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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
愛しさの19歳
234/271

約束4

 レナとオクサナは、孤児院に向かう馬車の中に居た。

「他に城付きの医者がいますのに、私を連れて来られたという事は、孤児院の子供達の中に特別な子が居る、という事ですね」

 オクサナの言う『特別な子』とは魔力を持った子、という意味だ。

「ええ、それも何人かいるのよ」

 レナの言葉にオクサナは驚きを隠せなかった。

「どうして何人も……」

 そこまで言って気が付いた。

「特別な子、だから。だと思うわ」

 オクサナの表情が曇った。

 それはレナにとってもショックな事実だった。

 孤児院の子供の中で、親も分からない状態で連れて来られた子供が数名、その全てが魔人だった。

 おそらくあの子供達は、今のルイーズと同じ様に本能のままに魔力を操っている。その姿は、魔力を持たない者から見れば奇異であり、恐ろしいと感じても誰も責める事は出来ない。

「私に何かできる事があれば良いんだけど」

 レナの表情は晴れなかった。


 別荘のオーナーには数日戻らないかもしれないと告げ、山の方へと足を向けた。

 道案内は、あの宿で見た少女だった。

「昨日、サーカスへ行ったでしょう」

 朝目が覚めると、ベッドの脇に少女が立っていた。

「君は昨日の……」

「分かったでしょ?」

「何が……」

 ファビオは状況を飲み込めずにいた。

 ここはコサムドラ屈指の別荘の村の中でも、富裕層が持つ別荘だ。部外者は建物に近付く事すらできないはずだ。なのに、この少女は建物の中にまで入って来ている。

 使用人の子供か?

「サーカス」

 少女はファビオを睨みつける様に言った。

「こちらが気付いたという事は、向こうも気付いてる」

 そうか、サーカス団員の事か。曲芸や奇術をするサーカスの団員の多くは魔人だった。

「早く支度をして。朝ごはんを食べたら、直ぐに村へ行くわ」

 この少女も魔人なのか。村とは魔人村なのだろう。

「分かった、でも村の場所を知らないんだ。案内してくれないか?」

 ベッドから出て少女から目を離したほんの一瞬、少女の姿は消えていた。

 それでもファビオは急いで支度をし、軽めの朝食を取ると別荘を後にした。

 あの宿の女将の記憶にあった山へ続く道を目指して歩いていると、いつも間にか少女が前を歩いていた。

 誰かに見られて不審がられても困るので、人通りのあるメイン通りでは特に会話も交わさずただ少女の後を追って歩いた。


「ここよ。この一本道が村へ続く唯一の道よ。ここまでよく来たわねファビオ」

 山の奥に続く一本道の前まで来た時、突然少女が振り返り言った。

 どうして名前を知ってるんだ。

ファビオが言おうとした瞬間、目の前が歪み、足元の地面が無くなった。

 落ちる!

 叫びそうになったその瞬間には、見知らぬ城の前に立っていた。

「ここは……」

 今隣にいたはずの少女に話しかけたつもりだったが、そこに少女の姿は無かった。その代わり、少し離れた場所に、老人が一人城の中へ続く階段に腰掛けていた。

「あの、すみません。ここは、何処なんでしょう」

 自分でも間抜けな質問だとは思ったが、他に聞きようが無かった。

「おや、マルグリットから何も聞かなかったのかい?」

 老人が驚いた様に言った。

 マルグリット。母と同じ名前だ。あの子はマルグリットと言うのか。

「いえ、何も聞いてないもので」

 老人は立ち上がり、ゆっくりとファビオに近付いた。

「そうか。きっとマルグリットは恥ずかしかったのだろう。さてファビオ、よく来たね」

 老人はファビオの手を取った。

「恐れる事はない。ここはお前が目指した魔人の村にある城の中だ」

 ここが魔人の村。

 やはり今も存在していたのだ。リリーもジョアン親子は、魔人村は、荒廃し存在しないと言い切っていた。

 しかし、今ファビオの目の前に広がっている光景は、荒廃とは言い難い。

 人々が行き交い、田畑には作物が植えられている。そこには、人々の生活が垣間見れる。

「さぁ、城の中を案内しながらゆっくりと話をしよう、我が息子よ」

 ファビオの動きが一瞬止まった。

 今、何と言った。

「我が息子よ、と言ったのだよ」

 何故だ、考えが読まれている。そんな筈はない。読まれない様にしていたはずだ。

「ここは私の村だ。そんな魔力は通用しないよ」

 そして老人は静かにはっきりと言った。

「私はタルメラン。今は魔人村の村長と言ったところか。そしてファビオ、お前は私の息子だ」

次話も、よろしくお願いします。

(とうとうファビオがタルメランに会ってしまいました)

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