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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
愛しさの19歳
223/271

誕生3

 ルイーズの祈りが届いたのかもしれない。

 太陽がコサムドラを照らす準備を始めた頃、レナのお産が急に進んだ。

 身体の全てを陣痛に支配されたレナは、痛みのないほんの少しの間、気絶する様に眠っていた。

「もうそろそろですね」

「そうだな」

 オクサナと、城付きの医師が準備を始めると、やっと到着した産婆が現れた。

「どうですか」

 丁度一週間ほど前に、三人で打ち合わせをしたところだったが、レナのお産が早まった為産婆だけ遅れての到着だった。


 産婆の到着を待っていたかの様に、さらに進み産室からはレナのひと際大きな唸り声が聞こえて来始めた。

「そろそろね」

 乳母候補達もその時を待っていた。

 ハンスとアンドレも、部屋の前までやって来たが、部屋に入るのを躊躇してしまった。

「父上、入らないのですか?」

「どうしたら良いのだろうか」

「え? ご存知ないのですか?」

「どうしよう」

「どうしましょう」

 二人がどうすれば良いのか分からず、落ち着かないでいると、アルセンとエヴァも呼ばれてやって来た。

 二人の手は、しっかりと繋がれていた。

「入ろう!」

 アンドレが扉を開けようとした瞬間、これまでにない程のレナの唸り声が響き、その手を止めた。

「入って良い雰囲気ではなさそうだな…」

 諦めて扉から離れた瞬間、エリザが飛び出して来た。

「お姫様です!」

 廊下はどよめきに包まれた。

「母子ともに健康です。さぁ、アンドレ様、ハンス様お入り下さい」

 エリザの言葉に、アンドレとハンスは顔を見合わせ、急いで部屋の中に入った。


「おめでとうございます!」

 部屋は祝福に満ちていた。今回は出番のなかったオクサナも、満面の笑みだ。

 レナの腕の中には、小さな命が泣き声を上げていた。

「女の子だったわ……」

 タルメランの望み通りね。

「どんな事があっても、この子は僕が守るさ」

 ハンスは自分にそっくりな小さな命を、レナの腕から抱き上げた。

「本当ハンスにそっくりだ」

 アンドレも初孫の誕生に、目尻が下がりっぱなしだ。

「さあさあ、ご対面が済んだ所で一度部屋から出てくださいね」

 二人はまたもベルに追い出されてしまった。

 部屋から出たハンスを、エリザが追いかけて来た。

「ハンス様、これを」

 手渡されたのは、カリナの魂が宿るクマのぬいぐるみだった。

「もしかして、ずっと産室に?」

「はい、カリナ様のご希望で」

「で、どうして今僕に?」

「それもカリナ様のご希望です」

 エリザは、産室に戻って行ってしまった。


 直ぐに乳母を決める時がやって来た。

 母乳が出やすくする為か、何人かの乳母候補達は乳房を揉み始めた。

 第一候補であるカーラの母乳がすんなりと出れば、彼女達にチャンスはない。

 カーラの乳房は、ピエルが最後に飲んでから随分と時間が経ったので、今直ぐにでも吹き出しそうだった。

「さぁ、入って下さい」

 ベルが五人を産室へと呼んだ。

 レナが疲れ切ってはいるが、幸せを噛み締めながら産まれた我が子を抱いていた。

 五人の授乳準備が出来ると、第一候補のカーラが、レナの腕から産まれたばかりの小さな命を受け取った。

 全員の視線が、カーラの乳房に集中した。

 赤ん坊はカーラの乳房を躊躇なく咥え、カーラからは溢れんばかりの母乳が吹き出した。

「乳母はカーラに決まりです」

 ベルの一言で決まった。

 他の候補者達は、残念そうに肩を落とした。


 赤ん坊の世話は基本的にベルやカーラそしてメイド達で行われるが、最初の一週間程の授乳はレナの仕事だ。

 産室はレナと赤ん坊が過ごしやすい様に整えられた。レナが授乳する間は、母子ともにこの部屋で過ごす。

「授乳って結構痛いのよ」

 授乳されている我が子を愛おしそうに見つめるハンスに、レナが恨めしそうに言った。

「変わってあげられたら良いんだけど」

 と言うハンスの顔は、終始緩みっぱなしだ。

「レナ、僕を父親にしてくれてありがとう。本当に家族が出来たんだなぁって実感したよ」

 満足するだけ母乳を飲んだ赤ん坊は、すやすやと眠り始めた。

 その寝顔を見ながら、刺し違えてでも絶対にタルメランにこの子は渡さない、レナは改めて心に誓った。

次話も、よろしくお願いします。

(女の子でしたね。名前は何にしましょうか。どうやらアンドレが名前をつけるみたいです)

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