試される時2
コサムドラの城から、マルグリットの亡骸とアリサが警備隊に守られ、ムートルへ向かって出発した。
もし、今自分が妊娠していなければマルグリットを生き返らせる事も可能だったかもしれない。ファビオはどうしているのしら。もし、私がハンスではなくファビオと結婚していれば、こんな事にはならなかったのではないだろうか。
レナそんな思いを消す事が出来ないまま、バルコニーからマルグリットの亡骸を見送っていた。
「何を考えているの」
後ろからハンスに声を掛けられて思い出した。
「大おば様は!?」
「それがさぁ……」
ハンスが頭を掻いた。
カリナとスヴェンはお互いの素性を知ると意気投合してしまった。
「スヴェン、私はお前に生きている間に会いたかったよ」
「何と有り難い」
スヴェンはカリナに気に入られ、恐縮しきりだった。
「アルセンの名付親と、教育係。二人でアルセンの前に表れてやろうじゃないか」
「なるほど、アルセン様の驚く顔が目に浮かぶようですなぁ」
カリナは、さっさとアリサからクマのぬいぐるみに移動し、ハンスが止めるのも聞かずにスヴェンと共に旅立ってしまった。
「酷いわ、大おば様。私に会わずに行ってしまわれるなんて」
「何度も止めたんだけどね。ほらレナ、冷えるといけないから中に入ろう」
ハンスはレナの肩を抱いて、バルコニーから中へと向かった。
「もう、ハンスまでエリザやベルみたい事言わないでよ」
二人は微笑みあった。
スヴェンとカリナが最初に向かったのは、リエーキではなくムートルのファビオの元だった。
「ファビオ様にお会いになりたいのですね」
「ああ、よろしく頼むね」
スヴェンとカリナを乗せた馬車は、ムートルへと走った。
二人がファビオの元に着いたのは、マルグリットの葬儀の準備が始まった頃だった。
「ああスヴェンさん」
気を張り詰めていたファビオは、スヴェンの顔を見たとたん身体から力が抜けてしまい、その場に座り込んでしまった。
カリナはファビオの魔力がどの程度なのかを確認したかった。
もし癒者の力をタルメランから受け継いでいれば、レナの脅威になる。癒者の力は、王家の血を引く男子に受け継がれるモノだ。ファビオは男だ。
カリナが調べた限りでは、タルメラン以降癒者の力を持つ男児は存在していない。いや、もしかするとタルメランの手によって抹殺されたのかもしれない。癒者の力と言うのは、莫大な求心力を集められる力なのだ。タルメランが独り占めしようとした可能性は十分にある。
マルグリットの葬儀は滞りなく行われた。
埋葬に関しては、コサムドラにある夫の墓の隣に行われる事になったが、ファビオは仕事を優先した。全てを業者に任せて、仕事に没頭する事で悲しみから逃れていた。
そんなファビオの姿を見たカリナは、レナの脅威にはならない、と判断した。
ただし、今のところは、である。
「一度里帰りをしたい」
スヴェンの申し出に、ファビオは快く休暇を許可した。
アルセンは朝から落ち着かなかった。
正確に言えば、教育係だったスヴェンが昼頃訪ねて来ると連絡があった昨日の夕方から、落ち着かなかった。
スヴェンはとても良い教育係だった。しかしアルセンは良い生徒ではなかった。
「魔力を使えば良いじゃないか」
子供の頃からのアルセンの口癖だった。
「それでは人として成長できませんよ」
スヴェンの言っていた事が今なら理解できる。
全てを都合良く魔力で操っていた頃とは違い苦労の連続だが、それがまた面白いと感じ始めていた。
今の自分を見て、スヴェンはなんと言うだろうか。随分年をとっただろうな。
ふと部屋の隅に立てかけたままの剣に目が止まった。
そうだスヴェンは血生臭い事が嫌いだった。あれは大急ぎで片付けなければ。
アルセンは剣を隠す場所を探し始めた。
次話もよろしくお願いします。
(ファビオはまだ魔力が全開ではないのだろうか。死者を蘇らせる事が出来るとか思わない?思わないか。普通。怪我治した事しか無いもんね。レナは、ほらエヴァの森での事件があったから)




