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再会 傷付く二つの心と悪意

 親友エヴァとの再会に心躍らせるレナだが……

「ベル、エヴァは喜んでくれるかしら」

 レナは、エヴァの為にお揃いの小さなポーチを作った。

 エヴァは、きっと私が相変わらず針仕事が苦手だと思っているだろうから、私が作ったって言っても、信じないかもしれないわ。

 


 迎えに来た大きな高級そうな馬車を見た時は深くは考えなかったが、大きな門をくぐった時には流石に驚いた。

 馬車を降りたエヴァは、庭の東屋に案内された。

 東屋から飛び出してきたのはレナだった。

「エヴァ! 会いたかった!」

 エヴァに抱き着くレナ。

「私もよ、レナ!」

 とは言ったものの、ここはどこなのだろう。

「エヴァ、今夜は泊まれるんしょう?」

「うん」

 レナはここで働いているのだろうか。

 運ばれてきたお茶は、最高級品だ。

 お菓子は誰かの手作りで、とても良い材料を使っているのが分かる。

「訓練校って、どんなとこなの?」

「私はメイドになる為の訓練校に通ってるんだけど、家政全般を専門的に学んでるの」

「私も行きたかったなぁ」

 これはレナの本心だ。

 できればあのまま、エヴァと一緒に進学したかった。

「お父さんは、行かせてくれないの?」

「そうね、そんな感じね」

 それからは、エヴァの日々の生活、仲良くなったカーラの事、先日のお手伝いの事、レナはエヴァの話全てを楽しそうに聞いてくれた。

「そうだ、コレ」

 給金で買ったお揃いのクリームをレナに渡した。

「ありがとう、エヴァ!」

 思った通り、レナは本当に喜んでくれた。

「私もねエヴァに渡したい物があるの」

 と言って、手作りのポーチを二つ出してきた。

「これ、レナが作ったの?」

 上質な生地で丁寧に作られたポーチ。

 レナは、一つをエヴァに渡して、もう一つは今エヴァから貰ったクリームを入れた。

「お揃いよ! 頑張って作ったの。針仕事、上手になったでしょ?」

「うん、凄く上手! ありがとう!」

 でも、何か違う、何かが違う。

「もしかして、このお菓子もレナが?」

「そうなの!」

「凄く美味しいわ」

 本当に、ここはどこなのだろう。

 空模様が怪しくなってきた。

 近くに居たメイドが、レナに言った。

「レナ様、お天気が崩れそうです。お部屋に戻られては」

 崩れそうなのは、エヴァの心だった。



 あの日あの男は、王の娘の名はレナ、確かにそう言った。

 案内されたのは城の中だった。

 それは王の娘レナが、親友レナである事を証明していた。

 私は、ここで働く事すら許されないのに。

「エヴァ、どうかしたの?」

 再会の興奮から少し落ち着いたレナは、やっとエヴァの様子がおかしい事に気が付いた。

「何か元気がないみたい。具合でも悪い?」

「そんな事は、ないんだけど……。凄いお部屋だな、と思って」

 今だ、今言わなきゃ。

 レナは心を決めた。

「あのね、エヴァ、驚かないで聞いてね」

「うん」

「私のお父様、国王だったの」

 ああ、やっぱり、エヴァは思わず声に出して言いそうになった。

「本当に?」

「私もびっくりしたんだけど」

 びっくり何てものじゃない、一時は死のうとまで思ったんだから。

 レナは、母の死からこれまでの苦悩をエヴァに話そうと思っていた。

 エヴァも、国王の娘の名がレナと同じ事、城の仕事に落ちた事、レナにゆっくり話そうと思っていた。

 しかし、レナは遠い人になってしまった。

 今夜一晩、ここでレナと過ごせる自信がない。

 エヴァは一刻も早く、ここから逃れたかった。

「あ、ごめんなさいレナ。私、大切な用を忘れてたの。帰らなきゃ……」

「ええ! そんな! 今夜はゆっくりエヴァと一晩中話をしようと思ってたのに」

「本当にごめんね」

「また、来てくれるでしょう?」

「もちろんよ」

「手紙書くわ」

「私も」


 エヴァの乗った馬車に、何時までも手を振るレナ。

 エヴァも窓から身を乗りだして、レナが見えなくなっても手を振り続けた。

 あんなに会いたかったレナなのに、どうして逃げ出してきてしまったんだろう。

 エヴァは、泣いていた。

 どうして、どうして……。

 手紙なんて書けない。

 何を書くというの。

 レナ、貴方が住む城のメイドに応募したけどだめだったわ何て、惨めで書けるわけがない。

 そうだ、私は今惨めなんだ。

 街で一緒に育ったレナが、雲の上の人になってしまった。

 カーラへの嫉妬心など、今になってみれば些細なものだった。

 エヴァは、思い切って言葉にして言ってみた。

「レナ、どうしてあんた何かが城でお姫様してるの? 私はそこで働く事もできないのに」

 言葉にすると、ますます惨めになってしまった。

 もうレナには手紙も書かない、勿論会うこともない。

 城のメイドに落ちていて良かった。

 私がレナの下で働くなんて、考えられない。

 エヴァは、レナから貰ったポーチを力一杯握りしめた。



 城ではレナが動揺していた。

「私、エヴァの、後を追うべきだったかしら」

 静かに針仕事をしているエリザは、無言で頭を横に振った。

「そうよね……」

 レナは、エヴァの心を覗いてしまった。

 あれ程、ジャメルに注意されたのに……。

 エヴァの荒れ狂った心に、レナは傷付いた。

 私は、大切な人程苦しめてしまう運命なんだろうか。

「でもね、エヴァ。私の親友は貴方だけだし、貴方の事が大好きよ」

 エヴァから貰ったクリームを、大切に引出しの奥に入れた。

 5日後はレナの14歳の誕生日だ。

 そして間もなく、母の喪が明ける。


 あの日、エヴァが手伝いに行った屋敷は、ドナルド・クレマンの屋敷だった。

 クレマン家は王家とは唯一の血縁関係で、代々長く国の重役についていた。

 アンドレの妃が子を身ごもったまま行方不明になり、上手くいけば息子が王座につく事も夢ではない。

 そう思っていた。

 それが、ここに来て……。

 旧友の訓練校で校長をしているダニエルは、国の教育長も兼ねており娘と名乗りでた娘の素性を調べるには適任だ。

 何とかレナの披露目の日までに素性を暴いて、その自称娘を城から追い出さねば。

 もし、本当にあの若造アンドレの娘であっても、追い出してみせる。

 息子を王座につかせる為なら、なんでもする。

「ドナルド様、ドミニク様がおいでになりました」

 メイドがドミニク老人を連れてきた。

 なんでこんな時に、おいぼれめ。

「やぁ、ドミニク。急にどうしたんだい」

「いや、レナ様のお誕生日が近いんでな、何か我々からお祝いをした方が良いんじゃないかと、妻が言い出したもんでな」

「なるほど」

 足腰の弱ったドミニクは、勧められもしないのにソファに腰掛けた。

 そのソファは、私のお気に入りだ。

 勝手に座るなど、とんでもない。

「とって置きのお祝いを準備しているよ」

「ほぉ、流石ドナルドだ。もう、年を行くと、そう言う事にも気が回らんようになってな」

 ドミニクは、メイドの用意したお茶を美味しそうに飲んだ。

 後5日、後5日までにダニエルがきっと良い報告を持ってきてくれる。

 それが姫へのお祝いだ。

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