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皇女物語(旧題 Lena ~魔人皇女の物語~)  作者: 弥也
愛しさの19歳
206/271

はじまり1

 あまりに酷い腰痛で、ベルに何か腰痛に効く薬草を頼もうと、レナがベルを探して城の中を歩いていると、前からハンスが難しい顔をして歩いて来た。

「あら、ハンス。また難しい顔をしてどうかしたの?」

「レナ。君に会いに行こうとしてたんだ」

「どうして私に会いに来るのに難しい顔をするのよ。ああ、ハンスどこかに座りたいわ。腰が痛くて」

 レナが言い終わらない内に、何処からともなく椅子が現れた。

「ありがとう、助かったわ。本当腰が痛くて。何か薬草がないかと思ってベルを探していたのよ。で、ハンスの用は何?」

「実は今からリエーキに行く事になった」

「え? 今から? どうして急に。また何かあったの?」

 レナの脳裏にはエヴァの顔が浮かんだ。

 アルセンとはどうなっているんだろう。

「以前から行く事は決まっていたんだけど、レナの出産の事もあるし急いだ方が良いと思って」

「リエーキの暴動は落ち着いたとは聞いてるけど、少し心配だわ」

「大丈夫だよ。僕は一時あの国の国王の側近だったんだから」

「あ……そうだったわね」

「部屋まで送るよ。ベルさんには僕からお願いしてくから」

 レナはハンスの手を借りて立ち上がり、腰をさすりながら歩き始めた。

「僕が何とかしてあげられたら良いんだけど」

「リエーキに行くのはこの子が産まれてからでは、ダメなの? ハンスがいない間が不安だわ」

「大丈夫だよ。昨日、ベルさんもまだまだ産まれないって言ってたじゃないか」

「そうだけど……」

「コサムドラのじゃじゃ馬姫様は、いつからそんな弱気になったんだい?」

 レナは少し背伸びをして、ハンスの耳を摘んで自分の顔の前までハンスの顔を持って来た。

「誰が、じゃじゃ馬ですって?」

「いててて。ほら、じゃじゃ馬じゃないか」

 ハンスは、目の前に現れたレナの唇に軽くキスをした。

「もう」

 レナとハンスは笑い出した。

 廊下には若い夫婦の幸せそうな笑い声が響いた。


 アルセンの元には、時折エヴァからジャムやケーキが届いていた。

 誰かに読まれる事を危惧したのか、手紙すら入っていないが、包みに書かれた宛先の几帳面な字がエヴァからだと一目でわかる。

 人目を避けようと、両親の墓迄に来て、丁寧に包みを開き、瓶に入ってジャムを指ですくって舐めてみた。

「まぁ、瓶から直接口にするなんてお行儀の悪い」

 いつの間にか、母の魂に見られていたようだ。

「誰も見ていないんだし、構わないよ」

「それもそうね。そのジャム、アルセンの大事な人が作ったものね」

「そ、それは」

 アルセンが慌てて瓶に蓋をした。

「別に照れるような年でもないでしょう」

 母が笑った。生きている間は、殆ど見せる事のなかった笑顔だ。

「アルセン様! コサムドラからハンス王子がお越しになりました!」

 墓の敷地の外から、使用人が大きな声で伝えた。

「ああ、直ぐ行く! 母上、失礼します」

 小さなジャムの瓶を服のポケットに隠し、アルセンは墓を後にした。


 久しぶりにやって来たリエーキの城の中は、ギードとしてアルセンの側近を務めていた頃とは随分届いて様変わりしていた。

 以前は常に薄暗く息が詰まるような城内だったが、今は明るく開放的になっている。

 通された部屋からは、手入れの行き届いた庭に出る事が出来た。

 咲き乱れる花を眺めていると、アルセンが足早にやって来た。

「ギ、いや違った。ハンス王子、よく来てくださった」

「アルセン様、今日は父アンドレの使者としてやって参りました」

 ハンスがかしこまって言うと、アルセンが笑った。

「この部屋は私のプライベート空間だ。私が特別に許した者しか近付かない。他の目を気にしなくて大丈夫だよ」

「そうですか。随分と場内の空気が変わった気がしますが」

 ハンスがこの城にいた頃は、使用人達はアルセンを腫れ物のように扱い、足音一つ立てる事はなかったが、今は何処かの部屋からは笑い声が聞こえている。

「魔力を解いたのだ。使用人一人一人が、自ら考え協力し合い仕事をしている。先ずは城内から変えようと思って」

「なるほど」

 アルセンの決意は本物のようだ。

 城への道すがら、街の様子もつぶさに見て来たが、暴動は完全鎮圧され、みな生き生きと生活をしていた。

「アルセン様は本気なのですね」

「ああ、勿論手紙に書いた事に嘘はない」

「分かりました、父アンドレから手紙を預かっております」

 ハンスは、出発前にアンドレから預かった手紙をアルセンに手渡した。

次話も、よろしくお願いします。

(私は、ハンスが離れたコサムドラの城が心配)

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