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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
旅の始まり14歳
37/271

窮地 友の誤解

●レナ…主人公。コサムドラ国皇女・魔人

●アンドレ…レナの父。コサムドラ国、国王。

●エリザ…レナのお付。魔人。

●ジャメル…エリザの兄・高級役人・魔人

●エヴァ…レナの親友

●ギード…謎の魔人

●カーラ…エヴァの友人。城のメイド。


城に戻ったレナ.


ギードの地下組織に親友エヴァが関係しているかもしれないと聞かされ、エヴァに会うために、再び城を出たのだが。

 十九時。

 エヴァの店の閉店時間だ。

 従業員が帰った後、エヴァが売上の集計をする。

 更に週に一度は、客の注文傾向を確認してメニュー開発に参考にしている。

「夜、暗くなってから店に女の子一人は無用心だから」

 ギードは、入り浸っていた安居酒屋へは行かず、毎晩エヴァの仕事が終わるまで待って、家まで送り届けてくれる。

「毎日送ってもらって、お茶も出さずに帰らせるなんて、失礼じゃないの?」

 最初は良い顔をしなかったエヴァの母も、今ではこれだ。

「今度、誘ってみるわ」

「まだ、結婚なんか許さないからな」

 父は、自信に満ち溢れ、すっかり大人っぽくなった娘に何か勘違いしている様子だ。

「そんなんじゃ、ないから」

 とは言ったものの、エヴァの気持ちも高まるいっぽうだった。



 ある日、いつものようにギードに送られ帰ろうと店を出たところで、背後からギードに抱きしめられた。

「ギード?」

 エヴァは一瞬身体を固くした。

「ごめん、嫌だった?」

 ギードの身体がエヴァから離れた瞬間、エヴァは振り返り今度はエヴァの方からギードに抱きついた。

「エヴァ……」

 あらためて、ギードはエヴァを抱きしめた。

「私、ギードのことが好きよ」

 ギードは返事はしなかったが、更にエヴァの身体をきつく抱きしめた。

 エヴァは、自分の思いが通じたと思った。

 抱きしめたエヴァの背中越しに、ギードが誰かを見つめているとは思いもしなかったのだ。



 やっぱりエヴァはギードに騙されているんだ。

 閉店した見せの前で、抱き合うエヴァとギードを見たレナは確信した。

 ギードが、エヴァに近付いたのは、間違いなく、自分の所為だ。

 ただ今は、どうする事もできない。

 ギードは、自分の気配に気が付いている。

 とにかく、ギードと城の皆から身を隠す事。

 そこから始めなければ……。



 訪ねた先はレオンだった。

「レナ!」

「遅くにごめんなさい」

「来てくれて嬉しいよ」

 レオンは、レナを快く迎えてくれた。

「こんな時間に僕を訪ねてくるなんて、何かあったんだろ?」

 暫く会わない間に、レオンはすっかり逞しい青年になっていた。

「うん……」

 嘘をつきたくはなかったが、いつか本当の事を言って謝ればレオンなら分かってくれる。

「あのね、ちょっと父と喧嘩して家出してきちゃった」

「それは、お父さん心配してるんじゃないかな」

「うん、あのね、それで、暫く内緒でここにいて良いかな?」

「え?」

「その代わり家事とかするし」

「それは別に構わないけど……」

 レオンは、今でもレナが好きだった。

 レナの力になれるなら、何でもしようと思った。

「ちょうど、父さんもいないし」

「そう言えば、お父さんは?」

 レオンの父は、母が亡くなってから仕事に家事にと身体を酷使してしまい、数年前から身体を壊していた。

 訓練校に進まず仕事に就こうとしたのも、父を楽にさせたくての事だった。

「もぅ、訓練校の卒業も決まったし、少し湯治に行ってもらったんだ」

「あら、仕事決まったの?」

「聞いて驚くな」

「うん」

「城の警備隊に決まった」

「!」

 レナは、言葉が出なかった。

「驚いただろう」

 驚くどころではない。

 レオンが、城に来る?!

「う、うん!」

「訓練校まで行かせてくれた父さんのおかげだよ」

「でも、レオン、運動実技苦手だったよね……」

 城の警備隊と言えば、屈強な男達の集まりだ。

「僕は幹部候補だ」

 なるほど、頭で勝負したという事か。

 と、いう事は数年もすればレオンは高級役人として、城の奥深くまでやってくる事になる……。

 しかし今はレオンの頑張りを賞賛したい。

「頑張ったのね!」

 レオンは誇らしげに微笑んだ。



 レオンがレナに用意してくれ部屋は、以前レオンの母が使っていた部屋だった。

「暫く掃除してなくて、ちょっと埃っぽくて……」

 レナは、レオンの家にギードやジャメル達に気配を悟られないよう、結界を張った。



 翌日は、部屋の掃除に費やした。

 レオンが訓練校に出かける前に、レオンからレナの記憶を消す事も忘れなかった。

 こんな魔力の使い方、エリザからもジャメルからも習わなかったが、テーブルの上のものを手に取って動かす以上に、楽に出来た。

 本能かしらね、レオンの家で一人になったレナは自嘲気味に笑った。



 昼過ぎ、家の外からベルの気配がした。

 お祖母様にも、心配かけてしまってるのね。

 手紙、書くべきかしら……。

 無理、お祖母様は魔人がお嫌いなのに、こんなに魔力を使っている私を許してはくれない。

 誰にも悟られず、隠密に事を運ばないと。



 その夜、帰宅したレオンの記憶を戻して、エヴァの身に起きた事をレオンから聞いた。

「エヴァが城のメイドに?」

 エヴァがメイドの採用試験に不合格だった事は、カーラから聞いていた。

 それにしても、自分は何て残酷な事をしたのだろうか。

 あの夜エヴァが傷付き、逃げるように帰ったのも当然だ。

 更に、内定していたクレマン家もダメになり、何とか決まった勤め先では、何があったのかまでは分からなかったが、相当辛い思いをした様で、怪しい酒場に出入りする様になった、僕はそれを止める事すら出来名かった、とレオンは伏せ目がちに語った。

「ところがだよ!」

 突然カフェをやる、と言ったのだという。

「僕は、あのギードとか言う奴は、信用出来ないと思ってるんだ」

 突然、レオンの口からギードの名前が飛び出し、レナは動揺したが、何とか平静を装った。

「そうだったのね……」

 エヴァの身に起きた事、全てが自分と関わっている。

 レナの心は、今までにない程痛んだ。

 やっぱり、エヴァをギードから救えるのは自分だけだ。

 いや、救わなくては、ならないのだ。



 ギードには、レナの行動全てが見えていた。

「そんな、可愛い結界、僕には通用しないよ、レナ」

 隣で売上の集計をしていたエヴァが、顔を上げた。

「今、レナって言った?」

「いや、言ってないよ」

 ギードはエヴァを、優しく抱き寄せた。

「レナって言う親友が居るの。今度、紹介するわね。会ったら、驚くわよ」

 エヴァは、幸せそうに微笑んだ。



 レオンから聞いた酒場は、行ってみると入るのに相当勇気が必要な安居酒屋だった。

 こんな店に、エヴァが入り浸っていた?

 俄かには信じられなかった。

「やぁ、よく来たね」

 後ろから声をかけられた。

 何故気が付かなかったのだろう。

「ギード……」

 ギードに腕を掴まれ、どんどん店のだろう奥に連れ込まれた。

「レオンの家にいるんだろ? あんな結界、僕には通用しないよ」

 ダメだ、レオンにまで迷惑をかけてしまう。

 朝レオンが出かける時、記憶を消しておいて良かった。

 記憶にないから、夜戻ってレナが家に居なくても心配はしないだろう。

 そんな事を考えているレナの身体は、突然ギードが引き寄せられ、腰を腕でがっちりと抱え込まれた。

「ちょっと、何するのよ」

 何とかギードの腕から逃れようとするが、身動きひとつできない。

「ほら、暴れないで。もう直ぐ来るから」

 これでは、はたから見ればレナがギードに抱きついているようにさえ見えてしまう。

 ドカドカと誰かの足音が近付いてきた。

「なにしてるのよ! この酔っ払い!」

 と、レナは何か棒のようなもので、後頭部を殴られた。

 やっとギードの腕から解放され、相手を確認しようと振り返ったが、顔を確認する前に、意識が遠のいた。

「レナ!」

 何処か遠くで、誰かが悲鳴のような声で呼ばれた気がした。



「まだ、見つからないのか!」

 執務室では、珍しくアンドレが声を荒げた。

「申し訳ございません」

 エリザの膝は震えていた。

 何かあったら、そうそう思うだけで気が遠くなりそうだった。

 レナが消した門番達の記憶を、ジャメルが苦労して呼び起こした。

 自らの意思で城を出た。

 やはりエヴァの事を伝えてしまったのは失敗だった。

 アミラの死後、城に連れてこられレナなりに葛藤は乗り越え、ここで生きる決意をした様子だったのに。

 生きる場所を失い、兄と共にここでしか生きる術のなかった自分とは違うのだ。

 もっとレナの想いに心を向けるべきだった。

 今直ぐ、何もかも捨てて城から飛び出し、レナを探しに出たかった。

 大切な物が、手からこぼれ落ちていく様だった。

 レナ様も、エヴァを思うあまり、同じような気持ちで城から出たのかもしれない。



 夜遅く、城の門に暴走馬車が走り込んできたかと思ったら、何かを馬車から落として去って行った。

 門番の連絡を受け、兵が馬車を負ったが時すでに遅く影も形もなかった。

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