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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
旅の始まり14歳
40/271

王子 あの日の出来事


●レナ…主人公。コサムドラ国皇女・魔人

●アンドレ…レナの父。コサムドラ国、国王。

●エリザ…レナのお付。魔人。

●ジャメル…エリザの兄・高級役人・魔人

●ベル…レナの元付き人。その前は祖母ルイーズの付き人だった。

●エヴァ…レナの親友

●ギード…謎の魔人

●ブルーノ…現ムートル国王

●ドナルド・クレマン…コサムドラ国元高級役人


ギードの正体は、行方不明になっていたムートル国の王子だった。

しかし、何故ムートル国の王子が、地下組織のリーダーなのか。

怪我の癒えたレナに、新たな旅が待っている。

「さぁ、ハンス。私もお母さんも一緒だから、馬車に乗ろう」

 そう説得され、小さなハンスは両親と共に馬車に乗り込んだ。

 両親の様子がおかしくなったのは、街中を抜け森へ入った頃だった。

「このまま森の中へ置いて行くと言うのはどうだろう」

 父の声だ。

「やっぱりこの子を育てる何て、言わなければ良かった」

 母の声だ。

 しかし、二人は会話をしている訳ではない。

 その証拠に、二人とも窓の外をぼんやりと見つめているだけなのだ。

「ねぇ、何の事?」

「どうしたハンス?」

「今、何か言ったでしょ?」

「誰も何も言ってないよ」

 そう答える父の声が震えているのが分かった。

 怯えているのだ。

「僕が怖いの? どうして?」

「ハンス!!」

 母が悲鳴の様な声を上げた。

「やはりこの子は魔人だ。あの女と同じだ!」

 父が叫んだ。



「僕には、何が何だか分からなかったよ」

 ギードは静かに笑った。

 そして、続けた。

「父は、僕を殺そうと決めたんだ」

「ひどい!」

「レナのお父さんとは大違いだ。今にも父の手が僕の首を絞めるんじゃないか、剣で突き抜かれるんじゃないか、そう思ったよ」



 僕は死にたくない、助けて!

 その瞬間、森の中を走っていた馬車が、険しい崖に差し掛かり転落したのだ。



「じゃ、ムートル国国王夫妻の馬車の事故は、ギードあなたが……」

「そう言う事なんだと思う」

 ギードは両手を握り締めていた。

 こんな苦しそうな表情のギードを、レナは見た事がなかった。

 自分の所為で、自分が魔人であった所為で、大切な人を死に追いやってしまった。

 レナも祖母ルイーズが、魔人であった母と、その母のお腹の中にいた自分を殺そうとした過去を聞いた時、とても混乱した。

 しかし、それは過去の話を聞いただけであって、今、目の前でそんな事を起きようとしていたら、どうだったんだろう。

 そして、結果的にはレナが魔人であったため、母は死んだのだ。

「ギード……」

 レナは、硬く握られたギードの拳にそっと手を添えた。

 


「さぁ、レナが見た夢の説明は終わったよ。今日はここまでにしよう」

「あら、私だったら、まだ大丈夫よ」

「ダメだ。君は人間だったら死んでいたかもしれない程の怪我をしたんだ。無理は許さない」

 そう、魔人だったからレナは死なずに済んだんだ。

 そして、あの日の僕もね。

 レナ、お願いだから眠って。

 僕は、もうこれ以上大事なものを失くしたくないんだ。

 ギードが不満げな顔のレナにそっと手をかざした瞬間、レナは静かに眠り始めた。



 ジャメルとエリザは、レナの手紙から何か情報をと調べたが、何も得られなかった。

 城に手紙が投げ込んだのはギードだという事は、簡単に想像がつく。 

 なんの痕跡も残さず、手紙を届ける事ができるのは、ギードくらいしかいないのだ。



 『お父様へ

 勝手に城を出てしまって、ごめんなさい。

 私は元気ですから、心配しないで下さい。 レナ』



 たった、これだけの手紙だったがレナの自筆である事は間違いない。

 それから数日に一度は、ただ元気だと言う事だけが書かれたレナからの手紙が届けられた。



「ねぇ、ギード。私、外に出たいわ」

 若さなのか、魔人だからなのか、レナは当初の予想よりも早く回復した。

 魔力はギードによって封じられているが、扉の向こうの気配くらいは本能的に分かるようになっていた。

 ギードもレナの魔力を封じ込めきる事が出来ないでいたのだ。

「そうだね……」

 もう何度この会話を繰り返した事か。

「私、少しくらいなら魔力を使えるくらいには、元気になったのよ」

 それに、扉の向こうの気配はドナルド・クレマンとその息子だ。

 正直、レナにとって気分の良い相手ではない。

「流石だね。そうだよ。ここはクレマン氏の屋敷だ」

「今も、扉の向こうに居るわ」

「ここに入って来たくて仕方がないんだよ。レナが気になるなら、追い払ってくるよ」

 そう言ってギードは出て行った。



「そろそろレナ姫様に会わせてはくれないか、ギード」

 ドナルドは、一刻も早くレナの顔が見たかった。

 あの夜、ギードが突然連れて来た、血塗れの少女が本当にレナなのか。

「おや、私を信用できませんか?」

 ギードの冷やかな視線に、ドナルドは心を見透かされているようで耐えられなくなった。

「いや、そう言うわけではないんだが……」

「そうですか。それは、良かった」

「じゃ、何か手伝える事があれば、言ってくれ」

 ドナルド親子は、ギードから逃げる様に去って行った。

 そろそろ、レナをここから連れ出す時のようだ。

 街でレナに似合いそうな服を何着か、用意してこよう。

 ギードは、次の計画に踏み出した。



「どこへ行くの?」

 深夜ギードとレナは、クレマン家の地下を出た。

「今夜は、僕達の拠点へ行く」

「あの居酒屋?」

「そうだ、さぁ、乗って」

 待っていた馬車に乗り込んだ。

 馬車の中は、病み上がりのレナを気遣ってか、毛布やクッションが用意されていた。

 レナは走り始めた馬車の中で、どうにか馬車から降りて、城へ戻る事は出来ないか考えた。

 馬車の扉を開ける。

 きっとギードが驚いて止めに来るだろうから、その前に急いで飛び降りる。

 馬車の速度は、それ程早く無いから、ギードが用意してくれた、この沢山のクッションや毛布に包まって飛び降りればなんとかなるだろ。

 そこまで考えた時、ギードが面白そうにレナを見ていたので、直ぐに諦めた。

「なんだ、どうしてやめてしまうんだ。面白かったのに」

「どうせ無理だもの」

「そうだね。レナには飛び降りる事は出来ても、無事に着地するのは無理だよ」

 ギードは、おかしくて仕方が無いと言わんばかりに、大笑いした。

 こんなに笑ったのは、あの森の日から初めてだ。

 レナは、ギードが用意した毛布に包まって、背を向けた。



 居酒屋には誰もいなかった。

「エヴァが事件を起こしたから、警備隊が来るのを恐れて、客は皆逃げたよ」

「そう……」

 ギードが、店の奥の壁を押した。

 壁に見えていたが、壁ではなく、更に奥の部屋に繋がる廊下への扉だった。

「すごい……」

「なかなかの仕掛けだろ?」

 しかし、外からはそれ程大きな建物には見えなかった筈だ。

「それは、そう見えるように僕がしたからだよ」

 廊下は、店とは比べ物にならないほど清潔で快適な部屋へと繋がっていた。

「僕の自宅へようこそ。さ、疲れただろ。座って」

 レナはギードに勧められるままに、ソファに腰掛けた。

「何だか、ムートル国の宮殿のお部屋にいるみたい」

「そりゃ、僕はムートル国の王子だからね」

「そうよね……」

 でも、ギードはその国の王夫妻に、殺されそうになったのだ。

「レナが長旅に耐えられるようになるまで、ここにいよう」

「長旅?」

 どこへ行こうと言うのだ。

「ちょっと遠いんだ」

「どこへ?」

「秘密だよ」

 自分の正体を明かしたからだろうか、あの日から心の奥で硬い殻に覆っていた本当の自分がが、少しずつ現れ始めたようだ。

 レナは今まで僕から逃げようとはしたけれど、僕を攻撃しようとした事は一度も無い。

 血の繋がった父でさえ、僕を殺そうとしたのに。

 母は仕方が無い。

 あの人は、僕とは血の繋がりが無いんだから。

 なのに、巻き込まれて命を落としたかわいそうな人なんだ。

 店に人の気配を感じた。

「ギード、お店に誰か来たみたいよ」

 やはり、レナの魔力も戻りつつある。

 あの方が仰るように、レナの魔力が僕などと比べ物にならないほど強いものならば、レナはいつか……。

「そのようだね。ドナルドだ、顔を見せてくるよ」

「私を追って来たのかな……」 

 レナの怯えた顔も好きだ。

「大丈夫。レナは城に戻ったようだ、と言っておくよ」

 さぁ、愚鈍で欲深い奴らの始末を始めよう。

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