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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
愛しさの19歳
245/271

約束15

 ベルの書き遺した大量の手紙は、レナからエリザと渡され城でベルと関わったものほぼ全てに手渡された。

 ある者は封筒に書かれたベルの字を見ただけで泣き崩れ、ある者は震える手で受け取り、ある者は言葉を失った。

 カーラには別で小包まで用意されていた。

「どうして私にだけなんでしょうか」

 期待と困惑の入り混じった思いで、カーラはそっと壊れ物にでも触れるように小包を開けた。

 独りで包みを開けるのが怖いと言うカーラの頼みで、レナが立ち会った。

 包みの中は、ベルの字で埋め尽くされた大量の日記帳だった。

「にっき……?」

 それはとても古い物のように見えた。

 カーラが一番上の日記帳を手に取り、ページをめくった。

「なに? 何が書かれてあるの?」

 暫くの沈黙の後、カーラが大きく息を吐いた。

「カーラ?」

「これはベル様が付けていた、国王様の育児記録です」

「お父様の?」

 カーラから日記帳を受け取ったレナは、最初のページを開いた。

 そこには、亡くした自分の息子への想い。そして、乳母となった事への不安と恐怖。その時々のベルの偽りない気持ちが書き綴られていた。

 カーラにはこれが何を意味するのか分かった。乳母として本当にやって行けるのか不安で潰れてしまいそうなたカーラに、ベルは気付いていたのだ。そして、助言代わりにこの日記帳をカーラに託したのだ。生きていれば言葉と態度で教えてくれたであろう、ベルの経験に基づく助言なのだ。

 しかし、カーラが読む前に、きっとこれを読みたい人物かいるはずだ。

「これは国王様がお持ちになった方が……」

「でも、ベルはカーラ貴女に残したのよ?」

「そうですけど……」

「じゃぁ、お父様に直接聞きましょう」

 レナの提案にカーラは安堵の表情を浮かべた。


 レナとカーラは、アンドレは大喜びでベルと自分の記録を手に取るだろうと思っていた。ところが意外な事に、アンドレはベルの日記帳を読む事を拒否した。

「ベルが見てはいけない、と手紙に書いていたんだ」

 アンドレも、本当はのどから手が出そうな程読みたかった。

「ベルは手紙に、もし私がその日記帳を読んでしまうと、ベルの書き遺した事をカーラがしなかった場合、それが私の不満になってしまうから、だと言うんだ。でも、確かにその通りだよ、レナ。私もそう思う」

「でもお父様は自分の小さい頃の事、気にならないの?」

「ルイーズが大人になったら読んで良いそうだ」

「そんな遠い未来、想像がつかないわ!」

 レナが悲鳴を上げた。

「でも、ルイーズはどんな大人になるだろうね」

 アンドレは久しぶりに微笑んだ。辛い事も孫の顔を思い浮かべれば、乗り越えられる。


 ベルの手紙は、悲しみに沈み込んだ城に、笑顔を再び蘇らせた。

 時には思い出して涙を浮かべる事もあるが、皆、手紙を思い出して仕事に励んだ。


 クリストフが旅立つ日がやって来た。

 あまり大袈裟に見送られたくない、と言う本人の希望で見送りはレナとエリックだけになった。

「荷物はこれだけですか?」

 エリックがクリストフの荷物を馬車の荷台に乗せた。

「ああ、ありがとうエリック」

 アンドレはクリストフの旅に、馬車と警備隊から一名共を付けた。

 オクサナの健康診断まで受けさせられたクリストフは、少し苦笑いをしていた。

「クリストフには、無事に帰ってきてもらわなきゃ困るからね」

 レナもアンドレと同じ思いだった。

「なぁに、直ぐに戻りますよ」

クリストフの旅は、ベルが手紙に書き遺した『お願い事』だった。

 ベルと亡くした息子の遺髪を持って、コサムドラ中の観光地へ旅をする。そう、それは亡くした息子が生きていれば、したであろう家族旅行をするように。

「では、暫くのお休みを頂きます」

 クリストフが馬車に乗り込こんだ時、若き日のベルが小さな子供を抱いて一緒に乗り込む姿が、レナには見えた。

「行ってらっしゃい! クリストフさん! ベル!」

 レナとエリックは、馬車が見えなくなるまで手を振り続けた。

次話も、よろしくお願いします。

(悲しい。本当に悲しい。その裏でタルメランとファビオは何をしてるんだろう)

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