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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
愛しさの19歳
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はじまり3

 翌日からジョアンは、ハンスに付いて仕事を学ぶこととなった。

 人懐こいジョアンは、あっという間に若い女性達の憧れの的となった。

 しかし、ジョアンハイとてもレナに興味を持っていたが、ジョアンがレナに近付く事を何故かベルがひどく嫌がるので極力避けていた。

「王子様ですか? 王女様ですか?」

「産まれてみないと、それは分からないよ」

「リエーキの医者なら分かるのに……」

 何故かジョアンは不満そうだった。

「産まれてくるまでの楽しみって事だよ」

「なるほど!」

 いつもの人懐こい笑顔のジョアンに戻った。長く一緒にいると、時々ジョアンが冷たい目をする事にハンスも気付いてはいたが、特に気にはしなかった。

「レナ様はあまり魔力がお強くないのですか?」

「今はね、妊婦だから大事を取って、魔力は使っていないんだよ。身体に及ぼす影響が分からないから」

 ジョアンの無邪気な質問に、ハンスは思わず答えてしまった。

 翌朝、ジョアンの姿は城から消えた。


「母さん、やるなら今だよ。今ならできる!」


 リエーキの城に突然、強い魔力を持った集団が襲い掛かった。

 誰も歯が立たない。

 知らせを受けたアルセンも現場に向かったが、防戦一方だ。

「誰だっ!」

 アルセンが大声で怒鳴ると、攻撃の手が止んだ。

「やだなぁ、僕ですよ。アルセン様」

 姿を見せたのはジョアンだった。

「ジョアン。何をしているんだ」

 ジョアンが顔をしかめた。

「偉そうに偽物国王が」

「なに?!」

 アルセンが見た事もない様な冷たい顔のジョアンだ。

「魔人皇族の末裔だと? 嘘をつけ。魔人皇族の末裔は我々だ」

 再び、集団が攻撃を始めた。逃げ惑う者達、応戦する者達を冷酷に次々と殺していく。城の中は阿鼻叫喚の地獄絵図のようになっていた。

「止めろ!」

 アルセンも必死に防戦するも、力の差は歴然だった。

 ジョアンが集団を制止した。

「では、一時間やろう。きっかり一時間後、この城を我々に明け渡すと約束するなら、攻撃を一度止めても良い」

 ニヤリと笑うジョアンの顔に、アルセンは背中に冷たい物を感じた。

「分かった。分かったから、攻撃をやめてくれ」

「では一時間後に。約束だ」

 ジョアン達の姿は、一瞬にして城から消えた。


 コサムドラに早馬を出したかったが、恐らく見張られている。余計な行動をするのなら、一刻も早くここを離れて、対策を練らなければ。

 アルセンは、墓に向かった。

 墓の両親は、騒ぎに気付いていた。

「城を離れる事になりましたが、必ずや戻ってまいります」

 父は黙って頷いた。アルセンの判断を認めてくれたのだ。

「ジャムの女性によろしくと伝えてね」

 母の優しい笑顔に、涙が溢れそうになったが、泣いている場合ではない。

「無理をする必要はない。お前の幸せを願ってる」

 生きている間に、両親からこれを伝えられていれば、何が変わったかもしれない。

「必ず、戻りす!」

 アルセンはもう一度両親に向かって誓い、城へ戻った。

 城の中では、医者が怪我人達の手当てに奔走していた。

 その中には、カーラの命を救った医者も居た。

「頼みがある。コサムドラの姫君の出産に立ち会って欲しい。約束をしたんだ」

「承知しました。何とか抜け出しコサムドラに向かいます」

「頼む」

 アルセンは、城を明け渡す準備に取り掛かった。


 国を捨てるわけではない。逃げるわけでもない。

 人命を第一に考えた、一時撤退だ。

 何度も何度も、繰り返して自分に言い聞かせた。

 それにしても、ジョアン、あいつは何者なのだ。


 一時間後、時間きっかりにジョアンが姿を現した。

「では、今から面白い事をしょう」

 ジョアンがにやりと笑うと、一枚の紙をアルセンに手渡した。


『元国王アルセンは、自らの親である前国王夫妻を殺害した罪で手配中。見つけた者には、多額の資金を贈与する。国王ジョアン』


「これを三十分後、国中にばら撒く。どこまで逃げられるか、楽しみにしているよ」

 アルセンが魔力を使って姿を消そうとすると、ジョアンは楽しそうに声を立てて笑った。

「この城の中で罪人お前は魔力を使う事は出来ない。いや、この国中で、かな?」

 城中にジョアンの楽しげな笑い声が響き渡った。

次話も、よろしくお願いします。

(いるよね、子犬みたいな行動するのに冷酷な人)

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