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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
愛しさの19歳
207/271

はじまり2

 その青年は、人懐こい笑顔でアルセンの執務室に入って来た。

「アルセン様、お呼びでしょうか」

「ああ。ハンス王子、彼がジョアンです」

 ジョアンはハンスの顔を見て、驚いた顔をしたが、直ぐ気を取り直した。

「初めまして……では、ないんだけれど、ハンスです。よろしく、ジョアン」

 ジョアンは、差し出されたハンスの手を取り握手をした。

「どこかでお会いしましたでしょうか……」

「では、思い出すまで内緒にしておきましょう」

「もしかして…、あ、いや、そんな訳は……」

 混乱するジョアンの姿に、アルセンとハンスが笑い出すと、当のジョアンもつられて笑い出した。


 ジョアンとハンスは歳も近く、直ぐに打ち解けた。

「やっぱりギード様だったんですね」

 やっと思い出したジョアンだったが、ハンスがこのリエーキでアルセンの側近をしていた頃は、話もした事がなかった。

「随分と雰囲気が変わられたので、分かりませんでした」

「それは、よく妻にも言われるよ。子供が生まれるからかな」

 妻。

 レナの事を、妻と表現するのはまだ少し慣れなかったし、こそば痒い感じがした。

「僕とハンス様は、歳が一つしか変わらないのに、ハンス様はご結婚されてもう直ぐお子様も生まれる何て凄いなぁ」

「別に凄く何てないよ」

 兎に角ジョアンは、ひどく喋る青年だった。

「ハンス様も奥方のレナ様も、魔人皇族の末裔なんですよね。何だか、かっこいいなぁ」

 どうやら、ジョアンはハンスに憧れの感情を持っているらしい。

「何も凄くはないよ。そのお陰で、私も妻も大変な思いをした事もあるしね」

 ハンスは苦笑いをした。

「そうなんですね……」

 しゅんと元気をなくしてしまったジョアンを見て、ハンスは可愛い弟の様に思い出した。ただ、この弟は、喋りすぎる。


「ジョアンは、我が国の重要職者の中でも一番若いだ。だからこそ、新しくなるリエーキで、活躍してもらいたいと思っている」

 アルセンの多大なる信頼をジョアンは得ていた。

 そしてジョアンも、アルセンに忠実だった。

 ただ、ハンスはジョアンに底知れぬ何かを感じていた。それが何かは分からないが、これまでの経験上良くないことの様に思えた。

 それでも子犬の様に人懐こい笑顔で話すジョアンを見ていると、そんな事も忘れさせられた。


「ではハンス王子、ジョアンの事よろしくお願いします」

 アルセンの見送りを受け、ハンスとジョアンはコサムドラに向かった。

「一国の王子が、こんな普通の馬車で移動されるんですね」

 ジョアンは普通の馬車と言ったが、この馬車はアルセンが用意したそれなりに豪華な馬車だ。

「ジョアンの家は、しっかりした家柄と聞いたけれど本当のようだな」

「ただ古いだけの家ですけど……」

 ハンスの言わんとする事が分からないのか、ジョアンは不思議そうな顔で応えた。

「コサムドラまで、どのくらいかかります?」

「コサムドラの名物って何です?」

「コサムドラの城は、リエーキの城より大きいですか?」

「母にコサムドラ土産を買おうと思っているのですが、何か良い土産物ありますか?」

 旅の間、ハンスはジョアンの質問攻めにあった。

「もしかしてジョアン、旅は初めて?」

「はい!」

 ジョアンは、目を輝かせて窓の外を眺めている。

 それなら仕方がない。少しゆっくりとした旅にするか。

 ハンスも、ついついジョアンのペースに飲まれてしまっていた。


「レナ姫様、初めまして! ジョアンと申します!」

 例の調子で、ジョアンは迎えに出てきたレナに駆け寄った。


 その夜、レナもハンスはジョアンの話題で随分と盛り上がった。

「ジョアンて、何だか子犬みたいよね。思わず尻尾があるのか確認しちゃたわ」

「旅の間も、ずっとあの調子だったよ」

「どのくらい、ここにいるの?」

「一月かそこらかな」

「じゃ、ジョアンが帰る頃に、この子は生まれるのね」

「ちょっと城を離れている間に、またお腹大きくなったんじゃない?」

 ハンスは、そっとレナのお腹に触れた。

「そうなの。それに何だか食欲も凄くて、食べ過ぎってエリザにお菓子を隠されちゃったの!」

「早く会いたいね」

「そうね」

 レナとハンスがお腹に触れると、ボコボコと手に触れた。

「あらやだわ。こんな時間に暴れないで。眠れないじゃない」

「きっと僕に、おかえりって言ってくれてるんだよ!」

 開け放された窓から、幸せそうな二人の会話が庭に漏れ、庭に居たジョアンの耳にも届いていた。

「ふん」

 ジョアンが冷たく笑った。

次話も、よろしくお願いします。

(え?ジョアン?)

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