約束19
とうとうジョアンの追っ手に見つかってしまった。しかし何故今まで気がつかなかった。魔人が近くに居れば気付いた筈だ。魔力を使わないでいると、弱って行くものなのか?
この状況をどうやって打破するか。相手は二人だが一人は老人だ。
「さぁ行こうじゃないかアルセン。我々の国を我々の手で取り戻すのだ」
我々の国?
「あなたは一体誰だ」
リエーキからの追手でないとすれば……
「我が名はタルメラン。レナやハンスから聞いておらぬか?」
「あなたが!」
レナの言っていた事は本当だった。
「さぁ行こうアルセン」
ファビオは一刻も早くエヴァの拘束を解くべく、口を開いた。
エヴァ、街で評判の菓子店とカフェを営むレナの親友。あの頃、レナの昔話には必ず登場する名だった。アルセンさえ首を縦に振れば、エヴァの記憶を消してここを立ち去れば良い事。レナの親友を苦しめて、レナから嫌われるようなか事にでもなれば、何の為にタルメランと共に居るのかが分からなくなる。
「私は既に国を追われた身です。お役には立てません」
エヴァの目から涙が溢れた。タルメランに魔力を押さえつけられている今、それが何の涙なのか分からなかったが、自分の判断が間違っているとは思いたくなかった。
「そうか」
誰も触れてもいないエヴァの服が脱がされ始めた。それは、ゆっくりゆっくり誰かの手が脱がしているかのようにボタンが外れていく。
脱がされまいとエヴァは暴れているが、魔力の前ではそんなものは抵抗にすらならなかった。
「やめろ」
アルセンが叫んだ。
「お前が私達に手を貸せば、この娘さんは開放してやろう」
「私の父は、あなたに手を貸した事をとても後悔していた」
「ああ、なんと言ったかな。そうだセルゲイだ。セルゲイの望みはお前の魔力だったかな」
そんなの、ダメ!
エヴァの声にならない叫びがアルセンに届いた。
「おや、この娘さんは経験がないようだね」
タルメランが懐から小刀を取り出した。魔力を押さえつけられていても分かる程の妖気を放つ小刀だ。
「この小刀は、多くの血を吸っておる」
レナの言っていた儀式を思い出した。
「復活の儀式」
「魔人皇室のみ許される秘儀をよく知っておるな。ああ、レナか。レナから聞いたのか」
タルメランに握られた妖気を放つ多くの血を吸った小刀。
ファビオの手が震え始めた。
「復活の儀式とは何でしょうか」
答えを聞くのが恐ろしかった。村で飲んだあの血は、牛の血だと信じたかった。
「その話は、ここが済んでからにしよう、ファビオ」
ファビオの動揺に気付いたタルメランは、エヴァの服を一気に脱がした。
まだ誰の物にもなった事のないエヴァの身体が露わになった。
アルセンの顔が怒りで赤を通り越し青くなっていた。
「何だアルセン。お前がリエーキの城でしていた事と、大して変わらないぞ」
タルメランは笑いながら、その胸元に小刀を突き立てた。
しかし、どれ程力を込めようにも小刀はそれ以上エヴァの身体を傷付ける事が出来ない。
「ファビオ!」
その瞬間、エヴァの拘束が解けアルセンの胸に飛び込んで来た。
「ジャン!」
やっと声の出たエヴァがアルセンの名を叫んだ。
「騒がしいぞ娘!」
タルメランがエヴァに殺意を向けた次の瞬間、タルメランとエヴァの間にファビオが立ちはだかった。
殺意はファビオを貫通しエヴァまで届いたが、ファビオを貫通した時に力が弱ったのか、即死は免れた。
タルメランの殺意をまともに受けたファビオは、目を見開いたままその場に崩れ落ちた。
その瞬間、空間をしていたタルメランの魔力が消え同時にタルメランとファビオの姿も消えた。
アルセンは今にも消えて無くなりそうなエヴァの鼓動を確認しながら、使わないと約束した魔力を使って城に瞬間で移動した。
次話も、よろしくお願いします。
(ファビオは、悪い奴じゃないの!)




