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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
守りの15歳
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ブルーノの記憶 美しい歌声

●レナ…主人公。コサムドラ国皇女・魔人

●ブルーノ…ムートル国国王

●エヴァ…レナの親友

●ギード(ハンス)…魔人・ムートル国第二王子

●カリナ…ベナエシ国王女。ルイーズの義姉

●アミラ…レナの母・故人。

●ハンナ…ベナエシ国の高齢メイド

●リンダ…アミラの従姉妹。ギードの母。魔人。

●アンドレ…レナの父。コサムドラ国、国王。

●エリザ…レナのお付。魔人。

●ジャメル…エリザの兄・高級役人・魔人

●ルイーズ…レナの祖母

●ベル…レナの元付き人。その前は祖母ルイーズの付き人だった。


ベナエシ国からムートル国に向かったレナ。

行方をくらませた恋人ハンスと大おばカリナは、どこにいるのか…

そして、レナ、ハンス、カリナの秘密が明らかになる。


 ムートル国に入ったレナは、本心は直ぐにでもエヴァの元へ行きたかったが、最初に宮殿を訪ねた。

 突然の訪問にもかかわらず、ブルーノは快く迎え入れてくれた。

「驚きました。レナ様は、ご病気だと聞いておりました」

 すっかり国王らしくなったブルーノは、公務の合間に時間を作ってくれた。

「ドミニクは、ご迷惑をおかけしておりませんか」

「とてもお行儀良く、過ごしておられるようです」

 レナの言い方に、ブルーノは怪訝な顔をした。

 自らの目で見た物言いではない。

「実は行方不明のハンス王子のお母様の件で、参りました」

 ブルーノが何か知っているのであれば、これだけで充分言いたい事は通じるはずだ。

 一瞬、ブルーノの表情が一瞬固まったのを、レナは見逃さなかった。

「今は少し時間がありません。部屋を用意させますので旅の疲れを癒して下さい」

 時間をくれと言う事だろうか。

「ありがとうございます」

 レナは待つ事にした。

 それしか選択肢はない。

「では、夕食まで失礼」

 ブルーノは、足早に去って行った。



 ベナエシ国のハンナが用意してくれた馬車は、ここまでとなった。

 次に発つ日まで待つ、と御者のウェンツは言ってくれたが、流石にそうもいかない。

 それに、このムートル国宮殿からコサムドラ国の城までは馬車で3時間程だ。

「ありがとう、ウェンツさん。ハンナによろしくね」

「あぁ、元気でなレナちゃん」

 ウェンツを見送ったレナは、ブルーノの用意してくれた部屋で身体を伸ばした。

 この国に、エヴァも居るのね。

 早く訪ねて行きたい。

「夕食は、食堂ではなくブルーノ様のお部屋にご案内いたします」

 メイドか告げに来た。

 他に聞かれないようにする為だろう。

「分かりました」

 やはり、ブルーノは何かを知っているのだ。



 メイドに案内されたブルーノの部屋は、宮殿の中でも広い部屋だった。

「どうぞ……」

 初めて会った時ですら見せなかった緊張した面持ちで、ブルーノはレナを出迎えた。

「広い部屋で、驚いただろう?」

「えぇ……」

 レナは気が付いていた。

 ここはブルーノの部屋じゃない。

 子供部屋だ。

「どうしても、ここで話がしたくて、ここに用意させたんだ」

 レナが話を切り出そうとすると、ブルーノに止められた。

「食事の後、ゆっくり聞かせて欲しい。後、もう少し心の準備がしたい」

 レナは、ブルーノに案内され夕食のテーブルに着いた。



「話しを聞かせてくれるかな」

 食事が終わると、ブルーノは言った。

「先ずは、5年前事故で行方不明になったハンス王子は、生きています」

 ブルーノの目に安堵の色が見えた。

「ハンスは、今はどこに? 何故、ここへ戻って来ないのです」

「それは……」

 何をどこまで話せばいいのだろうか。

 今ここで自分が魔人である事を、本当に知られてしまって良いのだろうか。

 レナは思わず言いよどんだ。

「レナ様は、何処までご存知なのでしょう」

「え?」

 ブルーノこそ、何処まで知っているのだろうか。

 魔力を使えばブルーノの心を見るくらい簡単な事だが、ここは他国なのだ。

 迂闊に魔力を使う事は、自分の首を絞める事にもなりかねない。

 事実、コサムドラでも魔人対策としてジャメルとエリザがいるのだ。

 ここ、ムートル国にもいないとは限らない。

 もし魔力を使えば、レナが魔人である事を自ら名乗りでるのと同じなのだ。

「両親とハンスが乗った馬車が、ベナエシ国へ向かった理由は……」

「ハンスの大おば様の居る、ベナエシ国ですね」

 谷に落ちた馬車が、向かっていた場所はベナエシ国だったのか。

 ハンスの人生は、馬車が谷に落ちなくても同じ結果だったのだ。

 ブルーノが立ち上がった。

「そこまでご存知でしたら、ご案内したい場所があります」

 ブルーノの表情からは、何もうかがい知る事は出来なかったが、ブルーノにとって楽しい場所ではない事だけはレナにも分かった。



 出来るだけ遠くに、もっと遠くに。

 カリナ様の意識が戻る前に、どれ程魔力を使っても、レナを感じる事が出来ないほど遠くに……。

 まだ、ダメだ。

 もっと遠くに、もっと……。



 ブルーノに案内されたのは、地下牢だった。

「ここは……?」

 かなり長く人が立ち入った形跡のない、天井高くに小さな窓が一つあるだけの地下牢。

 かつて女性が暮らしていた形跡をわずかに残し、時間が止まったような牢だった。

「ハンスの産まれた場所だ」

「え? ここで?」

 レナは思わず眉をひそめた。

 まだ十五歳のレナにでも、ここが子供を生み育てる事に適した場所でないことは分かった。

「五歳の頃の記憶なのに、何もかもが今起きたことのように、思い出せるんだよ。そして、あの悲劇を招いたのは僕なのかもしれない」

 ブルーノの視線は、古びた揺り椅子を見つめていた。



「絶対に、この階段の下へ行ってはいけません」

 両親からも乳母からも、きつく言いつけられていた。

 その階段の下からは、物凄く物凄く小さな歌声が聞こえていた。

「あれは、城に住む幽霊の仕業です。子供が近付くと取り憑かれてしまい、二度とご両親と会う事はかないません」

 そんな怖い場所が、何故この素晴らしい宮殿の中にあるのか。

 誰も、明確には答えてくれなかった。

 そして、階段の前に立ってしまった。

「ぼ、僕はムートル国第一王子のブルーノだぞ! 怖くなんか無いぞ!」

 階段の下に向かって叫んだ。

 ふっ、と歌声が途切れた。

「ブルーノ王子は、お強いんですね」

 とても優しい、囁くような声だった。

 ブルーノは驚いて、思わず逃げ出してしまった。



「僕は幽霊なんて、怖くないんだからな!」

 乳母に強がって言ってしまった事で、ブルーノは地下へ繋がる階段へ近付くことを禁止されてしまった。

 ところが、数日後、宮殿の周り散歩している最中に、あの歌声が聞こえてくる事に気が付いた。

 風に乗って聞こえてくるようで、ブルーノは大人の目を盗んで声の元を探した。

 それは、宮殿の外壁地面すれすれに造られた、小さな小さな空気口からだった。

 ブルーノは思わず、そこへ小さな手を差し入れた。

「その小さな美しい手は、ブルーノ王子かしら?」

 あの声だった。



「その空気口が、あの小さな窓?」

「そうだよ」

 リンダは、この地下牢で唯一の光を、あの小さな空気口から得ていたのだ。

「僕はリンダの歌が好きだったんだ」



「ねぇ、歌って」

 ブルーノは、空気口に向かっていった。

 すると、あの囁くような美しい歌声が聞こえてきた。

 歌声を聴きながら、ブルーノは近くにあった花壇から、花を一輪取ってきて空気口から下に落とした。

「まぁ、可愛らしいお花。ありがとう、ブルーノ王子!」

 こうしてリンダとブルーノの交流が、宮殿の片隅で始まった。

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