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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
愛しさの19歳
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復活11

 誰かの声が聞こえてくる。静かにしてくれないかな。凄く疲れたんだ。少し休みたいんだ。


「駄目ですわ。タルメラン様。どうしてファビオはこんな事になってしまったんです。こんなに痩せてしまって、呼びかけにも答えない」

 少女は、ファビオの身体にしがみつき泣きじゃくった。

「魔人国の立派な王になると為と、タルメラン様にファビオをお任せしたのに、何故です。何故なんです」

「すまないねマルグリット。母親の呼び掛けにも応えないとは、もう……」

「そんな……」

 タルメランには、策がないわけでもなかったが、その相手が応じるかどうか自信がなかった。

「もう暫く様子を見る事にしよう」

 タルメランが小石でも持ち上げる様に、ファビオの身体を抱き上げ、立ち去ろうとした。

「私も行きますわ」

「そうしてくれると色々助かるが、この屋敷での生活は良いのかい?」

 一度は事故で命を落としたマルグリットだったが、タルメランの魔力で少女に生まれ変わり、大きな屋敷の一人娘としての人生をやり直している最中だった。

「ええ、ファビオの方が大事ですもの。それに、この屋敷での生活に、そろそろ飽きて来た頃でしたので」

 マルグリットは、そう言って何の反応も示さないファビオの頬に触れた。


 ソーニャを復活させてしまってから三日目。やっと、ソーニャの素性が分かった。

「それにしても、この本。古い癖に嘘ばっかり書いてるじゃない」

 この本とは、ハンスの母リンダが閉じ込められていたムートルの地下牢で見つかった、魔人皇族の歴史書だ。何か手掛かりになればと、レナがソーニャの墓まで持って来たのだ。

「嘘?」

 そんな筈はない。

「そうよ。私が分かる範囲でも、半分は嘘ね」

 一体どう言う事なのだ。この歴史書は信用できないと言う事なのか。

 レナの背中に、冷たい汗が流れた。

 歴史書は嘘。墓に居たのはタルメランの事すら知らないソーニャ。これでは、タルメランと対峙する為の糸口すらも失った事になる。

「例えば、どこの辺りが嘘なの……」

 ぺージをめくるレナの手は震えていた。

「そうね、あ、家系図のぺージを開いて」

 レナは震える手で、家系図の書かれたぺージを開き、ソーニャに見せた。

「ええっと、ああ、この辺りね。あったあった」

 ソーニャが指差したのは、一人の女性の名前だった。

「タチアナ?」

 丁度家系図の真ん中辺り、魔人皇族の王子に嫁いだ女性の名前だ。

「そう、タチアナ。いけ好かない女よ」

「知ってるの?」

「知ってるも何も、私の姉よ」

 レナは、思わず目を見開いてソーニャの顔を見つめた。

「変な顔して」

 ソーニャが楽しそうに笑った。

「ご、ごめんなさい」

 レナは、もう一度タチアナの名を確認した。そして、指でタチアナの名から伸びる線をたどった。

 タルメラン。

 確かに、そう書かれてある。

「あら、この名前、あんたがこの前言ってた名じゃない。あの子、タルメランって名前になったんだね」

 ソーニャは、タルメランという文字を優しく見つめ、そして言った。

「私はね、タチアナに利用されて殺されたんだ」


 ルイーズはコサムドラへ向かう馬車の中で、ずっと悩んでいた事を、そろそろ本格的に計画しても良い頃なのではないかと考えていた。

 きっかけはベルの死だった。見ず知らずの国コサムドラへ突然連れて行かれたあの日から、ルイーズを助け続けてくれたベルの死は、自らの死をも意識させる出来事だった。急にする事はないけれど、正式に決めておくべき事ではある。その日がいつ訪れるか、分からないのだから。

 やはり、コサムドラの王位継承者は、レナしかいない。


 ジョアンの元に、タルメランが少女を連れて訪ねて来た。

「折角来て頂いたのに、留守にして申し訳なかった」

 タルメランは、少しやつれた様に見受けられた。

「お出かけ前にお声がけ頂けたら、伴の者をつけましたのに」

 ジョアンがいつもの笑顔で微笑むと、少女は顔を真っ赤にして、タルメランの後ろに隠れた。

「ほれ、マルグリット。何を恥ずかしがっておる。ジョアン様にご挨拶をなさい」

 マルグリットと呼ばれた少女は、おずおずとジョアンの前に歩み寄った。

「初めまして、ジョアン様。マルグリットです」

 礼儀正しく挨拶をして、慌ててタルメランの後ろに再び隠れてしまった。

 何だか、大人しく可愛らしい子だな。

「初めまして」

 ジョアンがマルグリットに微笑みかけると、マルグリットは耳まで真っ赤になった。

「マルグリットは、親戚筋に当たる娘でな、早くに親を亡くして他所に預けていたのだが、連れ帰って来たのだ」

「それで、お出掛けになっていたのですね」

「ああ、そうなのだ。マルグリットを、ジョアンお前の妻にしようと思ってな」

「え?」

 ジョアンは、耳を疑った。

「私の妻にですか?」

「そうだ」

「まだ子供ですよ?」

「直ぐに大きくなるさ。それに、ジョアンお前とそれ程離れてはおらんだろ」

 マルグリットは、完全にタルメランの後ろに隠れてしまった。

 魔人皇族の血筋とは言え、それも遠い昔の話だ。このマルグリットは、タルメランの親戚筋だと言った。今、この時代に改めてタルメランの血筋と縁を結ぶのは悪い話ではない。母リリーが居ない時で良かった。母は、好意を持って近づこうとする女達を、手当たり次第に遠ざけて来たのだ。この話しを、母に潰されたくはない。

「マルグリット、君はそれで良いのかい?」

 ジョアンは、優しくマルグリットに問いかけた。

 マルグリットは、おずおずとタルメランの後ろから出て来た。

「はい……」

 小さな小さな声だった。それは、ジョアンの気を引こうとあの手この手を使ってくる女達とは、比べ物にならない純粋な声にジョアンには聞こえた。

「分かりました。マルグリットを私の正式な妻として迎え入れます。早急に準備をいたします」

 タルメランが満足そうに微笑んだ。

「マルグリット、準備をする間、何処にいたい?」

 ジョアンに話しかけられる度に、顔を赤らめるマルグリットは、全てを知るタルメランの目から見ても可愛かった。

「タルメラン様のところで……」

 ジョアンが頷いた。

「そうだね。じゃぁ、そうすると良い。その間に、マルグリットが喜んでくれる様に準備をするよ」

 マルグリットが嬉しそうに微笑んだ。

 ジョアンの心臓が一瞬跳ねた。そして、マルグリットが愛おしくて思えて仕方がなかった。こんな気持ちは初めてだった。

「ところで、母君はお元気か?」

 こんな時に、母の話など野暮ったい事を。ジョアンはタルメランに少し苛立った。

「それが、何処かへでけて未だ戻らないのです。少し自由過ぎる母で困っております」

 そう答えながら、マルグリットにどんなドレスを用意しようか、そればかりを考えていた。


次話も、よろしくお願いします。

(ソーニャは、タルメランのおばさん?ああああ、ジョアン、それはダメだ!)

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