試される時1
マルグリットの死は、コサムドラとムートル両国の王室に衝撃を与えた。
「兄さん、どうするんだよ」
子供から青年へと成長過程のドミニクがブルーノに詰め寄った。
「とにかくスヴェンからの一報が届いただけだ。後の報告を待つしか我々には出来ない」
魔人達に何が起きているのだ。
「私にもわかりません」
呼び寄せたファビオは、言葉少なにそう答えるだけだ。
仕方がない、母が隣国で死んだと言う知らせを聞いたばかりだ。せめてハンスが傍に居てくれれば何も言わずとも、何かしらの行動を起こしてくれただろうに。
「ハンス様より早馬です」
使用人が一通の手紙を持ってきた。
コサムドラの城で一番衝撃を受けたのはレナだった。
アンの死を乗り越えられず弱り切ってしまったレナを救ったのはマルグリットだった。
「もっと、ママやリンダ様の事を聞きたかったわね」
ハンスも同じ思いだった。
マルグリットの死をどう扱うか。
アンドレ、レナ、ハンス、そしてエリザの三人で話し合いが持たれた。
マルグリットの亡骸とアリサは、まさに今この城に向かっているのだ。早急に結論を出さなければ、到着まで時間はない。
「本来であれば、罪人として扱われるのだが」
確かにマルグリットは、コサムドラ王アンドレの右腕と称されたジャメルの死にかかわった人物である。
「エリザは、どうしたい?」
レナはエリザが決めるべきだと思った。
「マルグリット様が直接手を下したのではありませんし……」
珍しくエリザが言葉を濁した。
「どうしたエリザ、なんでも言ってくれ」
魔人の間で起きた事は分からないんだ。
アンドレの顔には、ありありと困惑が浮かんでいた。
「何よりも、兄ジャメルはマルグリット様を愛していたようです」
愛していた。
エリザの口からそんな言葉が出たのを、アンドレは初めて見た。
「そ、そうか。では、コサムドラから息子ファビオの転職を機にムートルへ移転したご婦人の不幸な事故死、と言う事ですませよう」
アンドレの一言で全てが決まった。
「それでいいね? ハンス、レナ」
「「はい」」
マルグリットの亡骸は、事故死した元レナの教育係、として城に迎え入れられた。
ただ、レナがマルグリットの亡骸に近付く事は許されなかった。
「何が起きるか分からないだろ? 今レナは普通の身体じゃないんだから」
ハンスに説得され、納得せざるを得なかった。
「じゃ、アリサに会えないかしら」
「駄目だ。その代わりに僕が会うよ。ほら、くまのぬいぐるみを貸して」
「私、何もさせてもらえないのね」
肩を落とすレナを、ハンスは優しく抱きしめた。
「何言ってるんだよ。レナは今レナにしか出来ない事をしてるんだろ?」
そっっとレナのお腹に触れた。
「今レナは、この子と僕の事だけを考えててよ」
「ええ? 僕?」
レナが思わず笑い出してしまった。
「やっと笑ってくれた」
レナの笑顔を見たハンスは、安心してアリサに会いに向かった。
これからハンスが会いに来ると告げられたアリサは、恐怖で半狂乱になっていた。
「わ、わたし何も悪い事はしてないわ。あ、嘘をついて国境を越えはしたけれど、あれは奥様がっ!」
アリサの叫び声は、廊下まで響いていた。
「静かになさい。どなたか存ぜぬがこの子を静かにさせなさい」
一緒に城まで付き添って来たスヴェンがアリサに向かって言った。
すると半狂乱になっていたアリサが、突然大人しくなった。
「おや、魔人かい」
それは確かにアリサの声ではあったが、まるで別人の声に聞こえた。
「やはり、どなたか入っておられたか。で、どちら様かな」
「ギ…ハンスがやって来れば直ぐに分かるさ」
「そうですか」
部屋は静まり返ったところに、ハンスが部屋に入ってきた。
「お久しぶりですスヴェンさん!」
「ハンス王子! お変わりなく。この度は御結婚及びレナ姫様のご懐妊おめでとう存じます」
「ありがとう」
二人は久方ぶりの再開を喜んだ。
「何だい、ハンス。この爺さんを知ってるのかい?」
「やはりカリナ様でしたか。この方はアルセン王の教育係だった方です」
「「ええ!!」」
スヴェンとカリナ、同時に驚きの声を上げた。
次話も、よろしくお願いします。
(ファビオも癒者なら、マルグリットを復活させれるんじゃないの?)




