復活4
リリーの機嫌が少し良くなった頃には、既に太陽は頭上にあった。
「そうだね、ジョアンの言う通りだ。今は大人しく様子を見て、出方を研究しなければいけないね。もしかしたら偽物のタルメランかも知れやしないものね。でも、いざとなったら私がとどめを刺してやるよ」
一晩中、腹の中に溜まっていたこれまでの不満をぶつけたリリーは、すっきりしたのかやっとベッドへと潜り込んだ。
「今日はお疲れでしょうから一日ゆっくりなさってください」
やっと母から解放されたジョアンは、自室に戻るとそのまま床に座り込んだ。考え事をする時には、床に直接座り込むのが子供の頃からの癖だった。
昨夜の様な母リリーの感情の爆発は、ジョアンが子供の頃から年に数回あった。床に座らされ、眠気に耐えながらいつ終わるともしれない取り留めもない母の愚痴を聞き続けた。話し続けるうちに感情が落ち着くのか表情が穏やかになるのだが、途中でジョアンが欠伸でもしようものなら全てが振り出しに戻った。
いつの頃からか、母の話を聞きながら別の事を考えられる様になった。そして別の事を考えている事に母が気づかなくなった時、ジョアンは自分の魔力が母の力を上回ったと知った。
更に母が話したいだけ話し終わったところで、優しく微笑みこう言えば丸く収まる事も学んだ。
「大丈夫だよ。母さんには僕がついてる。いつか必ず魔人皇族の血を引く者らしい生活を送らせてあげる」
そう、こう言っててでも握れば涙を流して喜ぶのだ。
昨夜は一睡も出来なかったが頭は冴えていた。タルメランの言った事が頭から離れないのだ。
真の魔人国を取り返す。
このリエーキが真の魔人国ではないと言うのか。では、どこが真の魔人国なのか。魔人の村がコサムドラの山奥にあったのなら、真の魔人国はコサムドラなのか。いや、それならばわざわざ山を降りコサムドラから離れる必要は無かった筈だ。やはりここは、母に言った様に暫く様子を見て、全ての真偽を見極めるべきなのだろうか。
床に敷き詰めた母好みの敷物の模様を見詰めながら、思いを巡らせていると、ドアがノックされた。母リリーだ。
「今良いかしら」
ジョアンは慌てて立ち上がった。リリーは、いつもジョアンの返事も聞かずドアを開けるのだ。
「あらジョアン、どこかへ行くの?」
「いや、着替えをしようとか思って」
「あらそう、さっきの話の続きだけど」
「ああ、何?」
ジョアンはリリーに最高の笑顔を向けた。
「やっぱりダメよ。例え偽りでも、王の座についたものが誰かの配下になるなんて示しがつかないわ。大丈夫、私に任せて」
「そうだね。じゃぁお任せするよ」
また母が何か厄介な事を、起こそうとしている。
ため息が出そうになるのを堪えて、母を抱きしめた。
「僕の味方は母さんだけだ」
耳元で囁くと、リリーは満足そうに部屋を出て行った。
母が何か厄介を起こす前に、何とかしなければ。
ファビオは慌てて着替えを始めた。
コサムドラの城の中は、平和な時間が流れていた。
今後のタルメラン対策の話合いは、毎晩のように持たれたが、リエーキに自ら赴きたいレナとアルセンを納得させられる代案は浮かばなかった。
解決の糸口となったのは、ベナエシのルイーズからの手紙だった。
「母は、小さなルイーズに会いたいらしい。かと言って、リエーキが混乱している今、国を空ける訳にはいかぬと、悩んでおられる」
アンドレはルイーズからの手紙をレナに渡した。
「私も、あの子に会っていただきたいわ」
レナは決心した。後回しにしていた、魔人皇族の墓探し。もし、上手く墓が見つかれば、今後の対応にも大きく変わって来る。今、やるべき時が来たのだ。タルメランと対峙するには、念入りな下準備をしなくてはいけないのだ。何しろ相手は五百年も生きている魔人。一筋縄で行くわけがない。
このまま回避し続けてところで、ルイーズに自分と同じ運命を負わせるだけだ。ルイーズの人生を守るためなら、命だって惜しくはない。
「私がベナエシに行くわ」
「ルイーズはどうするんだい。連れて行くのか?」
驚いたアンドレは、思わず声が上ずった。
「まさか、ルイーズはこの城に居るから安全なの。私一人で行きます。ルイーズの事は、カーラに任せるわ」
「じゃぁハンスに同行してもらおう」
「あらダメよ。せめて父親にはそばに居て貰わないと。さ、旅の準備をするわ。お父様、お祖母様にお届けする物があるようなら、早く準備をなさってね」
アンドレにはレナを止める理由が見つからず、肩を落とした。
次話も、よろしくお願いします。
(リリー結構な毒親だったのか。あと、そう言えば小さいルイーズが生まれた時、ルイーズがベナエシの庭で何かを見付けてたような……)




