復活19
もう自分が出るしかない。
扉の外では、タルメランに敵うわけが無いと知りながら、ハンス、エリザ、エリック、アルセンが待機していた。
カーラは、子供部屋の真ん中でルイーズとピエルを抱きしめていた。ルイーズの手には、クマのぬいぐるみが握りられていた。
そして、アンドレは、執務室でただ報告を待つしかなかった。
「お待たせして申し訳ありません」
レナが応接室に入った。
「やぁ、レナ。久しぶりだね」
レナはタルメランの姿を見て絶句した。
この姿、ハンスもソーニャも驚いていないのだろうか。それとも、見えているのは自分だけなのか。
タルメランの身体には、沢山の少女達の魂がしがみついていた。
レナに近付こうと立ち上がるタルメランの身体が重そうなのは、高齢だからではない。少女達の魂が重いのだ。
「ご無沙汰して、申し訳ありません。出産の時の花束と、今日の祝いの菓子、ありがとうございます」
レナは一気にまくし立てた。
「村に咲いていた花だよ。覚えていたんだね」
嬉しそたに笑うタルメランとは対照的に、少女達の魂は怒りや悲しみの表情だ。
レナは何処を見ていいのか、分からなくなった。この少女達は、復活の儀式で犠牲になった少女達だろう。その中に、アリサの姿もあった。
あの子まで犠牲に……。
もしかすると、あの中に自分がいたかもしれないと思うといたたまれなかった。
絶対にルイーズは守らなければ。
「手紙拝見しました。どう言う事でしょうか。私は何を手伝えば良いのでしょうか」
タルメランに近付かれたくない。近付かれると、ルイーズの居場所を知られるような気がした。
「話を聞いてくれるか」
タルメランは、再び椅子に腰掛けた。
「お話を聞かない事には、何ともお返事できませんもの」
「レナは、利口な子じゃ」
タルメランは、満足そうに目を細めた。
何故ファビオがエヴァを庇ったのかは、分からない。しかし身体は回復したにも関わらず、ファビオが意識を取り戻す気配はなく、誰が何をどうやってもファビオの思考にすら入れない。
レナなら、何とかできるかもしれない。
「ファビオの心に話しかけるだけで良いのだ。頼めないだろうかの」
何も知らない者が、この二人の様子を見れば、弱り切った老人の些細な頼み事に対して、首を縦に振らない意地悪な小娘に見えるだろう。しかし……
「それは、私にとって大変なリスクです」
一度は愛したファビオが、このまま意識が戻らないというのは何だか落ち着かない。しかし、あの日城からレナを連れ出した時の狂気を思い出すと、そんな頼み聞けるわけがなかった。
「もちろん、ただとは言わない。何かレナの希望を聞き入れよう」
レナの心がぐらりと揺れた。
「もし、今後私達一族には手を出さないと約束下さるなら」
ルイーズや家族、そしていずれ出来るであろうルイーズの新しい家族達。それらを守る事が出来るなら、ファビオが意識を取り戻し自分を狙って来る程度の事、何でもないと思えた。
「なぁに、そんな事。分かった、誓おう」
だったら今すぐにでもファビオの元へ、と喉元まで出た時タルメランが言った。
「レナの子や家族を儀式に使わんでも、リエーキには他にも儀式で使える子らが、ようけおる」
レナは喉元まで出掛かった言葉を飲んだ。
ルイーズを守りたいばかりに、私はリエーキの少女達を危険に晒すと言うのか。
「少し考えさせて下さい」
ルイーズをタルメランから守る良い機会だと言うのに、レナは思い切れなかった。一人で背負うには重すぎる。
タルメランは三日の猶予を告げて、城から去った。
「私、どうしたら良いんだろう」
ハンス、アンドレ、エリザ、カーラ、エリックそこにいた誰も答える事が出来なかった。
「ごめんね、私何の役にも立たないわね」
口を最初に開いたのはソーニャだった。
「ソーニャが謝る事じゃないわ」
レナが大きなため息をついた。
兄なら、どうしただろう。
ジャメルの死を確認したあの日から、エリザの指標は兄だった。
「ただ前を見て走れ!」
兄の声だ。村から逃げたあの日、兄に手を掴まれ走った時の兄の声だ。
何かあれば、その時対処すればいい。今タルメランからの提案を断ったからと言って、他の少女達が救われる訳でもない。ならば、ルイーズやレナの身の安全を確保した上で、他の少女達を救う手段を取れば良い。
「レナ様、タルメランの提案に乗って下さい」
エリザが、決意に満ちた声で言った。
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