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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
旅の始まり14歳
24/271

多忙な国王 レナのお尻は限界

 普通の少女から皇女になったレナ。しかも、自分が忌み嫌われる魔人であると知る。

 その事で親友エヴァとも距離をとらざるをえなくなり、友を失う。

 しかし、皇女としての日々は待ってくれない……

「いつになったら、この国の国王様と面会できるのかしら」

 このムートル国に通い始めて、ひと月近く経つ。

 片道三時間、往復で六時間かけて毎日である。

「馬車に毎日六時間も乗っていると、お尻が割れそうよ」

「間もなく到着ですよ。お口を慎んでください」

「エリザは平気なの?」

 エリザはレナの質問には答えず、お尻の下からクッションを取り出し見せた。

「ずるい!」

「経験による知恵ですよ」


 馬車が王宮の門に到着すると、エリザが馬車の小さな窓を開けた。

「コサムドラ国、皇女レナ様でございます。ムートル国、国王様にご挨拶に参りました」

 エリザが、門番に告げると門が開いた。

 王宮の大きさは、レナのコサムドラ国の城も大きいが、それを上回る大きさに始めて来た時思わず「おっきぃ!」と叫んでしまいエリザに睨まれた。

 案内係のメイドが、一室に案内してくれる。

「王の準備が整い次第、ご案内いたします」

 それから、数度お茶とお菓子が振舞われ、日が暮れる頃に再び案内係のメイドがやって来る。

「申し訳ございません、王は多忙で本日はお目にかかれそうにございません」

「それでは、明日またお伺いしようと思いますが、ブルーノ王様のご都合はいかがでしょうか」

「明日でしたら、お目にかかれるかと思います」

「では、明日お伺いいたします」

「お待ち申し上げております」

 メイドとエリザの会話が終わると、レナが立ち上がり帰路に着く。

 これをひと月、繰り返している。

 部屋でも、どこで誰が聞き耳を立てているか分からないため、必要最低限の会話しか止められている。

 エリザと二人、黙々と本を読み時間をやり過ごしていた。


「ねぇ、エリザ。先に他の国へご挨拶する事は出来ないの?」

「それぞれの国が、都合を合わせて決めた順番ですので、勝手に変える事は出来ません」

「そうよね。今日も静かな時間を過ごしに向かいますか……」

 重い腰を上げ、今日もまた馬車に乗り込んだ。

 

 メイドに部屋まで案内され、レナは本を読んでいたのだがいい加減飽きてしまい、窓の外をぼんやりと眺めていた。

 綺麗に手入れされた庭は、本当に美しく庭番のエリックに見せてあげたらきっと勉強になるだろうし、お祖母様にも見せてあげたいなと眺めていると、突然視界に少年が飛び込んできた。

 ビックリして声を出しそうになったレナに少年も驚いたようだが、身振り手振りで庭へ出て来いと誘ってきた。

 エリザを見ると、流石に疲れているのか珍しく転寝をしている。

 起こさないように、レナは部屋から抜け出した。


 実際に庭に足を踏み入れてみると、窓から見える景色よりはるかに美しく手入れされた庭だった。

「素敵ね!」

「だろ!」

 少年が嬉しそうに駆け寄ってきた。

「お庭番?」

「うん、あんたは?」

「あー、ある国のお姫様のおつきなの」

「へー、あんたの国の王宮の庭も綺麗か?」

「そうね、お庭番が頑張っているわ」

「あんた何歳?」

「十四歳よ」

「僕十歳」

「十歳なのに、もうお仕事しているの? 学校は」

「学校?」

「私の国の十歳の子供は、学校で勉強したり運動したりするのよ」

「僕、もう子供じゃない」

 少年は走り去ってしまった。

「あ! 待って!」

 追いかけようとしたが、エリザに腕を掴まれた。

「レナ様、どちらへ行かれるのですか?」

 万事休す。

 部屋に連れ戻されたレナは、少年の事が気になり、もう本どころではなった。

「名前、聞きそびれちゃったな」

「ここのメイドに聞きますか?」

「部屋から出たの知られたら、叱られない?」

「どうでしょう」

 

 日が暮れかけた頃、メイドがやって来た。

「申し訳ございません、王は多忙で本日はお目にかかれそうにございません」

「それでは、明日またお伺いしようと思いますが、ブルーノ王様のご都合はいかがでしょうか」

「明日は、前国王夫妻の命日でございまして」

「それは存じませんで。失礼いたしました。それでは3日後にお伺いしようと思います」

「お待ち申し上げております」

 やっと休める、レナの目が踊った。



「お休みなぞ、ございませんよ」

 エリザは、そう言いながら、レナの机に本を山のように積んだ。

「なに、これ」

「今年度は国の警護と防衛に関する事を学んでいただきます」

「こんなに……」

「では、先生をお連れいたします」

 やってきたのはジャメルだった。

「さて、どこから始めますかな、姫君」



 レナは3日間、勉強漬けにされた。

「ねぇジャメル、私、これから物凄く勉強しなきゃいけない、とか?」

「今頃お気付きですか」

「そんなぁ」

「姫君はいずれ、この国を運営していかなければなりません」

「うん……」

「そのための準備です」

「そうよね……」

「はい」

「お休みは」

「ありません」

「よね……」

 レナは絶望的な気分になった。

 出来れば、街へ行ってエヴァを訪ねたいと思っていた。

「披露目が終わった今、街へ行くと姫君だと気が付く者もおるやもしれませんので、街へ遊びに行くのはほぼ不可能かと」

 ジャメルに止めを刺された。

「今、心を見たでしょ」

「わざわざ、そんな事をしなくても、姫君が考えることくらい」

 ジャメルが鼻で笑う。

「もう、失礼しちゃう」

 レナは、本で顔を隠した。



 その夜、また往復六時間の日々が始まるのかと思うと、レナは大きなため息をついた。

「なんです、そんなため息など」

 エリザがとがめた。

「また六時間馬車に乗るのかと思うと、お尻がもう痛いわ」

「クッションをお忘れなく」

「そうね」

 手ごろなサイズのクッションを物色していたレナは、ふと気がかりな事を思い出した。

「ねぇ、ムートル国の前王夫妻の命日だったのよね」

「そうですよ」

「お二人、同じ日に亡くなったの?」

「ええ、そのようです」

「何か、はやり病でもあったのかしら」

「そうかもしれませんね」

「お気の毒ね……」

 レナはクッションを抱きしめた。



「やっぱり、クッションがあるとぜんぜん違うわね」

「それは良かったです」

 と、エリザがレナに本を差し出した。

「これは?」

「兄から伝言です」

「え」

「少しの時間も惜しまず、読み進めるように。来週末試験します」

「え!」

 レナの大きな声に馬が驚き、馬車が急停車してしまった。

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