復活20
エリザは続けた。
「今後、ルイーズ様や御一家をタルメランから守れると言うのは非常に大事です。タルメランがレナ様を襲わなくても、レナ様はタルメランを襲えるのですから」
その一言で、レナも決意した。
「エリザの言う通りだわ。ルイーズの安全を確保すれば、後は私の代でタルメランを止めれば良いだけ」
「そんな簡単にはいかないよ。タルメランが約束を守るもは思えない」
真っ先に反対したのは、ハンスだった。
「それはそうだけど……」
ハンスの言う事も有り得ない話では無い。
「だったら誓わせれば良いのよ」
ソーニャだった。
「タルメランに、誓いを立てさせれば良いのよ」
アンドレには魔力が無い為、ソーニャの声は聞こえない。しかし、皆が一斉に人形を見たのでソーニャが何か言ったのだと察した。
「ソーニャさんは、なんと?」
「タルメランに誓いを立てさせれば良いと」
エリザが慌てて答えた。
「それは、アミラがしたと言う」
そんな事をしたから、死んだんじゃ無いか。アンドレ、急に腹が立ってきた。それは、大事な娘や孫の一大事に、自分が蚊帳の外で何も出来ない事への苛立ちでもあった。
「とにかく、私はレナやルイーズが危険な目に遭う事は、何であろうと全て反対だ」
誰も何も言えなくなってしまった。
「お父様、私はママが命懸けで守ってくれたから、こうして今ここにいるし、ルイーズもいます。だから、今度は私がルイーズを守る番なの」
今度はアンドレが、返す言葉を失った。
「大丈夫よ、お父様。きっと上手くいくわ」
レナには自信があった。
「レナの考えている事、分かるわよ。誓いの証人には私がなるわ」
ソーニャが言った。
あの子には私を証人にして誓いを立てさせれば良い。きっとあの子は自分が誰に誓いを立てたのか分からないまま、誓う事になる。
「お願いするわ、ソーニャ」
ソーニャはタルメランの叔母だ。誓いの証人として、間柄近ければ近い程、誓いの力は強くなる。タルメランが誓いを破ればそれはタルメラン自身の死をも意味する。
「でもタルメランって、死ねないんだよね」
ハンスが思い出した。
「それは、私が何とかするわ」
ソーニャの一言で、計画は動き出した。本当に何とかなるのか誰にも分からなかったが、もう前に進むしかないのだ。
約束の日、タルメランは城までやってきた。
通された応接室の隅には、また古い人形が片隅に置かれていた。どうやら女の子の霊が乗り移っている様だ。
「お待たせしました、タルメラン様。ファビオの件、私でお役に立てるか分かりませんが、お手伝いいたします。そんな状態のファビオを、知らぬ顔で見過ごすのも夢見が悪そうですし」
タルメランは椅子から立ち上がって喜んだ。
「そうか! そうか!」
「ただ、タルメラン様には私達一族には手出しをしないと言う誓いを立てて頂くのが条件です」
この話が上手くいけば、コサムドラもベナエシもタルメランの手から逃れられる。タルメランが誓いを立てた後、レナはベナエシの後継者となる事を承諾するつもりでいた。
そう、この計画はタルメランの目論見そのものを頓挫させる為でもあった。
「なぁに、その程度の誓い、今直ぐここで立てよう。誰が証人になるのかな」
これで、ファビオが意識を取り戻せば、先ずはリエーキを支配し、それからベナエシと名を変えたルザマ国を復活させるのだ。五百年近くも待ち続けた扉が、今開こうとしている。
タルメランは、慎重さに欠けていた。
「お気付きだとは思いますが、あの古い人形には女の子の魂が宿っています。魂は永遠です。誓いを永遠の物にしていただく為に、人形に宿っている魂を証人にお願いします」
タルメランは、立ち上がると人形を手に取った。
「名は?」
「ソーニャよ」
タルメランの問いに、ソーニャが答えた。
もしタルメランがソーニャの名に聞き覚えがあれば、何か言うはずだ。言って欲しい。
ソーニャは、願った。
しかし、タルメランはその場で軽々しく誓いを立てただけだった。
大事なところで軽率なのはタチアナにそっくりだわ。
ソーニャは肩を落とした。
「では、明日ファビオの家で」
タルメランは、多くの少女達の魂と共に帰って行った。
読んで頂き、ありがとうございます。
明日の投稿が最終話となります。
最終話と言っても、レナ青春編が終わるだけで、続くんですけど……。
ただ、少しお休みをいただく予定にしております。
それでは、最後までよろしくお願いいたします。
みや




