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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
愛しさの19歳
225/271

誕生5

 妊娠出産による身体の変化は、レナの想像以上に身体へ負担をかけるもので、なかなか思ったように回復しない自分に苛立ちすら感じた。

 こうしている間にも、タルメランは小さなルイーズを狙っているかもしれない。ファビオがまた私をさらいに来るかもしれない。私がさらわれてしまったら、誰がルイーズを守るの。

 レナの苛立ちと焦りは、誰にもどうする事も出来ないでいた。

 そんな状況を敏感に感じ取るのか、時折ルイーズは神経質に泣き続ける事があった。

「どうして泣いているの? どうして何も伝えてくれないの?」

 泣き続けるルイーズを抱いてレナは途方に暮れた。

「そりゃ、大人だって訳もなく泣きたい時があるんだから、泣く事しかできない赤ん坊は尚更だよ」

 驚いて振り向くと、そこには祖母ルイーズが立っていた。

「ほら、私の可愛い小さなルイーズを、抱かせておくれ」

「お祖母様、お着きは明日の予定でしょ」

「少しでもこの子と居たくて、大急ぎで来たんだよ。おや、この子私が抱いたら泣き止んだよ」

 小さなルイーズは、泣き疲れたのか今にも眠そうな様子だ。頼もしい援軍の到着だった。


 もう二度と、この家に戻る事は無い。

 最後に家族と過ごした家に立ち寄った時、マリアに見られてしまった。何も逃げ隠れする事はない。

 レナの出産に浮かれきった街同様、マリアも酒に酔って幻覚を見たと思ったようだ。

 それで、かまわない。どうせ、この家で暮らした時間は偽りだったんだ。そんなもの、全て捨て去ってやる。

 ファビオは振り返る事なく、生まれ育った家と街を捨て去った。


 リエーキによるアルセン捜索は、まだ続いていた。

 死んだらしい、と耳にしてもジョアンはアルセンの亡骸を見るまで納得する事が出来なかった。

「ジョアン様、そろそろアルセン捜索から手を引き、国内情勢の安定に乗り出された方が得策かと」

 ジョアンは側近として召抱えた中でも、アーロンとザックの兄弟には絶大な信頼を置いていた。

「そうです。あまりアルセンに固執する事は、アルセンに恐れを抱いていると思われかねません」

 なるほど、一理ある。ジョアンは唸った。

「では、アルセン捜索の規模を縮小して、国内の安定を最優先課題としよう」

「では、その手はずで」

 アーロンが立ち去ると、ザックが他に聞こえないようジョアンの耳元で何かを囁いた。

「それは面白い。会ってみよう」

 ザックは無言で頷くと、直ぐに立ち去った。

 アルセンからこの国を奪い取る事には成功したが、思うように事が進まず、他に頼れる者の無い中で、アーロンとザックの兄弟には随分と助けられた。何より、口煩い贅沢三昧の母がこの兄弟を気に入っているのだ。

 アーロンとザックの家は代々城に仕える医者の家系で、父も母も医者だったがクーデターの混乱の中、命を落としたと報告を受けている。

 弟ザックは母オクサナを助けようとして、自らも負傷し、左手の指が一本失っている。

「お連れしました」

 ザックが連れて来たのはファビオだった。

「初めましてジョアン国王。私はコサムドラ出身でムートル国城仕えの魔人ファビオと申します」

「ファビオ、魔人皇族の血を引く癒者だと言うのは本当か」

「はい」

 次の瞬間、ジョアンは剣を抜き、側でお茶の用意をしていたメイドの背中を斬りつけた。

メイドは驚く間もなく、その場に崩れ落ちた。

 慌ててザックが駆け寄ろうとしたが、ジョアンに制止された。

「急所は外してある。今、私の眼の前で治してみせろ」

 確かに急所は外れているが、傷は深く相当な出血だ。一刻も早く止血しないと命に関わる。

 そんな大怪我を治療した事は無いが、やらないわけにはいかない。

 倒れているメイドの傷口にそっと触れ、出血が止まり引き裂かれた肉と皮膚が元に戻るイメージを送った。

「おお!」

 ジョアンが目を大きく見開き、感動の声を上げた。

 ファビオのイメージ通り、出血が止まり、引き裂かれた肉と皮膚は元通りになった。

 ぱっくりと切られた服の間からは、傷一つない背中が見えた。

「ザック! 見たか!」

「はい!」

 ザックも噂には聞いていたが、本当に癒者の力を持つ魔人に会ったのは初めてだった。

 魔人の医者として腕の良い母オクサナでも、あれ程の傷を一瞬で治す事は不可能だ。

「ファビオ、望みは何だ。何でも叶えてやろう」

 新しい玩具を与えられた子供のように、ジョアンは上機嫌で言った。

「ジョアン様の御側で、仕事をさせて頂ければと」

 ファビオは、あっさりとジョアンの懐へと滑り込んだ。

次話も、よろしくお願いします。

(兄弟の母の名はオクサナ……)

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