復活1
レナの体力は、オクサナの治療のお陰で数日の内に元に戻った。
「もし、アンの時にオクサナさんが側にいてくれれば、アンの末路は変わっていたかもしれないわね」
そう、全てはそこから始まったのかもしれない。
アンを救えなかった絶望と、使い果たした体力と魔力でレナは長く臥せっていた。その事を心配したマルグリットがレナを訪ねてきたのが全てのきっかけの様な気がする。
「それは違うよレナ」
ルイーズを抱いたハンスが言った。
「そう思わせようと、しているだけだ。本当の全ての始まりは何百年も前に起きていたんだよ」
「そうよね。全ては遠い昔の戦が原因よね」
となると、やはりルイーズを離れる決断をしなければならない。
「ルイーズの前で話す様な事では無いんだけど」
ハンスはうとうとと眠り始めたルイーズをベッドに寝かせ、居住まいを正した。
「なに?」
君とファビオの関係を知っていた。
そう告白するつもりだった。しかし、今それをここで言ったら、今ここにある幸せが全ては幻の様に消え去りそうに思えた。
「えぇっと、その、何だっけ」
「もう、何よ。急にかしこまるから何か凄い事を言い出すのかと思ったじゃない」
「ごめん、忘れてしまったよ」
「ハンス、あなたこそオクサナさんに診て貰った方が良いわよ」
レナが声を殺して笑い出した。
ハンスも笑った。
このままで良い、このまま一番幸せなんだ。
アルセンは店を閉めると、毎日城のエヴァの元まで通った。
「今日の売上と費用の一覧。それと新作の菓子を作ったので食べて」
エヴァはアルセンの差し出した資料と菓子を、遠慮がちに受取った。
「ごめんなさい。あなたの事、全然思い出せないのにお店を任せっきりにしてしまって」
エヴァの記憶は店をギードから譲り受けた事までは思い出した。ただ、魔人や魔力に関わる記憶は何一つ思い出せないでいた。
「いえ、ゆっくりと治してください。大変な病気をしたのですから」
アルセンはいつまでも待つ覚悟だった。
「でもね、とっても大切で楽しみな約束があった気がするの。お店の事かと思って色々考えるんだけど、あまり考えすぎると頭痛がするのよ」
「無理をしないで。いつか必ず思い出しますよ」
夜遅く店の二階へ上がる瞬間が一番辛かった。
もしあの夜、もっと早くタルメランとファビオの侵入に気付いていれば、今夜もエヴァと二人でこの階段を上がっていたかもしれない。もし、いつまでも躊躇しないでエヴァを抱いていれば、あんな辛い目に合わせなくて済んだのかもしれない。
全てが後悔だった。自分がエヴァを好きになっていなければ!
もしやこれが今まで自分が行ってきた事への報いなのか。
エヴァの店から消えたタルメランとファビオの行方は、分からないままだった。ただ、その直前までファビオの元実家に居た形跡がある事はエリザが確認した。
「魔力が使われた形跡があります。当時は周到に隠れていた様ですが、やはり何かあったのか慌てて立ち去った為に、少し気配が残っておりました」
エリザからの報告を受けて、ハンスがファビオの元実家まで赴いたが、確かに多少の痕跡があるだけで他は何も見出せなかった。
「何とかコサムドラに居る間に所在を掴んでおきたかったが、恐らくもうコサムドラには居ないだろうな」
ハンスの予想通り、タルメランとファビオの居場所は思わぬ所から判明した。
タルメランとファビオの訪問に狂喜する母リリーの姿は、ジョアンに嫌悪感を芽生えさせた。
「リリーにジョアン、我が子孫よ。良くぞ人間世界で生き延びた」
タルメランに抱きしめられた時の高揚感は、今まで感じた事の無いものだった。しかも、疑わしいと感じていた魔人皇族の末裔である事が証明されたのだと思うと、母に抱く少々の嫌悪感など気にもならなかった。
ただタルメランが意識の無いファビオの事を何も話さない事が不満だった。
ジョアンの感情にはタルメランも気付いてはいたが、今はファビオを治療する事しか頭になかった。
ファビオなしでは、タルメランの計画は何一つ成し遂げられないのだ。
「ジョアン、すまないがこの国の若いお嬢さんを一人、私とファビオに付けてはくれまいか」
次話も、よろしくお願いします。
(そうか、リエーキは魔人の国だから儀式やり放題)




