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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
旅の始まり14歳
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若い二人の誓い 老婆のたくらみ

●レナ…主人公。コサムドラ国皇女・魔人

●アンドレ…レナの父。コサムドラ国、国王。

●エリザ…レナのお付。魔人。

●ジャメル…エリザの兄・高級役人・魔人

●ルイーズ…レナの祖母

●ベル…レナの元付き人。その前は祖母ルイーズの付き人だった。

●エヴァ…レナの親友

●ギード…魔人・ムートル国第二王子

●カリナ…ベナエシ国王女。ルイーズの義姉

●アミラ…レナの母・故人。

●ハンナ…ベナエシ国の高齢メイド

●リンダ…アミラの従姉妹。ギードの母。魔人。


ベナエシ国に拉致されたレナ。

しかし、拉致実行犯のギードとは恋人になってしまう。

命の恩人カリナに命じられて、レナを探していたギード。

しかし、カリナの目的を知りながらレナに心引かれて、レナを守る決心をした。

何も知らないレナ。

カリナの目的は、何なのか。

 『ミロキオ 

   赤い花を咲かせる多年生植物。

   ただし、花びらに誓いが込められると、その生を終える』


「ほら、ミロキオの赤い花びらよ」

 拾い集めた花びらを、レナはギードの手に押し付けた。

「これを、どうするの?」

 さっき大量に出血したからだろうか、やけに胸がドキドキする。

 ギードは、味わったことのない気分になっていた。

 レナは、花びらを包んでいるギードの手を、自分の手で包み込んだ。

「私、レナ・デ・コサムドラは……、あら、ギード、あなた名前は?」

 そんな事も知らずに、レナはこんな誓いをしようとしてるのか。

 ギードは、レナの事が更に愛おしくなった。

 このまま、ずっと二人で居たい。

 しかし、それは許さない事なのだ。

「ハンス・オブ・ムートル。生まれた時に貰った名前だ」

 ギードではなく、ハンスとして、レナと出会いたかった。

 あの方の名付けた、ギードではなく。

「じゃぁ、もう一度」

「そんな、何度もやり直して効果はあるなかなぁ」

「そんなの、気の持ち様よ」

 レナの言い草に、ギードは思わず笑ってしまった。

「もぅ、笑わないで!」

「はいはい、すみません」

 レナは、ギードの手を握りなおした。

「私、レナ・デ・コサムドラは、ハンス・オブ・ムートルへの永遠の愛を、このミロキオの赤い花びらに誓います」

 レナは、次はあなたよ、とギードに目で合図した。

「私、ハンス・オブ・ムートルは、レナ・デ・コサムドラへの永遠の愛を、このミロキオの赤い花びらに誓います」

 ギードが言い終わった瞬間、ギードの手の中なら放たれた赤い光で染まり、更にその光は、ギードの手を包み込むレナの手も赤く染めた。

 そして、何事も無かったかのように、元に戻った。

「なに、今の。こんな事が起こるなんて、ハンナは教えてくれなかったわ」

 レナが、ギードの手を離すと、ギードの手の中にあった筈の花びらが、一枚も無かった。

 魔力を扱うハズの二人が、目を丸くしてお互いを見た。

「レナ、何かした?」

「私はなにも、ギードは?」

「僕も。あと、レナだけは僕をハンスと呼んでほしい」

「そうね、ハンス」

 つかの間の穏やかな時間だった。



「で、あのギードめとミロキオの花びらに誓ったのですか」

 ベルが憎憎しげに言った。

「ベル、ギード様だよ」

 レナと一緒に本棚で本を探していたハンナが、ベルの口調を咎めた。

「何だって、あんな得体の知れない者の肩を持つんだい」

「ベル、知らないのかい?」

「あった!」

 レナが、本を探し当てた。

「ギード様とレナ様は、はとこ、なんですよ」

 レナは、思わず本を落としてしまった。

「ハンナ、それ本当なの?」



 ハンナは、長い間この城で全てのことを見てきた、城の生き字引だった。

 ギードの母リンダは、ムートル国王の魔人妻として嫁ぐ前、カリナに結婚の挨拶に来たのだ。

 そして、レナの母アミラも。

「カリナ様は、リンダ様とアミラ様のおば様なのですよ。ご存知無かったのですか?」

 レナにとっては、寝耳に水だ。

「それが、どうして、あのギードがレナ様と、はとこ、になるんだい」

 ベルにとっても寝耳に水だ。

「ベル、あんたなにも知らないんだね」



「去年ここへ来たリンダは、私の従姉妹なのよ」

 ハンナは、この事実をアミラから聞いた。

「私の母は四姉妹だったのよ。カリナ叔母様、リンダのお母さん、そして私の母、もう一人は小さい頃に亡くなったんですって」

「左様でございましたか!」

 カリナは、自分の家族について一度も話したことが無く、長くこの城で勤めているハンナですら知らない事実だった。



「よく来たね、アミラ」

「始めまして、カリナおば様」

 アミラは涙を流していた。

「この一年、一人で大変だっただろう。ゆっくり、してお行き」

「はい、ありがとうございます」



 カリナは城へ戻る馬車の中で、アミラと始めて会った時の事を思い出していた。

 アミラ、本当にお前は良い子だ。

 私に、レナを残してくれた。

 リンダの産んだ子が男の子だったのは残念だが、私の右腕になってくれた。

 全てが手許に揃った。

 アミラ、リンダ、全てお前たちのおかげだよ。

 カリナは、これから起きる、いや、自ら起こす長年の願いの成就に酔いしれていた。



「そうだったのね。だから、大おば様もハンスも、私を探して下さってたのね」

 レナは納得し、ギードに指示された本をめくり始めた。

「レナ様、ハンスとは、誰です」

 ベルは、また謎の人物が登場し、大パニックである。

「ハンス様とは、ギード様の事だよベル。ギード様が、この城に運ばれてきた時に、カリナ様がお付けになったんだよ」

 本をめくっていたレナの手が止まった。

「まぁ、色々あるのよベル。無事コサムドラに帰れたら、私が詳しく説明するわ」

 レナは静かに本を閉じた。



 その日の夕食。

 カリナは、上機嫌に振る舞い、ハンナを驚かせた。

 カリナがこの国へ嫁いて以来の出来事だ。

 正確に言うと、カリナがルイーズを追い出して以来、である。

 あの日も、カリナは上機嫌だった。

「レナ、今夜は食事が終わったら私の部屋へ来ないかい?」

 カリナが、レナを自室に誘った。

 とうとう始まるのだ。

 ギードは覚悟した。

 そして、レナが本を読んでくれている事を祈った。

「まぁ、大おば様、お招きありがとございます」

 レナ、断ってくれ!

 ギードは祈るような気持ちで、レナを見つめた。

「お伺い、いたします」

 レナはギードの目に一瞬絶望が走ったのを見た。

 ハンス、大丈夫よ。

 私、ちゃんと本を読んだわ。

 あの本を、部屋に置いてくれたのは貴方なのね。

 レナは声に出して言いたかったが、声どころか心の中をギードに見せる事すら今は出来なかった。

 それは、ギードも同じ事だった。

 見せてしまうと、それはカリナにも見えてしまう。

 ギードは、決意した。

 レナを守るのは僕だ。

 その為に、僕はあの谷で生き残ったんだ。



 ベルには大反対された。

「ルイーズ様がお聞きになったら、どれ程お怒りになるか……」

「大丈夫よ、ベル。私一人じゃないわ。ハンスも一緒よ」

「余計に心配です!」

 ベルを説き伏せるのは無理なようだった。

「でもね、もう約束してしまっているのよ。それを行かないなんて、失礼にあたるわ」

 レナは、そう言って大切な御守りを持って、カリナの部屋に向かった。



「レナ、ギード、話しておかないといけない事がある。これは、ギードにも話した事がないんだよ。私達の国の事だ」

 カリナが、自分の国、いや、もうあの頃は国なんて言えるものではない、山の中の小さな小さな村について、話すのは初めてだった。

 ギードは、カリナが直ぐにでも儀式を始める物と思っていたため、予想外の事に驚いた。

 カリナ自身もも、話すつもりなどなかった。

 しかし……

「何も知らない、ままも嫌だろう? レナ」

 カリナは静かに語り始めた。


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