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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
旅の始まり14歳
25/271

ムートル国 美味しいパンと少年

 普通の少女から皇女になったレナ。しかも、自分が忌み嫌われる魔人であると知る。

 その事で親友エヴァとも距離をとらざるをえなくなり、友を失う。

 しかし、皇女としての日々は待ってくれない。

 皇女の仕事として隣国へ挨拶へ向かうが、国王と会う事が出来ず隣国へ通う日々。

 しかも将来を考え、国の運営に関する勉強まで始まり…

 レナが国民に披露されたあの日、エヴァが声をかけてきた美しい少年に連れて来られたのは、古い居酒屋だった。

「ここは?」

「僕らの拠点なんだ」

「拠点?」

「君、僕等の仲間にならない?」

 少年に顔を覗き込まれ、エヴァは少し胸がときめいた。

 本当に整った顔立ちだ。

「仲間?」

「君、クレマン家で働く予定だっただろ?」

「何故知っているの?」

 何だか悪い予感がした。

 でも

「僕は何でも知ってるんだ」

 美しい少年に優しく微笑みかけられ、そんな予感は直ぐに消えた。

 そしてエヴァは、週の半分はこの古い居酒屋に通い始めた。

 目的はただ一つ。。

 この少年に会うために。



 レナは、相変わらずムートル国の王に面会出来ない日々が続いていた。

 他国で、自国の警備・防衛の勉強をするわけにもいかない上に、ジャメルによる試験地獄で、レナは悲壮な顔をして馬車の中で勉強をしていた。

 連日の疲労からか馬車で酔ってしまったレナは、風に当たりに庭に出る事にした。

 案内された東屋で風に当たっていると、あの庭番の少年がやって来た。

「やあ」

「まぁ、また会えたわね」

「何だか具合が悪そうだけど」

「うん、少し馬車に酔っちゃったみたい。でも、大丈夫よ。ここのお庭の風に当たっていたら、随分良くなったわ」

「ここで一緒に居ていい?」

「もちろん! ちょうど一人で寂しかったの」

 少年は「ちょっと待ってて」と、お茶を淹れて戻って来た。

「はい、気分の悪い時に効くお茶」

「ありがとう、優しいのね」

「庭、褒めてくれたから」

「あら、本当に素敵なお庭よ。うちのお庭番にも見せてあげたいわ」

「ほんとに?!」

「本当よ!」

 二人は暫く庭園について熱く語った。

「流石お庭番ね。凄く詳しい」

「あんたも、メイドなのに詳しいね」

「お祖母様が、お庭いじりが大好きなのよ」

「きっと、優しいお祖母様なんだろうなぁ」

「そうね」

 まさか、頭に血が上り母と自分を毒殺しようとした、なんて言えないわ。

 暫くお祖母様にも会っていない。

 いい加減、この国での面会とご挨拶を終わらせたいが、いつになるやら。

 レナが思わず大きなため息をついた時、遠くからエリザがやって来るのが見えた。

「あら、呼びに来たみたいだわ」

 少年も、エリザがこちらに向かって来ている事に気が付いた。

「僕も戻らないと」

 レナは、少年に名前を訪ねたかったが、自分も名乗らないといけない事に気が付き諦めた。

「明日も来る?」

「多分」

「じゃ、明日は街に行こうよ」

「え?」

「また気分が悪くなって、ここにいた事して、街に行こう。約束だよ」

 少年は、レナの返事も聞かず行ってしまった。

「誰です? あの子は」

 エリザが、走り去る少年の背中を、不審そうな目で見た。

「お庭番だそうよ」

「この国は、あんな子供をも働かせるのですね」

「詳しくは分からないんだけど、そうなのかしらね」

 二人は、思わず少年が見えなくなるまで見ていた。



 翌日、嘘をつく必要もなく、レナはまたも馬車に酔った。

「ベル様に酔わなくなるお茶を用意していただいた方が、良いかもしれませんね」

 エリザが古城のベル宛に手紙を書き始めたので、レナは庭の東屋に向かった。

 東屋では、少年が待っていた。

「昨日より具合悪そうだけど……。大丈夫?」

「大丈夫よ」

「あ、また、あのオバサンが来た」

 少年が慌てて植え込みに隠れた。

「オバサン?」

 やって来たのはエリザだった。

「ご気分はいかがですか?」

「少しはましかな」

「それは、良かった」

「何、呼ばれたの? 面会?」

「いえ、流石にこう連日ですとお疲れも出るでしょうから、今日はこちらに泊めていただく事になりました」

「え?」

「まぁ、そう言う事ですので本日の面会はなし。暗くなる前にはお部屋にお戻りください」

 エリザが植え込みをチラリと目線を送り、宮殿に戻って行った。

「今日、ここに泊まるの?」

 少年が植え込みから飛び出してきた。

「みたいね」

「じゃぁさ、じゃぁさ、街に行こうよ。僕の名前はドミニク」

「私は……エヴァ、エヴァよ」

 思わず親友の名前を使ってしまった。

「エヴァ、行こう!」

 ドミニクに手を引かれて東屋を後にした。



 ずっと馬車でしか通っていなかった道を、ドミニクに手を引かれて歩いた。

「どこへ行くの?」

「僕の好きな場所。あ、お腹が空いたら言ってね。美味しいパン屋があるんだ」

「うん」

 途中、ドミニクお勧めのパン屋でパンを買い、連れて来られた場所は小高い丘だった。

「見て!」

 ドミニクが指差した方に目をやると、あの大きな宮殿が一望できた。

「凄い!」

「でしょ!」

「近くで見ても大きいけれど、こうして全体を見回しても、本当に大きくて素敵ね」

 ドミニクが差し出したパンも、野菜と肉が挟まれてあり美味しい。

「このパン屋の職人さんは、本当に腕が良いのね」

「ムートル国は、農業と酪農が盛んなんだ」

「そうなの?」

「だから、口にする物全てが新鮮で最高級品」

「国民の皆さんは幸せね」

「そうなのかな……」

 ドミニクの顔が一瞬暗くなったのをレナは見逃さなかった。

「どうかしたの?」

「エヴァはいつまでこの国にいるの?」

「それは……」

「ムートル国ブルーノ王次第」

「そ、そうね」

「とんでもない我侭王だよ」

「そ、そんな事言って叱られやしない?」

「別に平気だよ」

 どうやらドミニクは、ブルーノ国王に不満を抱いているようだ。

 お父様にも不満を持つ国民はいるのかしら。

 レナはドナルド・クレマンの顔を思い出していた。

 二人は丘を下りて、街の中心部の美術館まで来た。

 美術館の正面には、前国王夫妻の大きな絵が飾られてあった。

 強く知的な雰囲気の国王と、美しく優しそうな妻、そんな絵だ。

「素敵なご夫妻だったのね」

「馬車が谷に落ちたんだ」

「え?」

「魔人の仕業らしい」

 レナは、突然ドミニクの口から憎憎しげに飛び出した魔人と言う言葉にドキっとした。

「魔人なんて実在するのかしら」

「魔人の村が、山奥にあるんだって」

 こんな子供が魔人の村の事を知っているとは、この国で魔人は現実味のある存在として捉えられている。

 そして、やはり憎まれている。

 どこまでも忌み嫌われる魔人。

 レナは初めて自分が魔人である事を知られる恐怖を肌で感じ、思わず身震いをしてしまった。

「どうかした? 寒いの?」

「そうね、少し冷えてきたかしら」

「じゃぁ、宮殿に戻ろう。あのオバサンにエヴァが叱られたら可哀想だし」

 二人は来た道を戻り始めた。

 後を追う者に気が付かないまま……。

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