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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
愛しさの19歳
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忍び寄る足音5

「魔力でイタズラする子には、魔力で対抗するしかないわよ。ルイーズが飛ばしそうな物には、飛ばない様に魔力で押さえるしかないわ。まだ言って分かる歳でもないし」

 アミラの言う通り、ルイーズはおもちゃを飛ばさなくなった。 と言うよりは、レナとカーラの魔力で飛ばせなくなってしまった。数日間の攻防の末、ルイーズは諦めた様だった。


 レナがアミラに相談したのは、ルイーズの事だけではなかった。

「え? 魔人皇族のお墓? 考えた事がなかったわ」

 村でタルメランの側で暮らしていたアミラなら、何かをしているかと思ったが、本当に知らない様だった。

「村を襲撃された後、ママとリンダさんはどうやって生活をしていたの?」

「それがね事件の事を知らずに生活をしていたのよ。知ったのは村を出る直前よ。みんないつも通りだった。ただ……」

「?」

 アミラが言い淀んだ。

「何て言うのかしら。何だか変な感じだったの」

「時間が止まっているような?」

「そう! そうよ、あれは時間が止まっていたのね」

「私も経験した。止まった時間の中でみんな普通に生活していたの。でも、私の体だけ時間が経過していてて、現実世界に戻ったら、もうお腹の中でルイーズが育ってた」

「そんな危ない事を……」

 レナは、もっと村の事を聞きたかったが、ルイーズがぐずりだした。

「ここは寒いものね。ルイーズが風邪でもひいたら大変。話はまた今度ね」

 早々に追い出されてしまった。

「私に何ができるかは分からないけれど、私なりにルイーズを守るわ」

 アミラは名残惜しそうな笑顔をルイーズに向けると、棺の中へ帰ってしまった。


 ファビオは再びコサムドラに戻ってきていた。

 コサムドラ屈指の温泉街。この街で母は事故にあった。

 リリーの調べによると、温泉街から山を登っていくと別荘地があり、そこから魔人村へと続く一本道へと行ける。

 何の証拠もないが、こんな言葉だけを頼りにここまでやって来た。

 母が意味もなく、この街へやって来たとは考え難い。やはり魔人村を目指したと考えるのが妥当だ。

 アリサとスヴェンから聞いた、事故現場まで来た。

 確かに、人通りが多く、馬車の往来も激しい。今、目の前で事故が起きてもおかしく無い状況だ。

 スヴェンによると、声をかけようとした時、アリサが道を横断しそれを追おうとした母マルグリットは、大型の乗合馬車にはねられてしまった。

 アリサは何故、この道を横断しようと思ったのか。この道を横断しろと言われても、気後れするほどの往来だ。

「ここで向こうに渡るのは止した方が良いよ」

 どうやらこの老婦人は、ファビオが道を渡ろうとしていると勘違いしているらしい。

「この少し先に、渡れる場所があるから、そこで渡った方が良い。少し前も、ここを渡ろうとした御婦人が馬車にはねられてね」

 母の事だ。

「その事故、見たんですか?」

「いや、私は人から聞いただけだけどね。多分、その御婦人、うちのお客だった人だよ」

「え? お客?」

「ああ、うちは温泉宿をしてるんだよ。あんた旅の人かい? よかったらうちの宿に泊まりなよ。うちの宿は湯の源泉から近いから少し熱いかもしれないけど、ゆっくり湯に浸かれば疲れも取れるさ」

 母が泊まった宿なら、是非泊まりたい。ここで声を掛けられたのも、何かの縁だ。

「そうさせてもらいます。それから、事故を見た人を紹介して欲しいのですが」

「ああ、構わないよ」

 ファビオは老婦人の案内で、あの温泉宿に泊まることになった。老婦人の脳裏に浮かんでいる記憶が、ファビオには手に取るように見えた。

 長年温泉宿を営んでいるだけあって、記憶にあっても口には絶対にしないが、老婦人は全てを見て、そして覚えていた。

 ジャメルと逢瀬を重ねる母の姿。悲しそうに宿を去る母の姿。

 そうか、母はジャメル様とそう言う関係にあったのか。それも父の死後そう大して経ってない頃に。

 軽い嫌悪感は生まれたが、母を憎んだり嫌ったりする気にはなれなかった。母の人生がつまならい物でなくて良かったとさえ思えた。


次話も、よろしくお願いします。

(温泉宿婆さん、再び降臨)

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