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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
旅の始まり14歳
32/271

エヴァの受難と幸福 満たしてくれるのはお酒

●レナ…主人公。コサムドラ国皇女・魔人

●アンドレ…レナの父・コサムドラ国国王

●エリザ…レナのお付き・魔人

●ジャメル…エリザの兄・高級役人・魔人

●ブルーノ…ムートル国国王

●ドミニク…ムートル国国王の弟

●ドミニク老人…コムサドラ国の高級役人

●レオン…レナの幼馴染

●エヴァ…レナの親友

●ギード…謎の魔人。


レナとエヴァ、新たな一歩を踏み出す。

 レオンと分かれたエヴァは、すっかり酔いが覚めてしまった。

 飲みなおしに居酒屋へ戻ろうか。

 今戻ったら明日の朝、仕事に行けなくなるのは分かっていたけれど、今の気分のまま帰る気にもならない。

 ぶらぶらと雨の中を歩き続けた。

「やぁ、エヴァ。帰ったんじゃなかったのかい?」

「あら、ギード。こんな所でどうしたの?」

 レナ披露目の日、エヴァを居酒屋へ連れて行った美少年ギードだ。

「飲みすぎて、酔いを覚ましに歩いていたらエヴァが見えたからさ」

「私は、飲みなおそうかと思って」

 こんな所でギードに会えるなんて、レオンも、レナも、もうどうでも良いわ。

 エヴァはギードに会いたくて、居酒屋に通っていた。

 クレマン家で働く予定だったがクレマン氏が失脚。

 訓練校の校長が、何とか探し出してくれた職が、大商人の豪邸でのメイドの仕事だった。

 しかし、豪邸の主人は傲慢な男で、エヴァの身体を見る目が嫌で嫌でたまらなかった。

 校長が探してくれた職だからと我慢していたが、もういい。

「ね、ギード。飲みなおしに行きましょうよ」

「そうだね」

 ギードはエヴァと手をつないだ。

 エヴァは、耳まで赤くなるのが自分でも分かった。

「さぁ行こう、エヴァ。良い店があるんだ」

 二人は夜の大通りに消えていった。



「どうしましたレナ様。えらく丁寧に作っておられますね」

 レナは、エリザが驚くほど丁寧に布の球を作っていた。

「だって、直ぐにほどけてしまうのよ」

「何に使っているのです?」

「これを思い切りジャメルにぶつけてやるのよ」

 なるほど。

 エリザは兄がしようとしている事が分かった。

 二人がまだ村に居た頃、遊んでいた遊びだ。

「お手伝いしましょうか?」

 エリザと言う心強い助っ人が名乗り出てくれた。



 そこは国王アンドレの執務室の隣の部屋。

「なるほど、部屋の様子が外に漏れないようにしたのね」

「さあ、エリザ始めましょう!」

「他のお勉強も、そのくらい積極的だと良いんですけど」

 レナは、プッと頬を膨らませた。

「だって、悔しいんだもん。ジャメルをやっつけたいもの」

「兄は手ごわいですよ」

 兄ジャメルの魔力に関しては、妹である自分が一番分かっているつもりだ。

 確かに、兄に勝てるのはレナ様だけかもしれない。

 そうなった時、レナ様の魔力が末恐ろしいものになるだろう。

「では、やってみてください。先ずは、この布の球を浮かせて……」



 エヴァはプワプワと浮く椅子を見て大喜びしていた。

 最近は、ギードと二人で飲む事が多くなっていた。

「ねぇ、ギード。凄いマジックね!」

「そうだろ? エヴァが元気になって良かったよ」

「え?」

 ギードは椅子を下し、エヴァの隣に座った。

「最近、あんまり元気がなかったから心配してたんだよ」

「本当に? 何か嬉しいな」



 本当にウンザリする日々だった。

 結局、勤勉な両親の血を引いたのか、幾ら遊び歩いても仕事には向かってしまう自分が嫌だった。

 屋敷の主人は、新しいメイドに手を出す事で有名だった。

「あんたは、まだ子供だから大丈夫だろうけど気をつけなよ。ご主人と二人きりになるんじゃないよ」

 屋敷に長く勤めるメイドが、初日に忠告してくれた。

 出来るだけ、一人にならないよう仕事をしたが、それでも主人はエヴァが一人の時を狙って近づいてきた。

「エヴァ、そこの新聞を取ってくれるかい」

 主人に近付き新聞を差し出した。

 が、主人が伸ばした手の先は新聞では無く、エヴァの胸だった。

 主人のゴツゴツした手が、エヴァの胸にいやらしく触れた。

「いや!」

 エヴァは手にしていた新聞を落とした。。

「思ったほどは小さくないな」

 主人は、何事も無かったようにエヴァの落とした新聞を拾い読み始めた。

 これが始まりだった。

 すれ違う度に、お尻や胸を触られた。

 どんどん自分が穢れていく気がした。

「エヴァ、嫌だったら辞めたら良いんだよ。何も無理してここで働く必要ないだろう」

 他のメイド達は心配してくれたが、やっと決まった仕事を喜んでくれた両親の手前、辞められなかった。

 そして、その気を晴らしてくれるのは居酒屋で飲む酒とギードだった。

 レオンに酔っ払っているのを見つかった翌日、エヴァは酒が残ったまま屋敷へ向かった。

 主人は、直ぐに気が付いた。

「エヴァ」

 主人の寝室の掃除をしている時、うっかり一人になってしまった。

 主人は寝室の扉を閉めた。

 背後から抱きしめられ、ベッドに押し倒された。

「酒の臭いがするな。まだ十四だろ」

 そう言いながら、エヴァの身体をまさぐり始めた。

「止めて下さい!」

「騒ぐとクビにするぞ」

 主人の臭い息がエヴァの顔にかかる。

 エヴァの事を、無理しても働く必要の有る家庭環境とでも思ったのか、主人は手を止めようとしない。

「やめて!」

 エヴァは、主人を突き飛ばし寝室を飛び出した。

 寝室の外には、主人の妻が居た。

 妻は、エヴァを一瞥して言った。

「何を勿体ぶってるんだか」

 その一言で、エヴァは二度とここへは来ない決意をた。



「仕事、辞めちゃった」

 もっと早く辞めれば良かった。

 何を意地になってたんだろう。

「酷い職場だったんだね」

 ギードはエヴァのグラスに酒を注いだ。

「うん」

 初めて人に話した。

 こんな事、誰にも話せない。

 でも、もしかしてレナがそばにいてくれたら、最初に胸を触られた時、相談できたのかもしれない。

 そして、レナだったら「そんな仕事辞めてしまうのよ!」と、強く言ってくれたのかも。

 今日、役場に求職票を出しに行ったが、城の試験に落ち、内定先が潰れ、勤め出した先は直ぐに辞めてしまって、役場の人も顔をしかめた。

「辞めた理由を聞かれたけど、言えなかったの」

「それに……」

「それに?」

「男の人が怖い……」

「僕の事も怖い?」

「ギードは、怖くない」

 レオンも怖くなかった。

「酷い目にあったね」

 ギードは優しくエヴァの手を取った。

「なんか、ついてないのよね、私」

 そう言うと、エヴァは涙が止まらなくなった。

「私、何か悪い事したのかな」

「悪い事なんかしてないだろエヴァは。ただ、運が悪かっただけじゃないか。なのに、こんな泣く程辛い思いをしてさ。中には、そこに産まれたと言うだけで、働きもせず幸せに暮らしてる人もいるのに。不公平だよ」

 ギードの言葉で、エヴァの脳裏にレナの顔が浮かんだ。

「ほんと、そうよね。私はただ、働きたいだけなのに」

「大丈夫。エヴァは優秀なんだから、必要としてくれる場所があるよ」

「うん」

 レオンに言われた時は、素直に聞けなかったのに、ギードの言葉は心にすんなり入ってくる。

「メイドの仕事ではないけど、僕達の仕事を、手伝ってくれないかな」

 憧れて、会いたくて居酒屋に通った、あのギードに認められた。

 それだけで、エヴァは屋敷での嫌な事を全部精算できた気がした。

「もちろん、ギードの頼みなら何でもする」

「ほんとに?」

 エヴァはギードに見つめられて、心の中が幸福感で満たされた。

「私もお願いギードにお願いがあるんだけど」

「何? 僕にできる事なら」

 今なら言える。

 凄く幸福な気分だから。

「抱きしめて」

 一瞬ギードが驚いた顔をした。

 言わなきゃ良かったかな。

 そう、思った瞬間エヴァはギードの腕の中にいた。

 屋敷の主人に穢された身体が、浄化されていく気がした。

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