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代償24

 リエーキの暴動から一月が経った。

 元々閉鎖的な国だった為、エヴァに入って来る情報はほぼ無いと言って良い状況だった。

 暴動勃発の日、レナには「落ち着くまでここに」と城に留まるように言われたが、エヴァは店に戻った。

 ただ無心になって菓子を作りお茶を入れている時が、一番心が平穏だった。


 隣国の暴動を警戒したコサムドラ王は、国中の警戒を強めた。

『何かあって、巻き込まれでもしたら』

 プルスの街も心なしか人が少なくなったように感じられた。中には客足が遠のき、閉めてしまう店も見受けられた。

 しかし、エヴァの店だけは客足は変わらず、それどころかケーキ等菓子類の持ち帰り客が増えたほどだった。

 寝る時間以外仕事をしなければ間に合わない状況は、今のエヴァにとっては救いだった。


 ある日、ひどく疲れた様子の男性老人が閉店間際に来店した。

「まだ、よろしいかな?」

「ええ、どうぞ」

 エヴァは和かに迎え入れた。使用人達も帰った後で、店にはエヴァ一人だった。

「ああ、有難い。歩き通しで疲れてしまってね。他に店もなくてね」

「もう閉店間際で品数は少ないですけど」

「いやいや、本当にありがたい。貴女のおまかせでお願いしよう」

「でもうちはお茶とお菓子しか有りませんが」

「それは尚更ありがたい! 私は甘い物に目がなくてね」

 老人の喜び方を見て、エヴァは今まで店で出していなかった取って置きと出す事にした。他の客が入ってこない様に、閉店の看板も出した。

 パンケーキを焼き、特製のジャムを添えた。 ジャムが甘いのでお茶は少し濃い目に。

 老人の疲れ切った顔が、パンケーキを一口一口と食べる度に和かになって行く。

「いかがですか?」

「とても美味しいです。このジャムはもしかして、リエーキの桃で作られたのでは?」

「はい、お客様リエーキの方ですか?」

 老人は少し考えて言った。

「貴女はリエーキがどんな国かご存知なのですか?」

「はい、でも私は魔人ではありません」

 老人の手が止まった。

「この桃を知っており、国の秘密を知っている貴女は一体……」

「知人がリエーキの人なので」

 まさか、国王とは言えなかった。

「そうでしたか」

 老人は安心したように再び美味しそうに食べ始めた。

「とても大切な方から頂いた桃で作ったジャムなんです。もう二度と会えないかもしれないけど」

 何故だかこの人になら話しても大丈夫だと思えた。いや、もしかすると思わされたのかもしれない。

「今のリエーキは荒れておりますからなぁ」

 老人はため息をついた。

 この人と話がしたい。リエーキの事をもっと知りたい。

「お茶のお代わりはいかがですか?」

「ああ、お願いしようかなぁ」

「はい」

 エヴァがお茶を準備をしようと立ち上がった時、老人はが言った。

「この桃のジャムのレシピは、国王アルセン王の母上のレシピですね」

 エヴァの動きが止まった。


 もう二時間も話し込んだだろうか。

 老人は名をスヴェンと言った。

「では、貴方はコサムドラの姫君と幼馴染と言う事なのですね」

「でもあの方と知り合ったのは偶然で、こうしてお店に来店されたのが切欠でいした」

 懐かしい。

 つい先日の出来事だと思っていたけど、その間にカーラは命がけで出産をし、レナは婚姻の儀式を行い、そしてリエーキは混乱に陥った。

 もう、随分と時間が過ぎたと言う事だ。

「実は私がコサムドラの来たのは、人を探しておりましてな」

「はい」

「交換条件と言う訳でないけれど、手伝って頂けたらお礼にアルセン様のご様子を探っておきましょう」

「もちろん、お手伝いはしますけど、あの方のご様子分かるのですか?」

 スヴェンはにっこりと微笑みお茶を飲んだ。

「もちろん、私はあの方の教育係でございましたからね」

 スヴェンの告白に驚いたエヴァは、危うく手に持っていたカップを落としそうになった。


次話もよろしくお願いします。

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