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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
愛しさの19歳
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約束5

「息子?」

 ファビオはタルメランの言葉が、思考を上滑りしてしまい理解する事が出来なかった。

「何だ、まだ混乱しているのか。まぁいい、とりあえず折角ここまで来たんだから、村と城を案内しよう」

 歩き出したタルメランの後ろを、何処からともなく現れたあの少女がついて歩いた。

 ぼんやり二人の背中を見送りそうになったファビオは、慌てて二人の後に続いた。


 リリーが調べた事は一体何だったのか。

 村では人々がプルスの街と変わらぬ様子で暮らしている。「タルメラン様、こんにちは」

 すれ違う人々は、皆笑顔でタルメランに挨拶をする。

 ここでは、ごく普通の生活が営まれているのだ。

「あの、タルメラン様」

「ファビオ、父と呼んでくれ」

 この際、呼び方にこだわるつもりはない。

「では、父上。昔起きた惨劇で村人は皆殺されたと聞いておりましたが……」

「そんな事もあったな。しかし、随分と昔の話だよ。ファビオ。今はこうして皆元気に暮らしておるだろ?」

「そうですね」

 城に戻った三人は、村を一望できる小さなバルコニーまでやって来た。

「うっ……」

 突然タルメランが、苦しみ出した。

「父上!」

 ファビオが慌ててタルメランを抱きとめた。腕の中で、ぐったりとしたタルメランにファビオは、どうするべきか考える間も無く行動していた。

 タルメランの身体からは生気というものが全く感じられなかった。ファビオは必死にタルメランに力を送った。疲弊した心臓に力を送り、流れの淀んだ血液を全身に巡らせた。タルメランから生気が戻るのと同時に、自分の身体から何かが抜け落ちていくような、今まで経験した事のない感覚に陥った。

「ファビオ……」

 母の声が聞こえた気がした。

 ああ、力を使い過ぎたのか。このまま死ぬのかもしれない。

 ぼんやりとした意識の中で、ファビオは覚悟を決めた。


 孤児院に着いたレナとオクサナを、子供達は大喜びで出迎えた。

「さぁ、レナ様が約束のお菓子を持って来てくださったわよ。でも、その前に皆が元気に成長しているか先生に診せてね」

 お菓子と聞いた子供達の目は、期待で輝いていた。


「確かに奇術の得意な子が居ますよ。殆どが親も分からない子ばかりで、大抵はここを出るとサーカスや見世物小屋で働き始めますな。どんな仕事でも、ちきんと働く子供に育てておりますから」

 孤児院の院長は、自慢げに語った。

 子供達の魔力は、左程強くはないが、全てが奇術や手品と言われれて納得できるものではないはずだ。

 魔力を持った子供の中から、十二歳の少年を選んで話を聞く事にした。

「何歳で孤児院に?」

 オクサナは、自分の魔力に気付かれないよう用心をして話を切り出した。

「八歳です」

「それまでは、どうしていたの?」

「父さんと二人で暮らしてました」

 少年の表情が一瞬曇ったのをオクサナは見逃さなかった。

「お父さんに、何かあったの?」

 少年の中で、感情が爆発したのが分かった。

「父さんは、僕をバケモノって言って殺そうとした」

「あぁ、何て酷い」

 オクサナは、少年の手を取った。

「良く一人で頑張ったわね」

「先生。僕バケモノ何かじゃないです」

「分かってるわ」

 気が付くと、少年を引き寄せ抱きしめていた。

「お母さんって、こんな感じなのかな」

 オクサナの胸の中で、少年が呟いた。


 タルメランは興奮していた。

 まさかこんないとも簡単に、願いが叶うとは思っても見なかった。

 全身にみなぎる力。身体の中を駆け巡る魔力。全てが完璧だった。

「マルグリット、私はこれまでに沢山の子を持ったが、お前の産んでくれたファビオが一番素晴らしい」

 そう言って、小さなマルグリットの頭にそっと触れた。

「ありがとうございます」

 マルグリットは、嬉しそうに頬を染めた。

「さて、褒美をやろう。何が良いかな?」

 待ってましたとばかりに、マルグリットが微笑んだ。

次話も、よろしくお願いします。

(とうとうタルメランが復活してしまった)

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