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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
愛しさの19歳
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反撃6

 スヴェンは、ファビオの行方を捜し続けけていた。

 三日に一度はファビオの自宅を訪ねて様子を見るのだか、メイドのアリサが留守番をしているだけで、ファビオが戻った様子は見られなかった。

「スヴェン様、戻られましたらお伝えしますから」

 アリサは明らさまに迷惑そうに言った。

「貴女が伝えれば、ファビオ様は私が来た事を知るでしょうが、私がファビオ様が戻られた事を知る術はこうしてお伺いするしかありませんからね」

「私がスヴェン様にお知らせすればいいんでしょ?」

 アリサはスヴェンが訪ねてくる事で、一人気ままに自分のペースで仕事が出来ず苛立っているようだった。

「もし、ファビオ様が貴女に伝えてはならぬと言ったら?」

「私は、ファビオ様にお仕えしている身ですから」

「それでは、私が足を運ぶしかないですね」

 スヴェンは、余裕の笑顔をアリサに見せた。

「どうぞ」

 アリサは、納得いかない顔でスヴェンにお茶を出した。

「それに、貴女の淹れるお茶とお菓子は美味しい」

「奥様が生きていらした時のままにしているだけですわ」

 平静を装ってはいるが、褒められた喜びでアリサの顔は今にも緩みそうになっていた。


『ブルーノ様は、私や他のリエーキ人がおりますので御不自由は感じておられませんが、このままファビオ様の行方が分からないと言うのも不気味ではあります。

 ジャン様のご無事なお姿も拝見しに参りたいのですが、ファビオ様行方不明が解決しない限りここを離れられそうもありません』

 スヴェンからの手紙をハンスから見せられ、レナはどう反応するべきか迷った。

「僕達もファビオを探すべきだろうか」

 ハンスは特にレナの様子を気にする様子は見せなかった。本心では、レナがファビオの事をどう思っているのか、今直ぐにでもレナの心を覗きたかった。もしかしたら、自分の知らないところで連絡を取っているのかもしれない。しかし、レナに嫌われたくない一心で耐えていた。

「ファビオは、もう他国の人よ。依頼がない限りは探す必要はないんじゃないかしら」

「でも、タルメランと何か関係があるかも知れない」

「だとしても、今は私には何もできない」

 レナはそう言って、手紙をハンスに返しお腹に手を当てた。

「でも、例えタルメランやファビオでも、この子に何かしようとする者は、私が許さない」

 レナはハンスに微笑んだ。

 ハンスはそれだけで、将来の幸せが約束されたような気分になった。

「それより」

 レナが話題を変えた。

「スヴェンさんに、是非ジャンの様子を見てもらいたいわね」

「んー、だったらアルセンいや、ジャンが考案した『天使の焼き菓子』。あれをスヴェンさんに送ろう」

「そうねっ!」

 ハンスの提案にレナも賛同した。


 天使の焼き菓子。

 城からの帰り道に出会った少女をイメージして、アルセンが考えた焼き菓子だ。

 あの時少女がアルセンの手に握らせたエヴァの焼き菓子の生地に、果物のジャムを少し混ぜ込んだ物だ。口の中に入れた瞬間、ほのかに広がる果物の香り。

 瞬く間に人気商品となり、アルセンは毎日ジャム作りに追われていた。

 アルセンとエヴァは、毎朝二人で市場に出向きその日一番ジャムに適した果物を買っていた。その姿は、あっという間に噂となりレオンの耳にも届いた。

「僕は今日、忠告に来たんだ」

 悲壮な顔をしたレオンが、閉店間近の店にやって来た。

「あら、レオン。いらっしゃい!」

「あぁ……」

 エヴァの満面の笑みに出迎えられ、レオンは出鼻を挫かれてしまい、勧められるがままにテーブル席に座った。

「もう、閉めて夕食にしようと思っていたの。サラダとパンケーキでいいなら、レオンも一緒に」

 エヴァはそう言って、店の看板を閉店に架け替えた。

「ジャン! 友達が来てくれたの。夕食一緒にするから、もう一人分お願いね」

 キッチンに向かって言ったエヴァを見て、レオンはここに来た目的を思い出した。

「ジャンっていうのかい?」

「え?」

「キッチンにいる男」

「ああ、そうよ。ジャン。とても腕の良い菓子職人よ」

「どう言う関係なの」

「は?」

「ジャンと君だよ。僕は心配なんだよ。君は行方不明になったり、変な男と付き合ったり、今まで色々あったから」

「あら失礼ね。変な男となんて付き合った事はないわ」

「じゃぁあの男は? 突然現れて君の店に居座ってるそうじゃないか。どこの誰とも分からない男を雇っちゃダメだ」

 エヴァは笑いを必死に堪えた。

 レナ、エヴァ、レオンは幼馴染だった。エヴァはレオンに恋した時期もあったが、レオンの心にいたのはレナだった。

 懐かしい……。

「本当に大丈夫だから。今は言えないけれど、あの人はレナの知り合いで、ちゃんとした人よ」

 レナの知り合い。

 魔法の言葉だった。

 レオンの表情に安堵が広がる。

「レナの知り合いなんだ! よかったぁ。本当に変な奴だったら、一戦交えてでも追い出そうと思ってたんだ」

 ホッとしたレオンと、笑いが堪えきれなくなったエヴァの間に焼きたての大きなハムが添えられた焼きたてのパンケーキとサラダがドンと置かれた。

「ありがとう、ジャン」

 見たこともないような笑顔のエヴァを見て、レオンに一瞬嫉妬心が生まれた。


次話も、よろしくお願いします。

(久々にレオンが登場しました。覚えてます?レオン)

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