ブルーノ国王 レナの暴走
普通の少女から皇女になったレナ。しかも、自分が忌み嫌われる魔人であると知る。
その事で親友エヴァとも距離をとらざるをえなくなり、友を失う。
しかし、皇女としての日々は待ってくれない。
近隣国への挨拶のた旅が始まったが、最初の国で王に面会できない日々が続き、誘われるがままに街へ出てしまいギードと言う魔力を持った少年に遭遇する。
どうやらギードはレナを探していたようだが、その後姿を消す。
そして、隣国の王から手紙が届き、再び隣国へ向かう事になるが……。
「レナをムートル国に行かせて良いものだろうか」
アンドレがジャメルの部屋に訪ねてきた。
「姫君に危害を加える気はなさそうだが」
「お前やエリザをまくとは、なかなかの者なのだろう」
アンドレは、レナの事をまだまだ自分が守らなければならないと思っている。
しかし、ジャメルは違った。
「姫君の魔力は誰よりも強い。暴走を防ぐ為にも、戦い方を学ぶべきだ」
「レナに戦えと言うのか!」
アンドレは、思わずジャメルに詰め寄った。
「戦い方を知る事で、守り方も分かると言うもの。違うか」
アンドレに返す言葉は無かった。
結局、レナは予定通り再びムートル国へ向かった。
「ベル様のお茶が間に合って良かったですね」
「そうね、今日は大丈夫みたい」
ベルお手製のお茶は、レナを馬車酔いから救ってくれた。
「ベルはお茶の調合が上手よね」
「ルイーズ様もですよ」
「お祖母さまも?」
「お二人の祖国は薬草が豊富ですので、代々その家の薬草の配合を」
「もういわ」
「え?」
「それ、いつか私も学ぶって事よね」
「そうです」
学ばなければならない事が多すぎて、あっと言うまにおばあさんになってしまいそう。
レナは、何だか馬車酔いのような気分になった。
案内係のメイドが、部屋に案内してくれた。
「王の準備が整い次第、ご案内いたします」
メイドお茶の準備をして下がっていった。
「ねぇ、エリザ、私直ぐに会えると思ってたんだけど、これって……」
「静かに待ちましょう」
レナは嫌な予感がしていた。
1時間程経った頃、突然扉が開いた。
「エヴァ! じゃ、ないんだっけ」
入ってきたのは、ドミニクだった。
「ドミニク!」
レナも椅子からと飛び上がり、再会を喜ぼうと駆け寄ろうとしたが、エリザに足を踏まれた。
「レナ様、ご挨拶はきちんとなさって下さい」
「あ、ごめんなさい。えーっと、ムートル国王子ドミニク様、お久しぶりでございます」
レナは、かしこまって挨拶をしたのだが、それを見たドミニクが大笑いをした。
「そんな風にしたら別人だね」
「笑うなんて失礼よ」
「それは失礼いたしました、レナ姫様」
ドミニクが、うやうやしく挨拶をした。
今度はレナが笑う番だった。
「ねぇ、もう良いでしょエリザ。私とドミニクは友達なのよ」
「仕方ありませんね」
流石のエリザも他国の王子を叱る訳にもいかず、渋々納得した。
とは、言うものの……。
「何を話せばいいのかしらね」
「僕さ、レナに聞きたい事があって、来たんだ」
「なに?」
「レナの国に、ドミニクって人居る?」
レナの頭に浮かんだのは、ドミニク老人だった。
ドミニクと言えば、あのドミニク老人しか思い浮かばないけど……。
「いらっしゃるけど……」
「どんな人?!」
ふと、エリザが思い出した。
「確かドミニク様のお母様亡くなった先代王妃様は、あのドミニク老人と御親戚でしたね」
「そうなんだよ! 僕の名前も、その人から貰ったんだ!」
誇らしそうなドミニクの顔を見て、これは是非ともドミニク老人に合わせてあげたいとレナは思った。
「ねぇ、レナ、その人はどんな人なの!」
「そんなに気になるなら、是非我が国へお越し下さいドミニク王子」
「行っていいの? 僕、レナが国に戻る時に、一緒に行くよ!」
レナは冗談のつもりで行ったのだが、ドミニクは本気にしてしまった。
やはりまだ十歳の少年だ。
「そんな事、勝手に決めてしまって良いの?」
まぁ、街中にフラフラと出掛けたり出来るんだから、問題ないのかしら。
それにしても自由過ぎる気がする。
レナが、そんな事に思いをめぐらせている事に気が付いたドミニクが、とんでも無い事を言った。
「国王様も公務もしないで人に任せっきりで遊んでるんだもん。今日もだよ。僕だけが自由にしてるわけじゃないもん」
この国は、国王が公務もしないで遊んでるですって?
今日も、ってどういう事よ。
今日も面会無しなの?
レナは王との面会を待ち続けた日々を思い出した。
ただただ、無駄に流れた時間を。
「どうかした?」
レナが急に黙り込んだので、ドミニクは心配になった。
「国王様は、今日も遊んでいらして公務をなさる気はない、という事ね?」
「う、うん……」
「ドミニク、ブルーノ兄さんはどこに居るの?」
「国王様をそんな風に呼んではいけません!」
エリザが注意をしたが、レナの耳には届かない。
「僕が兄さんの所まで案内するよ!」
ドミニクが嬉しそうに先に走り出す。
「レナ様、いけません!」
エリザの制止も聞かず、レナはドミニクの後を追った。
「ブルーノ兄さん!」
一番下の弟、ドミニクが部屋に飛び込んできた。
両親が亡くなって以来、ドミニクに厳しく教育する者が居なくなり、自由奔放な子になってしまった。
ノックも無しに部屋に入ってくるなんて、何て無作法なんだ。
「ノックもしないで入って来るなんて、失礼だぞ」
ブルーノは、本から目をそらす事なく、言った。
「人の顔も見ないで話すのも十分に失礼よ。それに、他国から来た客人を待たせ続けるのは、もっと失礼よ!」
聞きなれない少女の声に、思わず顔を上げた。
「君、誰……」
「兄さん、レナだよ!」
ブルーノは、手にしていた本を下に落とした。
「あの、ほんと、私失礼をしてしまって、ごめんなさい」
レナは入って来た時の勢いを失っていた。
ドミニクの兄だと言うから、勝手に同い年から、もしかしたら自分より年下かと思っていたら、ブルーノ国王は成人を向かえた立派な青年だった。
怒りをぶつけようとした相手が、思いのほか大人だったため、何か子供の自分には分からない事情があるのかもしれない、と思い何も言えなくなってしまった。
「兄さん、レナが怒るのも無理ないよ。レナは、兄さん会うためにずっと待っててくれてたんだよ」
「そして、ドミニクお前が街に連れ出して、騒ぎを起こした」
「あの、それは、私が付いて行ってしまったのが悪いんです」
「レナ姫」
「はい!」
レナは名前を呼ばれて、突然緊張してしまった。
よく考えたら、他国の王と会うのは、生まれて初めてなのだ。
「どうして、急にこの部屋へ?」
「あの、えっと……」
突然核心を突かれたレナは、一瞬たじろいだ。
が、部屋を見渡して再び怒りが湧き上がってきた。
ブルーノ王がノンキに本に囲まれ遊んでいる間、レナは無駄な時間を強制的に過ごす羽目になった。
「あの、ブルーノ王に一言、いえ、もっと申し上げたい事があって参りました」
「なんでしょう」
ドミニクは、今から何が起こるのかわくわくしていた。
「王は、ここで何をなさっているのですか?」
「何をって、見て分かりませんか」
「ノンキに本を読んでいらっしゃる」
「そうです」
「その間、私は何をしていたと思われますか?」
「え?」
「王との面会を待っていたんです」
「そうですか」
「そうですかじゃないわよ!」
レナは相手が他国の王であると言う事を完全に忘れてしまい、大声を出してしまった。
部屋にメイドや役人達が集まってきた。
中にはエリザの姿もあった。
「レナ様!」
エリザの声で、レナは自分が置かれている状況に気がついた。
集まった人を見て急に恥ずかしくなったレナは、急いで部屋を出た。
その後を、エリザが追う。
「エリザ、帰りましょう! 馬車を用意して!」
「はい」
「ねぇレナ! 帰らないで!」
ドミニクが追いかけてきた。
レナは足を止めた。
「ねぇ、レナ帰らないで。今日は泊まって。お願い。僕レナと話したいことがいっぱいあるんだよ! ねぇ、お願い!」
ドミニクに懇願され、一晩だけここに留まる事を約束してしまった。




