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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
愛しさの19歳
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忍び寄る足音4

 最近、母のファビオへの入れ込みが尋常では無い。

 ファビオの為に、国王である自分の何の了承もなしに一部の部下をコサムドラに潜入させてしまった。幸いにも、コサムドラ側に気付かれる事なく、引き上げさせる事には成功したが、本当に冷や汗をかかされた。

「勝手な事をされては困ります」

 クーデター後、母にはこの城で自由にさせていたが、少し自重していただかなければ。

 もしかすると、ファビオを迎え入れた事は失敗だったのかもしれない。

 ジョアンに迷いが生じ始めた事を知ったファビオは驚いた。ジョアンにではない、それを易々と感じ取れる自分の魔力にだ。

 レナを実家に連れ去った際思い付きで、お腹の子を消すと言ったが、恐らく、いや間違いなく出来ただろう。

 今なら誰にも負けない自信がある。

 リリーから聞いた魔人村の場所は、母が事故にあったコサムドラの街に近かった。行くしかない。

 今ならジョアンも簡単に旅に出してくれるだろう。

「ジョアン様、少し旅に出たいのですが、暫しの休暇と、リエーキ国民として新たな身分と名を頂けませんでしょうか」

 この際名前など、何でもいい。

「そうか、そうだな。それも良いだろう。分かった」

 全てがファビオの思うままに運び始めた。


 コサムドラでは、カーラがルイーズに手を焼いていた。

 公務に復帰したレナが、慰問先の孤児院から戻ると、ルイーズのベッドの中は、お気に入りのおもちゃやぬいぐるみで埋め尽くされており、その中でルイーズがご機嫌な声を上げていた。

「ルイーズ、またやったのね」

 ここ最近、ルイーズは自分のベッドにお気に入りのおもちゃやぬいぐるみを持って来るのが楽しいらしく、レナやカーラがいくら片付けても、目を盗んではおもちゃとぬいぐるみをピョンピョン飛ばしてベッドの中に運んでしまう。

 これでは魔力の事を知らない者をルイーズに近付けるわけには行かず、困ったレナはアミラに相談する事にした。


 霊安堂の前まで来ると、ルイーズは突然上機嫌になり、キャッキャと声を出し始めた。

 霊安堂の中では、コサムドラ王室の先祖達の魂がそれぞれの部屋の中で、ルイーズの声に反応しているのがレナには分かった。

「うるさくして、申し訳ありません……」

 中には眠りを妨げられてしまった事を不快に思っている先祖もいるようだ。

 でも、私、起こしてないわよ?

 レナが先祖の魂を起こしていないのに、起き出してきているという事は……。

「ルイーズ、あなたなの?」

 レナの問いかけを理解しているのか、ルイーズは嬉しそうに笑った。

 百合の間の中では、アミラが待ちかねていた。

「ああ、ルイーズ、会いたかったわ。本当に美しい赤ちゃんね。それに、とても大きくなった」

 今にもレナの腕からルイーズを抱き上げんばかりに、アミラはルイーズを愛おしがった。

「日に日にハンスに似てくるわ」

「あなたも、この頃はアンドレ様に似てきていたものね」

 アミラは遠い昔を懐かしむように言った。

「そう言えば、私、ママから赤ん坊の頃に話を聞いた事があまり無いんだけど」

「そうだったかしら」

 アミラは何とかルイーズの柔らかい頬に触れられないかと、奮闘していた。

「ママ、流石に触れるのは無理よ」

「そうよね」

 アミラの落胆ぶりに、レナは罪悪感に苛まれた。

「ごめんなさい、ママ。私のせいでママは病気になってしまったのよね」

 レナはずっと気になっていた事が、口からするりと出た事に自分でも驚いた。

 こんな話をしに来たんじゃないのに。

「その事は、今のレナなら理解できるでしょ?」

 今の自分?

 レナはアミラに言わんとする事が分からなかった。

「分からない?」

「うん」

 レナは楽しそうに手足をばたつかせ、レナの腕の中からずり落ちそうになっているルイーズを、抱き直した。

「今のレナはルイーズの為なら、どんな事も出来るでしょ?」

「もちろん」

ルイーズが嬉しそうに声を上げた。

「それと同じよ。今レナが幸せならそれで良いのよ」

「ママ……」

「確かに私は長生きはしなかったけれど、その分レナとルイーズが幸せであれば良いの」

 ルイーズが生まれる前のレナならば、母の言う事は理解できなかったかもしれない。でも、今のレナには理解できた。

「うん」

 何だか心の中の重い石が一つ消えた様な気がした。

 その時ルイーズが、母の棺に飾られたルビーのペンダントを自分の手にぴょんと引き寄せてしまった。

「あらぁ、ルイーズ! あなたにはこれが何か分かるのね」

 アミラは大喜びだが、レナは眉をひそめた。

「駄目よルイーズ。これは、あなたのおもちゃじゃないわ」

 レナが取り上げようとするが、ルイーズは頑として離さない。

「良いのよ、レナ。それは、おばあちゃんからルイーズへのプレゼントにしましょう」

「でも、これはママの大事なルビーのペンダントでしょ?」

「それはアンドレ様から最初に頂いたプレゼントなの。ルイーズが持っていると、アンドレ様もきっと喜ぶわ」

 アミラの喜び様には、レナも折れるしかなかった。


次話も、よろしくお願いします。

(アミラさん、生きていたらとんでも無い祖母馬鹿になってたね、これは)

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