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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
愛しさの19歳
222/271

誕生2

 痛みの波に襲われながら、レナは男の子である事を祈っていた。

 男の子よ。あなたは男の子。きっとピエルと良いお友達になるわ。

 お腹の子に言い聞かせた。


 産室の扉の外ではカーラを含め五名の乳母候補達が待機していた。

 五人の中ではカーラが一番若く、一番の年上はカーラより少なくとも十歳は上と思われる女だった。興奮しているのか、静かに待つよう言われているにも関わらず、子供を六人産んだとか、乳の出は十分過ぎる程だったとか、子育ての経験が、などと如何に自分が乳母に向いているかを話し続けていた。挙句、乳母に求められるのは若さではないと、明らかに第一候補のカーラに向けられた話までし始めた。

「こんばんは」

 そこに一度は追い出されてしまったハンスがやって来た。

「ここここ、こんばんは」

 先程まで意気揚々と話をしていた女が、しどろもどろになる姿を見たカーラは、下を向いて唇を食い縛って笑いをこらえた。


 ハンスが再び現れた時、丁度陣痛の波が引いたところだった。

「今、いいかな……」

「まだまだ産まれませんよ」

 おどおどと入って来たハンスの姿にオクサナが面白そうに答えた。

「部屋に戻って眠ろうと思ったんだけど、落ち着かなくて」

「まぁ、ここでは気持ちよさそうに眠っていらっしゃったのに」

 今度はベルが笑った。


 なかなかお産は進まなかったが、レナの産室は笑顔で包まれていた。

 アンドレとハンスは入れ替わり立ち替わりやって来ては、ベルに追い出され、しぶしぶ自室に戻るを繰り返していた。


 アルセンとエヴァは、お互いの過去を話していた。

 エヴァはレナと過ごした幼い日々、ジャメルの作るテストが本当に難しかった事。

 専門校を優秀な成績で出たのに、城のメイドに落ちた時のくやしさ。そして、勤めた屋敷で受けた仕打ち。

 ギードを巡って、レナに大怪我をさせた事。

 ゆっくりと、ゆっくりとエヴァは噛みしめるように話した。

「まだ十九年程しか生きてはいないけれど、今が一番充実しているし、幸せだなって感じるの」

 エヴァは繋がれたままのアルセンの手を握り返した。

「さぁ、今度はジャンの番よ。レナから聞いている話では、あまり良い王様ではかったそうね」

 エヴァの悪戯っぽい微笑みに、アルセンはめまいがした。今すぐエヴァにキスがしたかった。

 でも、まだ出来ない。してはいけない。エヴァは過去の自分を知らない。知った上で、エヴァが今と同じ目で自分を見てくれれば、その時こそ。

「レナ姫の言う通り、私は良い王様ではなかった。それに、自分の両親を殺した」

 エヴァの笑顔が凍りついた。その表情に、アルセンは話し続ける勇気がなくり、黙ってしまった。

「話を続けて」

 エヴァの真剣な眼差しに押されるように、アルセンは話し始めた。


 新しい命の誕生を待つ同じ時間、様々な人々が様々な思いを抱いて過ごしていた。


 国中の母親達は、自分の出産時の事をつぶさに思い出し、父親達は父になった日の喜びを思い出していた。


 遠く離れたベナエシでは、エリザから知らせを受けた魔人がルイーズの元へと走った。

「少し予定より早いじゃないか」

 今ここで特別何かができる訳でもないが、落ち着かない様子で外出の準備を始めるルイーズに、メイド達が唖然としていた。

「ルイーズ様、どちらへ」

「ちょっと兄と両親に、レナの無事をお願いしにね」

 メイド達は、慌ててルイーズの支度を手伝い始めた。

 城の外は暗く、足元を照らして貰いながら墓地へと向かった。ここにはカリナの墓もあるが、魂はレナの所だ。

「私には見えないけれど、兄さん、お父様お母様、そこにいるんですよね。私の孫が今子供を産もうとしています。どうか、守ってやってください」

 そっと墓石に触れると、今までにない程暖かく感じた。

「やっぱり、ここにいるんだね」

 ルイーズの頬に涙が流れた。


 それは墓地からの帰り道。

 ふとよそ見をしたメイドが照らした先に、見た事もない古い墓石のような物が目に入った。

 この辺りは子供の頃、兄とよく遊んだ場所だ。あんな物があっただろうか。明日にでも確認しておこう。

 ルイーズは急ぎ城に戻ると、コサムドラ行きの計画を練り始めた。

次話も、よろしくお願いします。

(まだまだ産まれませんヨォ!)

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