約束14
何とかエリザの制止を振り切って、癒者の力でベルを救おうとするが、上手くいかない。
「エリザ!」
エリザを見ると、エリザは泣いていた。
「どうして邪魔をするの!」
「それがベルとの約束だからです」
ベルの身体に病魔が巣食った時、レナとエリザは結託してベルには告げず病魔を取り除いた事があった。
「自分の身体だよ、気付いてないと思ったのかい」
「申し訳ございません」
憮然とした顔で謝るエリザの姿は、子供の頃から変わっていない。
「本当にエリザは無愛想だねぇ」
笑い出したベルを見て、エリザの顔が真っ赤になった。
「まぁ良いよ。今度からはいくらレナ様が駄々をこねられても、片棒を担いでいけないよ」
「はい」
「私は自分の人生に満足しているんだよ。いつ何があっても後悔はない」
ベルがエリザに微笑みかけた。
「でも、私の為にありがとうエリザ」
この城に引き取られた日から母の様に接してくれたベルの最後は、それ程遠い物ではないかもしれないと、エリザは覚悟した。
「そんな……」
「レナ、ベルの望み通りにしよう」
アンドレもベルの手を握って、しっかりとベルの最後を受け止めようとしていた。
「でも……」
まだレナには納得が出来なかった。まだまだ話したいこともある。相談したい事もある。
しかし、全てが手遅れだった。
レナにも、エリザにも、ハンスにも、今ベルの心臓が完全に動きを止めた事が分かった。
クリストフが、そっとベルの頬にキスをした。
そこに居た誰もが涙を流した。
ベルの葬儀は、城の中でひっそりと行われた。知らせを受けたエヴァも駆け付け、レナと一緒に涙した。
城中の者に恐れられ愛されたベルの死は、城中を悲しみの渦に巻き込んだ。
誰もが城の隅々でベルの幻影を見た。
レナはショックから公務が出来なくなっていた。
どうしてベルの不調に気付かなかったんだろう。どうしてあの時、エリザを突き飛ばしててもベルを救わなかったのだろう。
後悔しか無かった。
食事をしていても、そこにレナの行儀を監視しているベルがいるような気がした。
ルイーズが何時までも泣き止まないと、「何事です」とベルがやって来てくれるような気がした。
そして、それはアンドレも同じだった。
無理をさせてしまっていたのではないか。本当は、もっと自由に生きたかったのではないか。
レナもアンドレも、生活の全てにベルが居た事を改めて思い知らされた。
葬儀から数日後静まり返ったアンドレの執務室にに、クリストフがやって来た。
呼ばれたレナがルイーズを抱いてやって来くると、クリストフは、分厚い手紙の束を取り出した。
「ベルの荷物を片付けていたら、これが出てきましてな。虫が知らせたのか、覚悟はしていたようですな」
それは、レナ、アンドレ、ハンス、エリザ、ジャメル、カーラ、エリック等、 ベルが今まで関わった人への手紙だった。
「いつの間にこんなに書いたのだろう」
手紙の束を受け取ったアンドレは、その数の多さに驚いた。
「さぁ、私にも分からんのです」
「間違いなく、みんなに渡すよ。クリストフさんは、これからどうする?」
ベルが城に住み込んで居たため、クリストフも城で生活はしていたが、夫婦の自宅は別にあった。
「私は、今までと変わらず城にいて欲しいと思っている」
「そうしたいのは山々なのですが……」
そう言って、クリストフはベルの書いた自分宛の手紙をアンドレに手渡した。
「読んでも良いのか?」
「もちろん」
アンドレは、ベルの大変な秘密を覗き見る様な罪悪感に苛まれながら受け取った。
何が書かれているのか、レナもアンドレの表情から読み取ろうとしていた。
「ワシがベルに言いたかった事を先に言われてしまった手紙です」
クリストフが照れ笑いをした。
次話も、よろしくお願いします。
(さよなら、ベル)




