復活10
「絶対に騙されないから!」
レナが起こしてしまったのは、ソーニャと言う16歳の女の子の魂だった。
幾ら説明をしても、状況を理解してくれない上にタルメランの事と知らないと言う。
「でしたら、ごめんなさい。人違いです。お墓の中に戻って頂いても……」
「嫌」
終始この調子である。
どうやらソーニャと押し問答をしている間に、お茶の時間になってしまったのかメイドがレナを呼びにやって来てしまった。幸いな事に、メイドにはソーニャの姿は見えないようだった。
「レナ様、お茶の時間でございますが、どういたしましょう。こちらへご用意いたしましょうか」
メイドは崇拝の眼差しでレナを見ている。
ソーニャはそんなメイドの姿を面白がって、隣に立って顔真似をしている。
「そうね、ここで頂くわ」
「私の分も用意させてよ」
憮然とした顔で、ソーニャが言った。
「ここのお墓のご先祖と、お茶をしたいので二人分お願いするわ」
何と、お心優しいレナ様はご先祖の墓石とお茶をするというの?
メイドは目に涙さえ浮かべている。まさか、隣で物真似をされているとも知らず。
「はい。ご用意いたします」
メイドは、しずしずと城に向かって歩いて行った。その後ろをソーニャが真似して歩いていたが、ある程度のところまで行くと、墓石の近くまで引き戻されるようにして戻って来た。
「ちょっとアンタ。人が楽しんでるのに水を差すような事やめてくれる?」
ソーニャはレナの仕業だと思った様だが、レナは同じ光景をカリナの時に見ていた。
「私じゃないわ。魂だけになった人は、遺体のある墓からそう遠くは行けないのよ」
何かに乗り移れば別だけど。
言ってしまうとソーニャが何かと無理難題を言い出しそうで、言いよどんだ。
「そうなの?」
引き戻される感覚が楽しいのか、ソーニャは何度も遠くへ行っては引き戻されるを繰り返していた。
「私、やっぱり死んだんだ」
何度目か引き戻された時、ふと寂しそうな顔して呟いたのをレナは見逃さなかった。楽しくてしていたのではなく、自分が死んだ事を確認するために何度も繰り返していたのだ。
「あなたはどんな人?」
ソーニャの事が知りたい。
レナは、ソーニャに言った。
「私の事何て、誰も興味ないと思ってた」
丁度メイドと使用人達が、テーブルセットとお茶用意を持って向かって来て頃だった。
「お茶の用意が来るから、ゆっくり聞かせてください」
どうして王族の墓に、粗雑な女の子が眠っていたのか、レナはソーニャに興味が湧いていた。
一体母は何を実行に移したのか。母の友人達に聞いても、誰も知らないと首をかしげる。
リリーが姿を消して三日が経っていた。
実の所、自分の時間を邪魔する母がいない事に心の何処かで喜んでいる自分に驚いていた。
しかし、捜索はしなければ、何故探さないのだ、と母が部屋に乗り込んできそうだ。
母が一人、何か見舞いの品を持って城を出て行った所までは掴めたが、その後の足取りは全く分からない。ただ、見舞いの品を持っていたという事は、誰かの見舞いに行ったという事には違いない。ならば……。
ジョアンは、タルメランの元を訪ねた。ファビオの様子も気になるところだった。ファビオが目覚めれば、ジョアンはファビオの配下に置かれる事になっている。
城にはタルメランから頼まれ差し出したメイドが一人掃除をしていた。
「まぁ、ジョアン様」
突然現れたジョアンに、メイドは頬を染めた。
ジョアンはそれに応えるべく、最高の笑顔をメイドに向けた。
「ご苦労様。古い城だから掃除も大変だろう?」
まさか、ジョアンに仕事を労われる等と思っていなかったメイドは、感激して言葉も出ない様子だった。
「タルメラン様かファビオはいるかい?」
まだファビオは目覚めていないのか、メイドの表情が一瞬曇った。
「あの…」
「どうかしたかい?」
ジョアンの笑顔につられ、メイドはあっさりと口を割ってしまった。
「タルメラン様からは、現在多忙でお会いにはなれません、と言うように言われていたのですが……。国王様ですものね、何も嘘を付く必要はありませんわ。タルメラン様は、意識のないファビオ様を連れ、何処かへ行かれました。二日程前の事ですわ。私、お伴しますと申し上げたんですが……」
「私の母が訪ねて来たと思うのだが」
「いえ、私は存じ上げませんが」
一体皆、どこへ行ってしまったのだ。
ジョアンは、ひとり置いて行かれた子供の様な不安に襲われた。
次話も、よろしくお願いします。
(ソーニャ、一体この子は何だ?)




