表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
旅の始まり14歳
44/271

昔話とキス 動く心

●レナ…主人公。コサムドラ国皇女・魔人

●アンドレ…レナの父。コサムドラ国、国王。

●エリザ…レナのお付。魔人。

●ジャメル…エリザの兄・高級役人・魔人

●ルイーズ…レナの祖母

●ベル…レナの元付き人。その前は祖母ルイーズの付き人だった。

●エヴァ…レナの親友

●ギード…魔人・ムートル国第二王子

●カリナ…ベナエシ国王女。ルイーズの義姉

●アミラ…レナの母・故人。

●ハンナ…ベナエシ国の高齢メイド


レナが軟禁されているベナエシ国の城にベルが訪ねてきた。

そしてカリナとギードは何かを企んでいる……。

 レナとギードが、ハンナと共に城に戻って来ると、カリナ付きの若いメイドが青い顔をして廊下に立っていた。

「ギード様、カリナ様が執務室でお待ちです」

「分かった、直ぐに行く」

 ギードは、思わずレナを見つめた。

「なに?」

 突然ギードに見つめられたレナは、訳が分からなかった。

「いや、何でもない。来客とゆっくりすると良いよ」

 ギードは、喉元まで出てきた言葉を、口から出す事が出来なかった。

「うん、ありがとう」

 踵を返してカリナの執務室に向かうギード。

 何か言いたそうだったけれど、レナにはギードの心が見えなかった。

 ギードがレナに見せなかったのだ。

 見られては困る。

「お客様を、お待たせしては失礼になりますから」

 ハンナに言われて、レナはホールに向かった。

 途中、レナには客人が誰か直ぐにわかった。

 こんな遠くまで来てくれたのね。

 だったら、ホールに最初に姿を見せるのは自分ではなく、ハンナの方がベルも喜ぶのではないだろうか。

 ハンナも、ベルの事を気にかけていたのだし。

 城を抜け出した事を、ベルから咎められるのは分かっていたが、レナは、何とか叱られない方法を考えていた。

 この、ややこしい事態を招いたのは自分だと重々承知してるのだから……。

 レナは、最初にハンナをホールに入らせ、暫くホール前で旧友の再会の様子を伺う事にした。



 全く、三つ子の魂百までとはよく言ったものよ。

 あのカリナ様は相変わらずだったわ。

 ウチのルイーズ様は随分と大人になられたというのに。

 ベルが思いを巡らせていると、扉が開き年老いたメイドが入って来た。

「ハンナ?!」

「ベル!」

 二人は言葉も無く、抱き合った。

 苦しい新人メイド時代を共に過ごした二人には、それだけで離れていた時間を超越した。



 レナは、キッチンでお茶とお菓子を用意してもらい、ホールに戻った。

「つもる話もあるでしょう。お茶とお菓子は、いかが?」

「レナ様!!!!」

 ベルが、怒りの形相でレナには駆け寄った。

 レナを顔を見た瞬間、ベルの長旅の疲れは吹き飛んだ。

 ハンナから、レナの様子は聞いていたものの、やはり姿を見るまでは安心できなかったのだ。

「手紙、書いたでしょう。私は大丈夫だって」

 レナが、飄々としている事にベルは呆れてしまった。

「お城の皆様が、どれ程ご心配なさってたか……」

「ごめんなさい……」

 レナには謝る事しか、出来ないのだ。

「それは、お城に戻って皆様の前で仰って下さい」

「うん」

 返事はしたものの、城に戻れる日は来るのだろうか。

 そんな二人を見て、ハンナが笑い出した。

「ハンナ、何で笑うんだい」

 ベルが呆れて言った。

「だって、このホールの掃除を言われて泣きべそかいてたかベルが、立派な乳母様してるんだもの」

 ハンナは、涙を流しながら笑った。

 結局ベルに叱られてしまって、ふくれっ面だったレナもつられて笑った。



「ほら、やっぱりベルは、レナを取り戻しに来たんだよ」

 カリナが憎々しげに言った。

 執務室ではカリナとギードが、再会に湧くホールの様子を伺っていた。

「レナは、ここに居なくちゃいけない」

 ギードが呟いた。

「そうだよ、だったら、何をすべきか、分かるねギード」

 ギードは、頷き執務室を出た。

「本当に、ギードは良い子だ」

 カリナは、満足げに微笑んだ。



 ベルは、ハンナが用意した部屋に泊まる事になった。

「悪いねハンナ。仕事を増やしてしまって」

「何言ってんだい。友達が来てくれたんだ。こんな嬉しい事はないよ。今夜は、私もこの部屋で休むよ。話したい事も、聞きたい事も、キリがないほどあるんだから」

 ハンナは、弾むように仕事に戻って行った。



 レナは、早めに自室に戻る事にした。

 自室に戻れば、その日のハンナの仕事が終わりだからだ。

 ハンナから教わった薬草学を復習しよう。

 レナは、書き溜めた物を抱えてベッドに腰掛けた。

 


 何だか、部屋の空気が違う。

 レナは、いつの間にか眠ってしまっていた。

 そして、そこにはギードが居た。

「ギード? どうしたかの?」

「ごめん、起こしてしまったね」

 ギードは部屋を出て行こうとした。

「待って、何か話があるから来たんでしょ? 昼間もそんな顔してたもの」

 ギードは、振り返ってレナの顔を見つめた。

 今すぐベルを連れて、この城から逃げるんだ。

 言えたら、どれほど楽だろうか。

 でも、あの方、カリナ様を裏切るわけには行かない。

 ギードの心は揺れていた。

「レナ……」

 ギードは、レナに歩み寄り強く抱きしめた。

「ちょ、ちょっとギード、どうしたの?」

 レナは、迂闊だった。

 レナもギードも、もう年頃の男女だと言う事を。

 コサムドラ国でも、早い人は十代で結婚をする。

 ギードの腕から逃れようとするも、男のギードにかなうわけがない。

「ね、ギード。本当に、どうしちゃったの?」

 頭上にあるギードの顔。

 もしかして、泣いてる?

 レナには、ギードの心が見ない。

 でも、ギードにはレナの心が手に取るように見えた。

 レナは、僕の事なんて何とも思っていない。

 そんな事は、わざわざレナの心を見なくても分かってる。 

 でも、レナを救うにはこれしかない。

「ちょ、ちょっとギード!」

 ギードは無言で、レナをベッドまで力ずくで運んだ。

「レナ、僕の妻になって……」

 ギードは、レナの身体を優しくベッドに横たえた。

「何を言ってるの。私はまだ十四よ」

「もう直ぐ十五だろ?」

 ギードの身体が、レナに覆いかぶさる。

 レナは、何とか逃げだそうとするも、ギードが魔力を使っているのか身体動かない。

「ん!」

 レナの唇に、ギードの唇が優しく重なった。

「レナ様、御用はございませんか」

 扉の向こうにハンナがやって来た。

 ギードは、慌ててレナから離れた。

「だ、大丈夫よ。おやすみなさいハンナ」

 レナは何とか声を絞り出した。

「左様でございますか。それでは、おやすみなさいませ」

 ハンナが部屋から遠ざかるのを確認して、ギードは何も言わず部屋から出て行った。

 取り残されたレナは、ギードの唇の感触を思い出し、暫く動悸が治まらなかった。



 翌朝の朝食に、ギードの姿はなかった。



 レナは、朝からベルとハンナと共に温室で薬草の勉強をしていた。

 なんと、この温室を作ったのは、若かりし日のベルとハンナだったのだ。

 レナの勉強の筈が、ベルとハンナの思い出話が大半占めていた。

「じゃぁ、ベルはこの花の根に直接触れてかぶれてしまったの?」

「そうですよ。しかも、その根を触った手で顔まで触ってしまったもんだから」

 ハンナが当時を思い出し、笑い出した。

「何よ、笑ってないで教えてハンナ」

 若い頃のドジなベルなんて、レナには想像ができなかった。

 ベルは逆に苦い顔だ。

「やめとくれよ、ハンナ」

「私、こんな顔じゃ、お嫁にいけなーい、って泣いたんです!」

「ハンナ!」

 ハンナが当時のベルのモノマネまで交え面白おかしく話すので、レナはお腹を抱えて笑った。

 そんな、レナに釣られて苦い顔をしていたベルまで笑い出した。

「何だか楽しそうだね」

 やって来たのは、ギードだった。

「ギード様!」

 ハンナの顔から、笑顔が消えた。

 ベルも慌てて真顔になった。

「ちょっと、レナと二人だけにしてくれないかな。大切な話があるんだ」

 レナは、昨夜の事を思い出し顔が赤くなった。

 そのの反応は、ギードに意外だった。

 てっきり嫌われてしまったと思っていた。

「承知いたしました」

 ハンナ話が下がろうとするが、ベルは動こうとしない。

 ベルにとってギードは、レナ姫をさらった不埒者なのだ。

「ほら、ベルも!」

 ハンナが、無理矢理ベルを温室から連れ出した。

 レナは、温室でギードと二人きりになってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ