忍び寄る足音5
「魔力でイタズラする子には、魔力で対抗するしかないわよ。ルイーズが飛ばしそうな物には、飛ばない様に魔力で押さえるしかないわ。まだ言って分かる歳でもないし」
アミラの言う通り、ルイーズはおもちゃを飛ばさなくなった。 と言うよりは、レナとカーラの魔力で飛ばせなくなってしまった。数日間の攻防の末、ルイーズは諦めた様だった。
レナがアミラに相談したのは、ルイーズの事だけではなかった。
「え? 魔人皇族のお墓? 考えた事がなかったわ」
村でタルメランの側で暮らしていたアミラなら、何かをしているかと思ったが、本当に知らない様だった。
「村を襲撃された後、ママとリンダさんはどうやって生活をしていたの?」
「それがね事件の事を知らずに生活をしていたのよ。知ったのは村を出る直前よ。みんないつも通りだった。ただ……」
「?」
アミラが言い淀んだ。
「何て言うのかしら。何だか変な感じだったの」
「時間が止まっているような?」
「そう! そうよ、あれは時間が止まっていたのね」
「私も経験した。止まった時間の中でみんな普通に生活していたの。でも、私の体だけ時間が経過していてて、現実世界に戻ったら、もうお腹の中でルイーズが育ってた」
「そんな危ない事を……」
レナは、もっと村の事を聞きたかったが、ルイーズがぐずりだした。
「ここは寒いものね。ルイーズが風邪でもひいたら大変。話はまた今度ね」
早々に追い出されてしまった。
「私に何ができるかは分からないけれど、私なりにルイーズを守るわ」
アミラは名残惜しそうな笑顔をルイーズに向けると、棺の中へ帰ってしまった。
ファビオは再びコサムドラに戻ってきていた。
コサムドラ屈指の温泉街。この街で母は事故にあった。
リリーの調べによると、温泉街から山を登っていくと別荘地があり、そこから魔人村へと続く一本道へと行ける。
何の証拠もないが、こんな言葉だけを頼りにここまでやって来た。
母が意味もなく、この街へやって来たとは考え難い。やはり魔人村を目指したと考えるのが妥当だ。
アリサとスヴェンから聞いた、事故現場まで来た。
確かに、人通りが多く、馬車の往来も激しい。今、目の前で事故が起きてもおかしく無い状況だ。
スヴェンによると、声をかけようとした時、アリサが道を横断しそれを追おうとした母マルグリットは、大型の乗合馬車にはねられてしまった。
アリサは何故、この道を横断しようと思ったのか。この道を横断しろと言われても、気後れするほどの往来だ。
「ここで向こうに渡るのは止した方が良いよ」
どうやらこの老婦人は、ファビオが道を渡ろうとしていると勘違いしているらしい。
「この少し先に、渡れる場所があるから、そこで渡った方が良い。少し前も、ここを渡ろうとした御婦人が馬車にはねられてね」
母の事だ。
「その事故、見たんですか?」
「いや、私は人から聞いただけだけどね。多分、その御婦人、うちのお客だった人だよ」
「え? お客?」
「ああ、うちは温泉宿をしてるんだよ。あんた旅の人かい? よかったらうちの宿に泊まりなよ。うちの宿は湯の源泉から近いから少し熱いかもしれないけど、ゆっくり湯に浸かれば疲れも取れるさ」
母が泊まった宿なら、是非泊まりたい。ここで声を掛けられたのも、何かの縁だ。
「そうさせてもらいます。それから、事故を見た人を紹介して欲しいのですが」
「ああ、構わないよ」
ファビオは老婦人の案内で、あの温泉宿に泊まることになった。老婦人の脳裏に浮かんでいる記憶が、ファビオには手に取るように見えた。
長年温泉宿を営んでいるだけあって、記憶にあっても口には絶対にしないが、老婦人は全てを見て、そして覚えていた。
ジャメルと逢瀬を重ねる母の姿。悲しそうに宿を去る母の姿。
そうか、母はジャメル様とそう言う関係にあったのか。それも父の死後そう大して経ってない頃に。
軽い嫌悪感は生まれたが、母を憎んだり嫌ったりする気にはなれなかった。母の人生がつまならい物でなくて良かったとさえ思えた。
次話も、よろしくお願いします。
(温泉宿婆さん、再び降臨)




