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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
愛しさの19歳
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復活12

 ジョアンの元に嫁ぐ前に、何としてもファビオの命を繋ぐ手段を考えなければ。

 マルグリットは考え得る可能性を考えたが、ファビオの意識を取り戻す事も、意識の中を探る事も出来なかった。

 ファビオは、もうこのまま死を待つしかない。せめて最後に好物を作ってやりたい。ファビオの人生、いったい何故こんな事になってしまったのだろう。

 マルグリットは、小さな身体で調理をしながらファビオが生まれた時の事から今までを思い返していた。そして気付いた。ファビオの平凡な人生が変わってしまったきっかけは、レナだ。

 あの小娘。絶対に許さない。

 出来上がった料理を盆に乗せてファビオの元へ運んだ。脳裏に浮かぶのは、マルグリットの料理を喜んでい食べていた頃のファビオだった。

「ファビオ、貴方の好きな物を作ったわよ」

 そっと枕元に、盆を置いた。

「え?」

 今、ファビオの手が動いた気がした。

「ファビオ?」

 顔を見ると、瞼の下の眼球が動いている。

「ファビオ!」

 今度は、鼻が何か匂いを捉えようとする様に動き出した。

「ファビオ、良い匂いでしよ? ほら、一口食べてみて」

 スプーンを持つ手が震えた。

 唇にスプーンが触れると、ほんの少し口が開いた。マルグリットが震える手で、その僅かな隙間から料理を入れると、ファビオはそれを受け入れた。


 ファビオが食事を受け入れた。

 マルグリットは泣いて喜んだが、そこまでだった。

「これは単に身体が本能的に働いて飢えをしのいだだけで、ファビオ自身の意思で食べているわけではない」

 タルメランはそう言ったが、ファビオはマルグリットの作った料理でその本能を働かせたのだ。そこに、ファビオの意思が関わっていないなんてありえない。

 マルグリットは、ファビオの為に料理を作った。体力さえ戻れば、また何か変わるかもしれない。

 タルメランは、レナに会おうと居場所を探したがレナの気配を見つける事が出来なかった。

 まさか自分がこんな手段でレナに接触を図る事になるとは。

 タルメランは、ペンを手に取った。


 コサムドラの城では、珍客に皆が戸惑っていた。

 アンドレも、一体どうすれば良いのか分からなかったが、ハンスト共に面会する事にした。何せ相手は魔人だ。

「突然来てしまいまして、すみませんね。ジョアンがご挨拶もなく、こちらをでた事を気にしてましてね。これは、直ぐにでも一度親としてお詫びに来なければと思っておりましたのよ。でも、ほらご存知だとは思いますけど、色々ありましたでしょ? まぁ、だからって私まで突然押し掛けてしまって、ほはほほ」

 リリーのお喋りに、アンドレもハンスも開いた口が塞がらないとはこの事かと、苦笑いするしかなかった。

「あら、嫌だ。お喋りが過ぎましたわね。いつもジョアンに叱られますのよ」

 リリーは、エリザの用意したお茶を一口飲んだ。

「ジョアン、いやリエーキ国王様はお元気ですか」

 やっと、ハンスが口を挟めた。

「ええ、忙しくしておりますわ」

 オクサナから、ジョアンの母リリーがコサムドラに入り、どうも城を目指していると知らされたアルセンは、城から気配を消し隣室で息を潜めていた。

「このお茶、美味しいですわね。もぅ、リエーキのメイド達は前王の躾が良くなかったのか、本当に久しぶりに美味しいお茶を頂きましたわ。ねぇ、あなた魔人よね。うちの城で働かない?」

 目を丸くするエリザに、ハンスは吹き出しそうになった。

「いえ、この城で死ぬ迄お世話になるつもりでございます。お誘い、ありがとうございます」

 エリザは逃げる様に部屋から出て行った。

「では、リリー様。お部屋をご用意いたしましたので、ゆっくりとなさって下さい。コサムドラには温泉もありますよ。誰か伴の者をつけましょう」

 アンドレは、何とかこの場を切り上げようとした。

「あら、ありがとうございます。温泉! 一度行ってみたいと思ってましたの。でも、その前に、大切なお話が御座いますの」

 リリーが居住まいを正すと、アンドレとハンスもつられて居住まいを正した。

 リリーが満面の笑みをアンドレとハンスに向けた。

 ジョアンの人懐こい笑顔は母親譲りなのか。ルイーズは誰に似るのだろう。このまま自分に似た女の子になるのだろうか。

 ハンスは、ぼんやりとそんな事を考えていた。

「レナ様がお産みになったルイーズ姫と、うちのジョアンの婚約をお願いしたいと思ってますの」

 アンドレとハンスはあんぐりと口を開き、 隣室では様子を伺っていたエリザとアルセンは顔を見合わせたまま唖然として、暫くは言葉も出なかった。

次話も、よろしくお願いします。

(一人で勝手に暴走する、、オカンあるある)

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