忍び寄る足音3
花束の出処が分からないまま二ヶ月が経過した。
レナの不安をよそに、ルイーズはスクスクと成長し誕生から三ヶ月が経っていた。
「子供の成長って、本当に早いわよね」
レナは明日から公務に復帰だ。それに合わせて、乳母カーラの仕事も増える。
「ルイーズ様、随分と重くなりましたわね」
良く乳を飲み、良く笑うルイーズは城のどこへ行っても、注目の的だった。
「ピエルも大きくなったわよね、ルイーズの比じゃないわ。ルイーズも後半年すれば、あんなに大きくなるのかしら」
その時自分はルイーズのそばに居られるのだろうか。一刻も早くタルメランを永遠の眠りにつかせ、平穏な日々をルイーズと送りたい。レナの心に、焦燥感が生まれた。
ファビオがリエーキに現れた事は、オクサナから伝えられた。
「一先ず、ファビオ捜索は中止にするよ」
ハンスの判断は早かった。
リエーキに居るのなら、いくらコサムドラ国内で捜索をしても、見つかるはずが無い。
ファビオのリエーキでの仕事は、アルセンの母とその友らの治療だった。
腰の痛み、膝の痛み、肌の衰え、婦人達が訴える不快全てを取り除くのが仕事。正直、充実した日々とは言えなかった。そろそろ、この国へやって来た本来の目的に取り掛かっても良い頃だ。
「ジョアン様、一つお聞きしたいことがございます」
「なんだ」
最近のジョアンは、母の相手をファビオに任せて国王としての仕事に集中できる状況に満足していた。アーロンとザック兄弟も母を大事にしてくれている。
「私は自分が魔人で、しかも魔人皇族の血筋だと言う事を最近知りました。出来れば魔人の事、魔人皇族の事をもっと知りたいのですが、お聞かせいただけませんでしょうか」
「なんだ、そんな事なら我が母に聞けば良い。喜んで話してくれるだろう。そもそも私の知識は全て母から聞いた話だ」
「はい、それではそのように」
「それにしても、お前は何故教わらなかったのだ。何も知らないのに癒者の事だけは何故知っていたのだ」
「母が魔人だったのですが、何も私には語らず事故で死んでしまったのです。癒者の事は、ムートルの魔人スヴェン老人から教わりました」
「そうか、確かに魔人国では無いコサムドラでは、魔人である事を口にする事すら憚られたのだろう」
本当にそうだろうか。
母マルグリットはアンの死後、自ら城のレナを訪ねている。それは自ら魔人であると言っているのも同然だ。
何にせよ、自分のルーツを知りたい。知った上で改めてレナを迎えに行くのだ。待っていて欲しい、あの日レナはそう言ったのだから。
「ああ、なんて不幸な子なんだろ。魔人である事は誇りだよ。そして魔人皇族の血を受け継ぐ我々は家族同然だ」
ジョアンの母リリーは、そう言ってファビオを全身で抱きしめた。
「リリー様、心からお慕い申し上げております」
そう、新たな母に、新しい人生。必ずレナを奪い返してみせる。
ファビオは、リリーを抱きしめ返した。
リリーは、ファビオに母と呼ぶよう言いつけた。
「お母様、それではその村は今は無くなってしまったのですね」
「ただの荒れ地になってしまったんだよ。このリエーキには、あの日逃げ延びてここまで来た者も多いんだ。もしかするとお前を産んだ母もあの日逃げ延びた魔人かもしれないね」
リリーの一言で、ファビオ中の何かがパズルのピースが埋まるように繋がり始めた。
酔った祖父の言った事。メイドのアリサに母が言った事。いや、それだけでは無い。他にもあるはずだ。
ファビオは、胸の高鳴りを抑える事が出来なかった。何か他にヒントになるような事はなかったのか。
思い出せ、思い出せ。
ファビオは、必死に何かを思い出そうとするが、脳裏に浮かぶのはコサムドラの城で逢瀬を重ねていた頃の自分とレナの姿だった。一度こうなると、暫くレナの事以外考えられなくなってしまう。
「何だい、赤い顔をして。好きな女の事でも考えていたのだろ」
「いえ、亡くなった母が何か言い残していなかったか、思い出しておりました」
「村出身だったとしたら、村の場所を知っていたかもしれないね」
「お母様はご存知無いのですか」
「そうなんだ。一度は行ってみたいと思っていたんだが。そうだ、今なら人を使って調べさせる事ができるじゃないか。すぐに調べさせよう」
「ありがとうございます!」
大きな一歩だ。こんな事なら、もっと早くリリーに聞いておけば良かった。いや、しかしあまり事を急いではジョアンに不審がられるかもしれない。
現に、リリーがファビオに入れ込み始めた事を快く思っていないようだ。何か策練らなければ、目的が果たせなくなってしう。
嬉々として、村の調査を指示するリリーに微笑みを投げかけた。
リリーも嬉しそうに微笑んだ。ジョアンの人懐こい笑顔は、母リリー譲りのようだ。
次話も、よろしくお願いします。
(ファビオが魔人村の事を知ってしまう。何かが近付いてる)




