反撃9
「ハンス先に行って!」
レナの言葉にハンスはアンドレの執務室へと走った。
レナは走り去るハンスの背中を追った。しかし、ハンスの背中が城の中へと消えたその時、足がもつれた。
ハンスが執務室の扉を開けると、アンドレは机に突っ伏した状態で意識を失っていた。
「誰かっ!」
ハンスの声で、城の灯りが一斉に灯った。
アンドレは、使用人達の手で運ばれ、寝室で意識を取り戻した。
「昼あたりから目眩がしていたんだが……」
「少しお疲れがたまっていたのでしょう。何日かお休みになれば、良くなります」
ハンスが、駆け付けたオクサナを見ると、オクサナは『大丈夫』と頷いた。
やっとその時になって、ハンスはレナの姿が見えない事に気が付いた。
アンドレに気付かれないよう、そっと寝室を出て、一人東屋の方へ走った。
庭に出て直ぐに、レナの履き物が片方だけ転がっているのを発見した。
直ぐに霊安堂、地下、ありとあらゆる場所を探したが見つからず、朝になってもレナが戻ることはなかった。
「タルメラン王でしょうか……」
エリザが唇を噛んだ。
何故何も気付かなかったのか。自分は王室の方々を守る為に城に居るのに。もし、兄だったら防げた事態なのかもしれない。
「エリザが責任を感じる事はないよ。直前まで僕がそばにいたんだ。あの時、レナを一人にするんじゃなかった」
レナを守れなかったハンスも、エリザと同じ気持ちだった。
昼になっても、レナの居場所を突き止められなかった。
お腹空いたわ、朝食はまだかしら。
レナは空腹で目が覚めた。
ふと無意識にお腹に手をやって思い出した。確か庭で転びそうになって……。
慌てて起き上がると、そこは見た事もない部屋だった。
「ここはどこ……」
ベッドから降り、窓の外を確認しようとした。
「お目覚め?」
扉が開き、ファビオが面白そうに笑いながら入って来た。
「ファビオ?!」
「久しぶりレナ」
抱き締めようとするファビオの腕から、後ずさって逃げた。
「そんな足元も確認しないで動くと、また転ぶよ。ああ、そのお腹じゃ足元も見えないか」
ファビオは、レナを気の毒そうに見た。
「ファビオ、ここはどこ? 私に何をしたの?」
レナのきつい口調に、ファビオは心外とばかりの表情になった。
「酷いな、そんな言い方。転びそうになった君を、俺は助けたっていうのに。ここは、母さんの部屋だ」
「じゃぁ、ここはファビオの家なのね」
「そうだよ。レナも来た事があったね」
「ええ。本当に助けてくれてありがとう。じゃ、私は城に戻るわ」
レナが部屋から出ようとすると、ひとりでに扉が閉まり何をどうしても開かなくなってしまった。
「ファビオ、開けて頂戴」
「駄目だよ。開けたら城に戻ってしまうんだろ? 何の為にここに連れ出したか分からないじゃないか」
ゆっくりと近付いてくるファビオに、恐怖を感じた。
「怖がらないでレナ。どうして怖がるんだ。あんなに愛し合ったじゃないか」
「そ、そうだけど」
「俺は強くなって戻って来た。君を迎えに来たんだよ」
レナは、ファビオに抱きしめられてしまった。
「邪魔なだね。これ。出してしまおうか?」
ファビオは、レナの大きなお腹を指差した。
「何を言ってるの?」
「ごめん、冗談だよ。でも、今の俺なら何でも出来る。魔力、ずいぶん強くなっただろう?」
レナも気付いてた。
ファビオの魔力は以前とは比べ物にならないほど強くなっている。もしかするとレナよりも強いかもしれない。レナがファビオに恐怖に感じたのはこの魔力せいだった。
「そうね……」
「本当に大きなお腹だ」
やっとファビオから解放されたレナは、力なく先程まで寝ていたベッドに腰掛けた。
「帰らせて。お願い」
「駄目だ」
ファビオも、レナの隣に座り、レナの腰に手を回した。
「レナの腰からお尻のラインが美しくて好きだったのに。そのお腹の物はいつ出てくるの?」
「そんな言い方しないで」
レナは、ファビオの手を振り払おうとしたが、腕を掴まれベッドに押し倒されてしまった。
次話も、よろしくお願いします。
(ファビオ何か変わっちゃったね。動物好きの好青年だったのに。力は人を変える)




