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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
愛しさの19歳
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反撃3

 リエーキの国政は未だ混乱していた。

「まだ落ち着かないのかい?」

 ジョアンは母からの催促にも苛立ちを感じ始めていた。

 だったら何か手伝ってくれ。この城に来てからの母さんは贅沢しかしていないじゃないか。

 今にも口から出そうになったが、何とか堪えた。

「ごめんよ母さん。まだ少しかかりそうだ。でも、母さんは気にせずゆっくりしててよ」

 人懐こいあの笑顔を母に向けた。

「そうかい」

 母は無邪気に笑った。

 ジョアンの人懐こい笑顔は、母譲りだった。

 そもそもの混乱の原因は、アルセンの息の掛かった役人達を皆殺しにしようとした事だ。

 恐れをなした全ての役人達が、職務を放棄しこぞって逃げ出した。

 まさか、国政がここまで混乱するとは、経験のないジョアンには予想もでず、助言をしてくれる経験者が一人もいない。

 機嫌を損ねれば殺される。

 皆がジョアンの顔色を伺い、ジョアンの指示がなければ目線一つ動かさないような状態だ。

 これでは、アルセン一族の行って来た恐怖政治と変わらないじゃないか。

 ジョアンの一番の悩みは、自分への苛立ちだった。


「何でゴージェなんだよ」

 同僚達からは随分と妬まれたが、ドプトスからリエーキから逃れて来た魔人を城まで引率する役目をゴージェは命じられた。ゴージェにとっては、生まれて初めての登城だ。大事な役目なのだから、気を引き締めて、とは思うものの楽しみにするなと言う方が無理なのだ。

 おかげで同行しているリエーキの魔人達も、ゴージェのニヤけたかと思うと、突然真顔になったりする様子を楽しみながらの旅となった。


「私レナに手紙を書くわ。だからお願い行かないで。行ったら二度と会えない気がするのよ」

 エヴァは、今にも泣き出しそうだ。

 アルセンに城から迎えが来たのだ。

「私と同じように逃げてきたリエーキの者に会うだけだから」

 しかし、余りにエヴァが引き止めるので後ろ髪を引かれる思いで城に向かった。

 もし、ジャンが帰ってこなかったら、今度こそレナとは絶交よ!

 エヴァの心の叫びに、アルセンは何としても帰って来なければと、思わずにやけてしまった。

 ここまで自分を必要としてくれた者があっただろうか。

 アルセンとエヴァは、まだ何の関係も築いていなかった。抱きしめてキスをしたい。そうは思っているが、それ以上は望んでいなかった。望む事すらエヴァを汚すような気がしていたのだ。にこにこと楽しそうに、時に悩みながら歌詞を作り接客をするエヴァを見ているだけで幸せだった。

 しかし、こうして自分だけ幸せで良いのだろうか。今もリエーキでは、ジョアンによる圧政から逃げ延びようと湖に飛び込む者も居るのだ。


 ゴージェは、大きな声で門番に名乗った。緊張で今までに増して大きな声で、門番が仰け反るほどだった。

「どうぞ」

 門番に通された塀の中は、美しい庭に美しい城。

 ゴージェは思わずため息が出た。

「ゴージェさんっ!!!」

 庭から自分を呼ぶ声がした。

 大きなお腹を抱えたレナだった。

「レナ姫様っ!!!」

 リエーキ人達は迎えに出てきたハンスに引き取られ、ゴージェはメイドの案内で庭に居たレナの元へ向かった。

 東屋では、豪華なお茶の用意がされていた。

「ゴージェさん、お久しぶり。大変なお願い聞いて下さってありがとう。お陰で大切な友人が救えました」

 レナは、ゴージェの手を握った。

「いやぁ、私は仕事をしただけですよ」

「そんな事ないわ。ジャンから聞きました。冷たい湖に飛び込んで助けて下さったんでしょう?」

「お友達ってのは、ジャンの事でしたか。なぁに、あの程度の水温でしたら全く平気ですよ」

「ゴージェさんって、勇敢なのね。あら、ごめんなさい、お茶が覚めてしまうわね。頂きましょう」

 レナと楽しくお喋りをしたが頂くお茶や菓子、何もかもが美味しかった。


 城の中では、アルセンが元部下達との再会の喜びと、と命を落とした者への悲しみで忙しくしていた。


 ゴージェが連れて来たリエーキ人の中には、カーラを助けた医者も居た。

「国王、約束通りコサムドラにやって来ました」

 医者はアルセンとの再会を喜び合うと、直ぐに東屋のレナの元へ向かった。

「お久しぶりです、レナ姫様」

 医者の登場に驚いたレナは、食べていた菓子をゴクリと飲み込んだ。

「あなたも無事だったのね!」

「国王とのお約束でしたから」

 再会の喜びも束の間、もう次の瞬間には医者にはバレてしまった。

「レナ姫様、お菓子の食べ過ぎです。この時期に太ってしまわれると、出産に問題が起きやすくなります」

「大丈夫よ。あなたがいるじゃない」

「そう言う問題ではありませんっ!」

 ゴージェは、驚いて二人の顔を交互に見つめていた。そんなゴージェの姿にレナと医師も笑い出してしまった。

 ひとしきり笑った医師は居住まいを正した。

「レナ姫様、暫くここで世話になります医者のオクサナです。あの時は急な事でご挨拶でず失礼いたしました。これからよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「オクサナさん、あんたお医者様だったんかい!」

 ゴージェの大声が庭に響いた。

次話も、よろしくお願いします。

(これでレナの出産も安心!のはず……)

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