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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
旅の始まり14歳
42/271

ベナエシ国 祖母の仇

●レナ…主人公。コサムドラ国皇女・魔人

●アンドレ…レナの父。コサムドラ国、国王。

●エリザ…レナのお付。魔人。

●ジャメル…エリザの兄・高級役人・魔人

●ベル…レナの元付き人。その前は祖母ルイーズの付き人だった。

●エヴァ…レナの親友

●ギード…謎の魔人

●ブルーノ…現ムートル国王

●ドナルド・クレマン…コサムドラ国元高級役人


ギードに連れられて、旅に出たレナ。

そこで待っていたのは……

「さぁ、ここからはあの方の国だ」

 ギードに連れて来られた国は、今迄感じた事のない空気の国だった。



 コサムドラ国の隠れ家を出て、一週間程の旅の間、レナとギードは最低限の会話しかしなかった。

 あの谷での朝、レナは思わずギードを抱きしめてしまっていた。

 ギードの目の前に何が広がっている光景が、レナにも見えたのだ。

 そして、そこに涙を流して立ちすくんでいるのは小さな十歳のハンスの姿だった。

「ハンス、独りで怖かったわね」

 ギードは、レナにそう言われて我に返り、思わずレナを突き放してしまった。

「ごめん、ちょっと昔を思い出しただけだから」

 それ以来、ギードが話をしなくなったのだ。

 出発前は、あれ程楽しそうだったのに。



 あんな谷に立ち寄ったのが、いけなかった。

 ギードは今でも、どんどん冷たくなる母の手の感触を、ふとした事で思い出してしまう。

 恐怖で埋め尽くされたハンスの心から、恐怖を取り去ってくれたのはあの方だった。



 カリナは、ギードとレナが国内に入った事に気が付いていた。

「なんだい、あの二人の気不味い雰囲気は……」

 カリナには、ギードが子供の頃の事を思い出しているのが見えた。

 確かに、あの時のギードは怯えきっていて、かわいそうなほどだった。

 ハンス何て柔な名前を付けるからいけないんだ。

 ハンスに、ギードという名を与えたのはカリナだった。

「カリナ様、お部屋の準備が出来ました」

 レナの為に用意させた部屋の準備が出来たようだ。

「どれ、ちょっと見てこようかね」

 カリナが立ち上がろうとすると、メイドが慌てて手を貸した。

 この城に嫁いで来た時は、夫の妹と取っ組み合いが出来る程元気だったと言うのに、今は部屋を移動するのにも人の手を借りなきゃいけない。

 老いると言う事だけは、魔力でもどうしようもない。

 部屋は、綺麗に整えられていた。

「よし、いいだろう。それに、そろそろ着く頃だよ。食事の用意はできるかい? 二人は長旅で疲れているようだ」

 そうだ、アミラがコサムドラ国に嫁ぐ前にも、この部屋を使わせたんだったね。

 レナも、きっと気にいるさ。

「二人が到着したら、執務室へ通しておくれ」

 カリナは、メイドの手を借りて執務室へ向かった。



 そこは、コサムドラ国の城の何倍も大きな城だった。

 ただレナには、城そのものがすっかり年老いてしまったように見えた。

 お祖母様の住む古城とは、また違った感じね。

 馬車から降りたレナは、城を見上げた。

 使用人達が、ズラリと並んで出迎えてくれた。

「ギード様、おかえりなさいませ」

「ただいま」

 執事らしき老人が、ギードに歩み寄った。

「カリナ様は、執務室でお待ちです」

「分かった。さぁ、レナも執務室へ行ってご挨拶をしよう」

 レナは、ギードの後に続いた。



「あぁ、レナ! やっと逢えた!」

 執務室に入るなり、レナはカリナに抱きしめられた。

 と、同時にギードによって押さえ込まれていた魔力が、元に戻るのを感じた。

 いや、戻るどころか、強力な魔力が自分の中にあるのを感じた。

「あ、あの……」

「さぁ、疲れただろう。二人共、自分の部屋で少しお休み。じきに、食事の用意ができるさ」

 カリナは、レナから離れると、満足そうに微笑んだ。

「自分の部屋?」

「ご案内いたしましょう」

 執事が申し出た。

「はい……」

「じゃ、後でね」

 ギードも、自分の部屋に向かってしまったので、レナは執事ついていく事にした。



 天井が高く、気持ちのいい部屋だった。

 調度品は、随分古い物のようだが、大切に維持されているようだ。

 ベッドには、ふかふかの布団が用意されており、この一週間馬車の中でしか眠っていなかったレナは、思わずベッドに倒れ込んだ。



「レナ様!」

 名前を呼ばれて、レナは飛び起きた。

 どうやら、ぐっすりと眠ってしまっていたようだ。

「お食事の準備がそろそろ出来ますので、お着替えを……」

 メイドが、ドレスを差し出していた。

「はい……」

 レナは、冷たい水で顔を洗い、ドレスに着替えた。

 着替えを手伝っていた年老いたメイドが、涙ぐんでいる事にレナは気付いた。

「あの……」

 レナは、声をかけようとしたが、メイドは逃げるようにして出て行ってしまった。



「レナ、よく来てくれたね」

 カリナにそう言われても、レナにしてみれば、ギードに魔力を封じ込められ、どうしようもなく付いてきたのだ。

「どうだい? ルイーズの祖国は?」

「え?!」

 カリナの一言に、レナはナイフを落としそうになった。

「ここは、お祖母様やベルの祖国なの!?」

「おや、ギード、レナには何も話してないのかい?」

「はい、大おば様」

 それならそうと、ギードも言ってくれれば、良いのに。

 祖母ルイーズとベルの祖国ベナエシ国、一度は訪ねてみたいと思っていた。

 と言う事は……

「そう、私がルイーズの仇カリナだよ」

 レナは、慌てて立ち上がり、カリナに歩み寄った。

「始めまして、大おば様。ルイーズの孫レナです。そうとは知らず失礼をいたしました」

「おや、随分とお行儀が良いんだね」

 カリナは、改めてレナを抱きしめた。



 アンドレ宛にレナから手紙が早馬で届けられた。

 知らせを受けたルイーズとベルも、城へ駆けつけた。


 『心配かけてごめんなさい。

  私は今、ベナエシ国に居ます。

  カリナ大おば様にも、良くして頂いております。

  心配しないで下さい。   

   レナ 』


「何故、レナがあの魔人の元に!」

 ルイーズが唸った。

「私からカリナ女王に手紙を書こうか」

 アンドレが提案したが、ルイーズは反対した。

「アンドレは、あの魔人に係わってはいけない。私は、私の大事な家族を、これ以上あの魔人に奪われたくないんだよ。手紙なら私が書こう」

「その手紙、見せていただけませんか」

 エリザが申し出た。

 ルイーズから手紙を受け取ったエリザに衝撃が走った。

「これは……」

 エリザから手紙を受け取ったジャメルが笑い出した。

 ベルが顔をしかめた。

「なんです、こんな時に笑うなんて」

「これは失礼しました。しかし……」

 エリザが間に入った。

「手紙に書かれている事以外にも、レナ様からメッセージが手紙に」

「レナは、何て言ってるんだい!」

 ルイーズがたまらず大声をあげた。


 アンドレへの手紙を書いたレナは、必死で手紙に思いを込めた。

「私は大丈夫だから、大騒ぎしないで」

 それは、何度も、何度も、手紙に思いを込めた。


 エリザとジャメルには、レナが必死に手紙に思いを込める姿が見えたのだ。

「何か切羽詰っているとか、危険が迫っていると言うわけではなさそうだな」

 アンドレは、安心したように言った。

「まぁ、魔人で意地の悪い女だが、人を殺したりはしないだろう」

 ルイーズも、胸をなでおろした。

 とは言え、無事な姿を確認したい、誰もがそう思っていた。

「私が、無事の確認に行きましょう」

 手を上げたのはベルだった。

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