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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
旅の始まり14歳
29/271

二人のドミニク 告げられる悲報

●レナ…主人公。コサムドラ国皇女

●エリザ…レナのお付き

●ドミニク…ムートル国国王の弟

●ルイーズ…レナの祖母

●ドミニク老人…コサムドラ国の高級役人

●ベル…レナの祖母ルイーズのお付き。レナを見守り続けている。

●レオン…レナの幼馴染

●エヴァ…レナの親友


無事ムートル国ブルーノ王との面会を行えたレナ。

ブルーノの弟ドミニク王子を連れて帰国する事になった。

その頃、ベルは以前住んでた街の様子を伺いに行っていた。

 レナ、エリザ、ドミニクを乗せた馬車はムートル国を今まさに出ようとしていた。

「間も無くコサムドラ国に入ります」

 エリザが窓の外を見て言った。

「少し止めてもらえる?」

 レナも窓の外を見た。

 国境の街は賑やかだったが、国境が近づくにつれ兵の数が多くなり、目に入るのは兵ばかりだ。

「何かご用でも? 予定外の場所で外へ出るのは危険です」

 ギードの事もありますし。

 言葉には出さないが、エリザの顔にはそう書いてあった。

「そうね、仕方がないわね」

「良いじゃないか、出ようよ。馬車に乗りっぱなしで、疲れちゃった」

 事情が分からないドミニクが、少し駄々をこねる。

「あのね、ドミニク。今外に居る兵の皆さんは、お仕事中なのよ。今、私達が馬車から降りると、余計なお仕事を増やすだけなの」

 レナが、ドミニクを諭した。

 一年前、嵐の中城を抜け出した事を思えば、随分成長された。

 ベル様も、お喜びになるわ。

 エリザの表情が少し緩んだのを、レナ馬車見逃さなかった。

「後どのくらいで着くの?」

「そうね、後二時間ほどかしら」

 来た道より、これからの道の方が長いと知ったドミニクは、ガックリと肩を落とした。

「今朝方ベル様より、城へ戻る前に古城へ寄るよう早馬が参りました」

 エリザが急に思い出したかのように言った。

 ベルの目的は分かっている。

 嫌な報らせは後の方が良いだろうと、ワザと今まで黙っていたのだ。

「私、きっとベルに叱られるのね」

 今度は、レナがガックリと肩を落とした。



 古城では、ドミニク老人が馬車の到着を今か今かと待っていた。

「ドミニク、まだ一時間はかかるよ」

 ルイーズは、さっきから何度も窓から見えもしない門扉を気にしているドミニクが可笑しくて仕方なかった。

「いや、もしかしたら馬の足が速いかもしれませんしな」

「お茶が冷めてしまったようなので、新しいお茶を用意してまいります」

 ベルもこんな落ち着かないドミニク老人を見たのは初めてだった。

 ルイーズとベルがこの国へやってきた頃、ドミニク老人は城の中でも一番の好青年だった。

 若くして役員のトップまで上り詰めた頭脳、そして麗しい容姿。

 メイドたちの羨望も的だった。

 そして、それを自覚していた。

 が、時の流れが美しい青年を老人にしてしまい、美しいと評判だった妻との二人の生活になってしまった。

 老人二人だけでは街の家は大きすぎるし、警備を雇うのはもったいないと、妻と二人城の一室で暮らしている。

 国の功労者であるドミニク老人には、生き字引として夫婦で城で暮らして貰うのだと言ったのは、アンドレ国王だった。

 これで痛い足を引きずって馬車に乗り、城へ通う事も無い。

 ドミニクは泣いて喜んだ。

 妻も最初は城での生活に慣れるか心配だったが、若いメイドの教育係りを自ら買って出、生き生きと暮らしている。

 しかし、旧知の仲だったドナルド・クレマンの陰謀と失脚は、ドミニクを打ちのめした。

 長年の友だと思っていたのに……。

 ここ暫くは、妻が心配するくらい部屋に閉じ篭る事が多くなっていた。

 そこへ、飛び込んできたのが、ムートル国ドミニク王子の養育だ。

 確かドミニク老人の母方の縁者が、ムートル国王に見初められ嫁いだと聞いた。

 そして産まれた三番目の王子に、ドミニクの名を使わせて欲しいと手紙が来た。

 勿論、大喜びで快諾した。

 ドミニク老人と妻の間に子はなかったので、突然孫が出来た気分だった。

 


「レナ様の馬車が門を通りました。間も無く、ご到着ですよ!」

 ベルが部屋に飛び込んできた。

「ほら、やっぱり馬の足が速かった」

 と、ドミニク老人は飛び出していった。

「馬よりも、ドミニクの足の方が早いんじゃないかい?」

 ルイーズが苦笑した。



 馬車の中のレナにも、ドミニク老人が古城から転がり出るように飛び出して来るのが見えた。

「ドミニク、あの方がドミニクさんよ」

 ドミニクは、馬車が止まった途端飛び出して行き、ドミニク老人に抱きついた。

「ドミニクさん、始めまして! 僕、ドミニクです!」

「これは、これは元気な王子様で」

 ドミニク老人は、突然抱きつかれ驚いた様子だったが、顔はこぼれんばかりの笑顔だ。



「ルイーズ様、始めまして。ムートル国王子のドミニクです」

 早速、ドミニク老人に挨拶の仕方を教えられたドミニクは、ドミニク老人に手を引かれルイーズの前にやって来た。

「可愛らしい王子様だね。うちのレナを守ってくれたそうだね、ありがとう」

 思っても居なかったお礼を言われたドミニクは、照れてしまいドミニク老人の背後に隠れてしまった。

「小さな頃のアンドレをみているようだねぇ」

 ルイーズも、顔も自然とほころんでいた。



 古城の台所では、ベルに呼ばれたレナがやってきた。

「ベル? 呼んだ?」

 レナはあえて平静を装ってやってきたが、内心はベルに叱られるのではと、どきどきしていた。

 確かに、あの行動ははしたない行動だったけどね、ああでもしないと面会は叶わなかったのよ。

 一生懸命、言い訳を考えていた。

「おやレナ様、おかえりでしたか。お聞きしたところによると、えらくご活躍だったようで」

 レナの目に飛び込んできたのは、ベルが調理する鍋だった。

「ベル! これって!」

「私の話を聞いていませんね。まぁ、良いでしょう。ええ、肉屋の肉団子ですよ」

「ベル! ありがとう! ずっと食べたかったのよ!」

 レナの喜びように、ベルはお説教を忘れてしまった。



 いつもはルイーズ一人の夕食が、今夜は賑やかになった。

 小さなドミニク、ドミニク老人、レナ、ルイーズ、ベル、ベルの夫クリストフ、エリザで、レナの大好物肉屋の肉団子を使った料理。

「本当に美味しいねぇ」

 レナが子供の頃から食べていたと聞いただけで、ルイーズの目には小さなレナが大喜びで目の前で食べている姿が浮かんだ。



 この夜は、古城で一夜を過ごし、早朝城へ戻る予定である。

「明日は早いから、もう寝たほうが良いかしら」

 ぼんやり月を眺めていると、ベルがやって来た。

「レナ様、少しよろしいですか」

 とうとう、お説教がやって来た、とレナ思ったが違った。



「え? エヴァが?」

「レオンが心配しておりました」

「でもエヴァは街の人達に、私の事言わなかったのね」

「そのようですね、レオンですら知りませんでした」

「と言う事は、私が街に行っても問題は無いと言う事ね」

「街は問題なくても、城では大騒ぎです。ムートル国であった事お忘れですか?」

 ベルのお説教が始まりそうになったので、思わず立ち上がり窓辺から空を見上げた。

 エヴァは一体どうしてしまったんだろう。

 もしかして、全部わたしの所為?

 レナは、疲れていたはずなのに空が明るくなるまで眠れなかった。



「おはよ!」

 新しい生活への期待に胸を膨らませたドミニクが元気で現れた。

「おはよう」

 それとは対照的に、眠れなったレナは酷い顔だった。

「さぁ、城へ向かいますぞ!」

 こちらも期待に胸を膨らませたドミニク老人が、ドミニクの手を引いて馬車に向かった。

「レナ様、大丈夫ですか?」

 ベルがドミニクの荷物を抱えて近づいてきた。

「大丈夫よ。少し眠れなかっただけだから」

 ドミニクの新生活に水を差す訳にはいかない。

 その時、エリザが大急ぎで追って来てレナに耳打ちをした。

「昨夜遅く、ムートル国宮殿内で暴動が起きたようです。ドミニク王子を急いで城の安全な場所へ」

 レナは全身から血の気が引くのを感じた。

 ベルが悲鳴を上げそうになり、慌てて口を押さえた。

「ドミニクには伝えず、急いで城を目指しましょう」

 レナは馬車へ急いだ。

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