻ったら、お父様が心配なさるわね。

 レナは馬車の中で、大きく深呼吸をした。


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