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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
旅の始まり14歳
31/271

訓練開始 親友は不良に

●レナ…主人公。コサムドラ国皇女・魔人

●アンドレ…レナの父・コサムドラ国国王

●エリザ…レナのお付き・魔人

●ジャメル…エリザの兄・高級役人・魔人

●ブルーノ…ムートル国国王

●ドミニク…ムートル国国王の弟

●ドミニク老人…コムサドラ国の高級役人

●レオン…レナの幼馴染

●エヴァ…レナの親友


ムートル国の暴動は何とか鎮圧された。

何とか日常を取り戻したレナ。

 ムートル国の暴動から数日が過ぎた。

 血で染まった宮殿内をメイド達は懸命に片付け、傷付いた者達を国王ブルーノは毎日見舞った。

 首謀者は、街の『魔人』達に金を払い、ブルーノを殺すように頼んだのだと言う。

 実際、宮殿内で暴れた『魔人』達は、ブルーノに恨みがあったわけもなかった。

「だからこそ、厄介なのだ。これからは顔の見えない相手を警戒せねばならない」

 ブルーノの安らぎは弟から来る手紙を読む事だけになりそうだ。



 毎日早馬を出し、ブルーノとドミニク王子は手紙を送っていた。

 その度に、レナが呼ばれる。

「だって、僕が手紙もキチンと書けない子だって知ったら、ドミニク爺さん、がっかりしちゃうだろ?」

 ドミニク王子なりの気遣いなのだろう。

 お陰で、隣国の様子を知る事が出来た。

 五年もの間、公務を役人達に任せたりきだったブルーノ王は、その五年の間に学んだ知識と鍛えた肉体で、大活躍のようだ。

 手紙以外からも、漏れ聞こえてくる話では、非常に若く美しく強い王が目を覚まし国に光を与え始めたと言う事らしい。

「パン屋の意見を聞きたいところだな」

 小さなドミニク王子が、大人ぶって言うのを、皆が面白がって見ていた。



「さて、そろそろ始めましょうか、姫君」

 今日から魔力を使った戦闘の訓練が始まる。

 ただでさえ学ばなければならない事が多いのに、更に魔力の戦闘訓練なんて……。

 私が魔人でなければ、こんな訓練もいらないのにな。

「しかし、姫君は残念ながら魔力をお持ちだ」

 ジャメルに心を見られてしまった。

「油断してはいけません。戦闘訓練中は例え私やエリザが相手でも、心は覗かれぬように閉じておかなければ」

「分かってるわよ」

 とは言うものの、普段封印したまま過ごしているため魔力の出し方が今ひとつピンと来ない。

 ジャメルは、レナは相当強い魔力を持っているというが、そうは思えなかった。

 ただ、あの森の中での出来事はレナ自身がした事だと言う自覚はある。

 だからこそ、魔力は封印したままでいたいのだ。

 でも、ムートル国で起きたことが、このコサムドラ国で起きないと言う保障はない。

 いつか、自分も闘う日が来るのだろうか。

「いたっ!」

 ぼんやり考え事をしていたら、レナの額に小さない布で作った球が飛んできた。

 エリザに言われ、先日からレナが作った物だ。

 これの為だったのね。

 飛ばしたのはジャメルだ。

 それも、魔力を使って……。

「もぅ、痛いじゃない」

「このくらい、避けれないのですか?」

 ジャメルは次々と球を飛ばしてくる。

 レナは必死に避けるのだが、次々飛んでくるため避けきれない。

「次は姫君が飛ばしてください」

 ここ暫く、ムートル国通いの間、魔力を完全に封印していたため、突然飛ばせと言われても、なかなか思うようには行かない。

 球はふわっと浮いたかと思うと、突然縫い目が解けて、ただの布になりヒラヒラと落ちてしまった。

「おや、縫い方が下手だったのですかね、姫君」

 ジャメルは、笑いを堪えるのに苦労した。

「うるさい!」

 レナは、とうとう球を手でジャメルに投げつけ始めた。

 が、球はジャメルまで届かず、全て手前で落ちてしまう。

「どう言う事?」

「身体の周りに近づくものを寄せ付けないようにしております」

 レナは試しに、手元にあったあらゆる物を投げてみたが、全てジャメルの手前で落ちてしまった。

 それは、まるでジャメルの周りに、割れないガラスでも張り巡らせたかのようだった。

「この部屋は、魔力を使っても外に漏れないようにしてあります。次までに時間を見つけて練習ですぞ姫君」

 また、やるべき事が増えてしまった。

 レナは一日が四十八時間くらいあれば良いのに、と思った。



 ムートル国への、ご挨拶を終わらせたレナは次の国へ向かう準備もしなければならなかったが、向かう国が決まらないのだと、エリザから聞いていた。

 レナは思い切ってアンドレに聞いてみた。

「お父様、次、ご挨拶に向かう国が決まらないとお聞きしたのですが、どう言う事なのでしょう」

「レナは、もう旅がしたいのかい?」

「とんでもない! もぅ、旅はこりごりです」

 レナのウンザリな表情に、アンドレは笑い出した。

「余程ムートル国が大変だったんだね」

「だってお父様、毎日馬車で六時間。挙句、夕暮れまで待たされて、また明日、だもの」

 思い出すだけで、また疲れてしまいそうになる程、あの馬車酔いの日々は本当に耐えがたい時間だった。

「それはね、レナ。最初から、そうなる事がわかっていたんだよ」

 アンドレが、とんでもない事を言い出した。

「お父様、会えない事を分かってて、行かせていたの?」

「レナが、どのくらい我慢できるか。そんな目的もあったんだよ」

 何だか自分が試されていたようで、良い気はしないが、我慢出来なかった自分にレナはがっかりしてしまった。

「お父様達のご期待に、添えなかったって事なのね」

「いやいや、随分と我慢出来てたよ。いつ、行かないと言い出すかと心配したんだが」

「そうなの?」

「まさか、面会まで漕ぎ着けて来ると、期待以上だよ」

 流石、我が娘、とでも言いだしそうなアンドレを見ると、試された事を怒る気にもなれなかった。

「でも、お父様、もう試すような事は止めてください。あんまり、良い気分じゃないわ」

「それは、すまなかったね」

「お父様、本気で悪かったと思ってないでしょ」

「え?」

「お顔が、嬉しそうです」

 アンドレはここ数日、隣国のゴタゴタもあり忙しい日々が続いてたいめ、娘との会話が楽しくてついつい顔がほころぶのがとめられないのだ。

「そうかい?」

「もう、いいです」

 拗ねた娘も、また可愛い。

 一緒に過ごせなかった十三年間が悔しくさえ感じるのだ。

 幼い頃のレナは、もっと可愛かったに違いない。



 もう一時間、エヴァの家の前で待ち続けていた。

「中で待てばいいのに。最近のあの子は、何時に帰ってくるのかも分からないのよ」

 レオンは、エヴァの母の申し出を断った。

 家の中で出来る話ではない。

 今のエヴァを幼馴染として、知らぬ顔は出来ない。

 何があったのかは知らないが、良くない噂しかないような店に出入りするのは止めさせないと。

 隣国で暴動が起きたばかりだ。

 この国でも何が起きるか分からない。

 そんな時に、あんな場所に出入りしていると知られたら、あらぬ疑いをかけられる事だってあるんだから。

 流石に疲れてきたので、今日は諦めて帰ろうか、そんな思いに駆られたとき、エヴァの姿が目に入った。

 何だか足取りが怪しい。

「エヴァ、お酒飲んでるの?」

「あら、レオン。久しぶりね」

 エヴァは随分ご機嫌だ。

「お酒、飲んでるの?」

「自分で働いたお金で飲んだのよ。何か文句ある?」

「僕らは、まだお酒を飲んで良い年齢じゃないんだよ」

 コサムドラ国で飲酒が認められているのは十五歳からだ。

「何よ、お説教しに来たの?」

「違うよ。君の事が心配なだけで……」

「それは、どうも」

 エヴァの心に、レオンの言葉は全く響かない。

「あんな店、出入りしないほうが良いよ」

 それでもレオンは、諦めなかった。

「酔い覚ましに散歩でもしようか」

 エヴァがフラフラと大きな通りを目指して歩き始めた。

 レオンは後を追った。

「酔って帰るとママが良い顔しないのよね」

「当たり前だろ。僕等まだ十四歳だぞ」

「たった一年じゃない」

「そうだけど」 

 大通りには、レストランが何軒か軒を連ねている。

「良いわよね。大人は」

 エヴァがレストランの窓から中を覗くと、楽しそうに食事をする人達でいっぱいだった。

 コサムドラ国では、十五歳にならないとレストランに入ることは許されない。

 そこは飲酒の場だからだ。

 そのため、レストランに家族連れも居ない。

「この前さ、ベルさんが来たんだ。家の様子を見に来たらしいんだけど」

 ベルと言う名前を聞いて、エヴァが一瞬身体を強張らせた。

「へぇ。ベルさん、何か言ってた?」

「別に、でもエヴァの事心配してたよ」

「そう……」

 エヴァは、レオンに全てぶちまけてやろうか、と思った。

 あなたの大好きなレナは、本当は皇女様だったのよって。

「ねぇ、レオン。今でもレナが好きなの?」

「え?」

「知らないとでも思ってた?」

「今、そんな話関係ないじゃないか」

 レオンは、エヴァは話をそらそうとしているのだと思った。

「その恋、絶対に叶わないわよ」

「どう言う事だよ」

 喉まで出かかった言葉をエヴァは飲み込んだ。

「私もね、叶わない事を望んだの。本当バカみたいよね」

 エヴァは自分が泣いている事に気がついた。

 レオンに悟られないよう、涙を拭った。

「レオンは、どこで働くの?」

「経済を勉強しているから、役場で働いていつかは城で働く高級役人になりたいと思ってるんだ。生活も安定するだろうし」

 城で働きたい。

 そうよね、誰もがそう思うのよ。

「私は城のメイドになりたかったの」

 雨が降り始め、大通りの石畳を濡らし始めた。

「なれば良いじゃないか」

「世の中には、どんなに頑張っても無理な事ってあるのよ、レオン」

「エヴァ……」

「じゃぁね」

 エヴァは、気持ち良さそうに雨に濡れながら去っていった。


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