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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
愛しさの19歳
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約束10

 目を覚ましたファビオは、全身に力がみなぎっている事に気が付いた。

 なかなか元には戻らなかった魔力も、以前より増して強くなっていると、自覚できた。

 人の気配がした。

「母さん?」

 もう、ここ数日マルグリットの姿を見ていなかった。

「目が覚めたかい」

 そこにいたのはマルグリットではなくタルメランだった。

「はい」

 身体が軽かった。今なら鳥の様に空を飛べるのではと思えるほどだ。

「生き血が効いた様で良かった。あまり質の良い生き血ではなかったが、お前には充分だった様だな」

 嬉しそうなタルメランに、ファビオもつい頷いた。

「おや、今日は素直じゃな」

 ファビオは、照れくさくなってごまかす様に不機嫌な顔をしてみたが数秒ともたなかった。

「ずっと身体が重くて、ぜんぜんいう事を聞いてくれなくてイライラしてた」

 タルメランは、ファビオの頭を撫でた。

「私の為に力と体力を使い切ってしまったからね。でも、頼みもしないのに助けてくれて、本当にお前は優しい子だ。お前が優しい子に育ってくれて本当にうれしいよ。マルグリットとあの男には感謝しなければ」

「あの男?」

「お前が父と思っていた男だよ。育ての父と言う意味では、父である事には違いないんじゃがな」

 育ての父。素直には受け入れ難い話だが、思い当たる節がないわけでもいない。ファビオと父の外見は全く似ていなかった。しかし、そんなことは良くある事だと大して気にかけた事はなかった。それに父は死んだ。死んだ者の肩書きはそれ以上にもそれ以下にもならない。父は父だ。

 とは言え、昨日までは信じられなかったがタルメランが自分の本当の父だと言う話しもあり得ない事ではないかもしれないと思い始めていた。

「牛の生き血は、凄いんですね」

 ファビオとの言わんとする事を、タルメランは理解した。

「いや、ファビオ。マルグリットと私は、そう言う仲ではないんだよ。マルグリットもお前の父が私だと言う事を最近知ったのだ」

「どう言う事ですか?」

「何から話せば良いのじゃろうか」

 タルメランは考えを整理する時の癖で、鼻の頭を掻いた。

 これまで産まれた子供は儀式の為に女の子ばかりを重宝し、男の子は数名を残して人間の村の捨てて来たた。こうして男の子と話す上で、何を話し何を話さないかを考えた事がなかったのだ。女の子には、何も話さずただ父の役に立てと言えば良かったのだが。

「先ずは近いところから話そう。そうだな、マルグリットとあの男が結婚する直前からだ」

「はい」

 そう言えば両親の若い頃の話を家族以外から聞くのは初めてだった。

 ファビオは誰かの日記を盗み見る様な気分になった。それは期待と罪悪感の入り混じった、妙な気分だった。


 襲撃事件の時、魔人村から人間世界へと逃した者たちの動向は、具に見ていた。

 皆、野心や向上心の強い者ばかりで、癒者として村中の家々の門を潜って決めた者たちだった。

 特にマルグリットは姉エリーへの対抗心が強く、負けず嫌いだった。他にも数名逃したのだが、人間界に馴染めず堕ちて行き、唯一タルメランの期待に答えたのは、マルグリットとジャメル、エリザの三人だけだった。


 その日からファビオの態度が一変した。

 使える魔力はめきめきと増え、タルメランに負けない程の力を身に付けた。

「いつになったら、死んだ人と話せる様になりますか」

 ある日ファビオがタルメランに詰め寄った。

 ファビオの目的を知ろうと、ファビオの思考への侵入を試みたタルメランは、思わす唸った。

「なんと、もう思考完璧に思考を閉じ込める事ができるのか」

「出来ていますか?」

「ああ、完璧だ。ただ、私に対してそれをする必要はないよ。情報を共有する上で邪魔になる」

 ファビオは素直に思考を解放した。

「そうか、育ての父と話がしたいのか」

「はい」

 タルメランは、真剣な顔をして自分を見つめるファビオに、若い頃の自分を思い出そうとしたが、その頃の記憶が何一つ残っていなかった。

次話も、よろしくお願いします。

(タルメランはどうやってマルグリットに自分の子を産ませたの?)

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