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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
愛しさの19歳
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反撃1

 最初の男を救った後、ゴージェは何人ものリエーキ人を助けたが、その数はやはり遺体の数からすればほんの一部だった。


「ドプトスから報告が来たよ。結構な数の遺体が浮いているらしい」

 ハンスからの報告にレナは青ざめた。

「もしかしてアルセンも……」

「分からない。ただ生きて渡り切れた人も何名かはいるらしい」

「どうしてこんな事に……。ジョアン、一体何者なの。自国民を迫害する様な人には見えなかったわ」

「アルセンも良い国王とは言えなかったけどね」

 今二人にできる事は、アルセンの無事を祈る事だけしかなかった。


 ドプトスでは表向き生存者はいない事となっていた。もし、生きて渡った者があるとリエーキに知れれば、命懸けで渡って来た者達を再び湖の中に突き落とすも同じ事、いや、それより酷い事が為される可能性があった。

「助けを求めてきた者に、手を差し伸べないわけには行かない」

 それがコサムドラ国のスタンスだ。

 差し伸べた手を掴んで捻られる様な事も過去にはあったが、コサムドラ国が長く存在し続けられている理由は、このスタンスにあった。


「どうですか? コサムドラの食事はお口に合いますか?」

 ゴージェが相変わらず大きな声で聞いた。

 ドプトスは宿が多く、その中の宿に助けた者を住まわせていた。宿の主人も、通常の倍の料金を国から支払われ、ご機嫌に接客をしていた。

「ありがとう、とても美味しいです」

「そうですか、それは良かった」

 ゴージェは満足そうに笑った。

「助けてくれて、本当にありがとう。コサムドラは、良い人ばかりだ」

「これからどうなさるんですか?」

「え?」

「望めばコサムドラの民として身分が与えられますよ」

 アルセンは耳を疑った。身体が元気になれば、ここまま拘束され何処かへ連れて行かれるものとばかり思っていたのだ。

 自分だったら、そうする。もう、国王ではないが。

「もし、私がコサムドラの転覆を狙う者だったらどうするのですか」

「転覆するんですか?」

 ゴージェの驚いた顔には人の良さが滲み出ているようだった。

「いや、ただ逃げて来ただけですから……」

「では、ようこそコサムドラへ」

 ゴージェがニコニコと笑った。


 リエーキからの逃走者を、コサムドラの民とする事を提案したのはアンドレだった。

 娘とこれから産まれてくる孫、そして国民の守りたい。タルメランと言う見えない敵と戦わなければならないのだ。

 力のある魔人を国民にしたい。

 カーラの出産時の事をベルとエリザから聞いたアンドレはそう思い始めていた。

「もし城で働きたいという者があれば、連れて来てくれ。必ずしも希望に添えるかは分からないが、善処しよう」

「お父様が冷たい方でなくて良かった」

 アンドレの決定に、レナも喜んだ。


 何日かして、ゴージェからアルセンに身分証明が手渡された。

「はい、ジャン、あんたの身分証が出来てきたよ。あんたはあの湖で生まれ変わったようなものだな」

「ありがとう」

 そこには聞いた事もない地方出身と書かれていた。

 いつか訪ねてみよう。

「これで貴方はコサムドラの何処へでも行けるし、コサムドラの民として国外にも行ける」

「ありがとうゴージェ。世話になった」

「気付けて、ジャン。今度は遊びにドプトスへ来てくれ」

「ああ」

 二人は固く握手をして分かれた。


 今日は何だか、昼間は目が回る程の忙しさだったが、夕方は早い時間に客足が途絶えた。

 キッチンで明日用の菓子の仕込みをしていたが、すっかり日も落ちたし、大通りに人通りもなくなったので、早目に店を閉めようかと思った矢先、店先に人影が現れた。

「美味しそうな匂いにつられて入って来てしまったが、まだ何か食べる物は残ってますか?」

「はいはーい」

 エヴァが慌てて店に出ると、そこにはアルセンの姿があった。

 エヴァの見開かれた目から、涙が溢れ出て止まりそうもなかった。

「そんなに涙を流していると、菓子が塩っぱくなりはしないか?」

「意地悪言わないで」

「すまない」

 エヴァに睨まれ、アルセンは小さくなった。

 ギュルギュルギュル……。

 アルセンの腹が空腹の限界を知らせた。

「本当にお腹が空いてたのね。何か作るわ」

 エヴァは、キッチンへ戻って行った。

 さっきまで居たキッチンとは違うキッチンの様に見えた。キッチンだけではない、全てが違って見えた。

「パンケーキとベーコンで良いかしら、ジャ……アルセン王」

 店に居るアルセンに呼びかけると、アルセンがキッチンに入って来た。

「ジャンで良いよ」

 そう言って、ゴージェから渡されたコサムドラの身分証をエヴァに見せた。

「え……」

 アルセンが説明しようとした時、店に客がやって来た。

「いらっしゃいませ! 直ぐに戻るわ。パンケーキ焦がさないでね。プツプツとして来たら、ひっくり返してね」

 エヴァはウキウキと接客に出て行き、アルセンは戦いを挑む様に、フライパンの中を見つめ始めた。

次話も、よろしくお願いします。

(エヴァ、良かったね。でも、アルセンにはしなければならない事がある)

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