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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
愛しさの19歳
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復活13

 ハンスは何か言おうとするも適切な言葉が出てこず頭の中で何かが空回りしているようい思えた。

 突然アンドレが笑い出した。

「笑ってしまって申し訳ありません。いえ、生まれたばかりのルイ―ズに急なお話だったので」

「ええ、もちろん突然なのは分かっておりますわ。私も、どうかと思いましたのよ? でも、善は急げと申しますし」

 ここへ来て、リリーも流石に時期尚早過ぎた事が恥ずかしくなったのか、最後はしどろもどろだった。

「お話はありがたいのですが、ルイーズは生まれたばかり。今のところ健康に問題はございませんが、何が起きるかまだまだ未知数です。せめてルイーズが十歳になってからのお話しに致しましょう」

 リリーは、アンドレの言葉を、一言一言飲み込むかのように聞き入った。

「本当にそうですわね。でも、ルイーズ姫は必ず健康で大きくなられますわ」

「ありがとうございます」

 やっとハンスも口を挟む事が出来た。


 リエーキのタルメランの古城には、ジョアンが毎日マルグリットに会いに来ていた。

 まだ若い王と少女。二人は庭を散歩したりたわいもない話をしたり、静かな時間を過ごした。

 母リリーとは違い、マルグリットは慎ましく多くを要求せず、頬を染めてジョアンを見上げる。日を追うごとにジョアンのマルグリットへの想いは強くなっていった。

 ある日、マルグリットの手が荒れている事に気が付いた。昨日初めて触るリエーキの作物で扱い方を知らずに被れてしまったのだ。ファビオが元気であれば一瞬で治る程度だ。

「どうしたんだい、その手」

 マルグリットは、慌てて手を後ろに隠そうとしたが、ジョアンに手を掴まれてしまった。

「いたい」

 突然ジョアンに手を握られたマルグリットは、驚いて声を上げた。

「ごめんよ! 大丈夫?」

 ジョアンは慌ててマルグリットの手を放した。

「大丈夫です」

 もう我慢の限界だった。

 ジョアンはマルグリットの小さな体を抱きしめた。

「あ、あの、ジョアン様……」

 マルグリットは、ジョアンの腕の中で亡くなった夫の事を思い出した。あの人は、こんな風に優しく情熱的に抱きしめてくれた事があったかしら。遠い昔の事の様で、何だか妙な気分だった。

「ごめん」

 ジョアンはそう言ったものの、マルグリットを抱きしめたままだった。

 心地いいジョアンの腕の中で、最初は体を固くしていたマルグリットだったが、そのうち力が抜けた。

 何も緊張する事はない。私はこの青年の幼妻になるのだ。

 一瞬、こんな父以外の男と抱き合う母の姿をファビオが見たらどう思うだろうかと言う思いが過った。そう言えば、ジャメルとの事もあの子は知っていた筈なのに、何も言わなかった。ファビオが、どう思っていたのかは分からない。しかし、ファビオへの配慮よりも、この若い国王の妻としての新しい人生への期待が上回った。

 そっとジョアンに寄りかかってみた。

「マルグリット?」

 ジョアンも緊張しているのだろうか、少し声がかすれていた。

「あの、私まだ十一歳ですし何も出来ませんけど、私なんかで、本当によろしいのでしょうか」

 そう言ってジョアンの腕の中で不安げに見上げるマルグリットの唇に、ジョアンの唇が一瞬重なった。

「ジョアン様……」

 マルグリットの目に涙が溢れた。

「嫌だった? ごめん」

 慌てたジョアンは、マルグリットから離れた。

「そんな、嫌だなんて……」

 自分でも、どうして涙が出てきたのか分らなかった。

「ごめんね、急ぎ過ぎたね。もうしないから」

 ジョアンは照れ隠しで先に古城の中へ向かって歩き出した。

 後を追ったマルグリットは、後ろからジョアンの手を握った。一瞬驚いた顔をしたジョアンだったが、二人は仲良く手を繋いで城の中へと戻って行った。


 ジョアンが帰った後、マルグリットはファビオの部屋でその日を過ごした。

 ジョアンの元へ嫁げば、こうしてファビオの傍らで世話をする事も叶わないだろう。食事はメイドに教えておいた。排泄の世話だって、この国は魔人の国。魔力を使うことに躊躇等する必要もない。メイド程度の魔力でも難なくこなせている。

 ファビオだって、もう子供じゃないんだ。いや、子供になってしまったのは私の方だわ。ただ、ファビオが心を開いて目を覚ましてくれる事を祈るしかないのだ。

 この国の妃として力をつけた暁には、必ずやファビオをこの魔人国の王にする。

 マルグリットは、いつまでもファビオの顔を見つめ続けた。


次話も、よろしくお願いします。

(何だよ。ジョアン、マルグリットにメロメロやないかい)

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