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代償22

 アルセンは、駆け付けたハンスと共に城の中へ消えて行った。東屋を去る時、エヴァを振り返り何かを言おうとしたが、何を言えば良いのか分からなかった。

 残されたエヴァが茫然と東屋に座っていると、レナがやって来た。

「話しは出来た?」

 レナの言葉にエヴァは、首を横に振った。

「大事な事は、何伝えられなかった」

「行こう」

 レナはエヴァの腕を掴んで城に向かって歩き出した。

「レナ、レナ、私はもう良いの」

「良いって顔、してない。アルセンが城を発つ前に会っておかないと」

「良いって言ってるじゃない」

 エヴァはレナの手を振り払った。

「自分が幸せだからって、人にお節介しないで!」

「ねぇエヴァ、暴動って何かわかる? アルセンは命を狙われているかもしれないのよ」

 コサムドラは長く平和な国だ。エヴァが事の重大さを理解できていなくても仕方ない事だ。

「街の酒場で起きる喧嘩とは違うの。それに……」

 言って良いものなのが迷った。しかし、もうエヴァはアルセンが魔人でいる事を知っている。今更何も隠す事はない。

「それに、リエーキは魔人の国なの。そんな国での暴動なんて、考えただけでも私は恐ろしい」

 エヴァは城に向かって走り出した。

「アルセンは今私たち夫婦の部屋にいるわ」

 エヴァの背中に向かって叫んだ。叫んでから気が付いた。

「私達夫婦ですって」

 何だかこそば痒い気持ちになった。

「こんな事はしてなれない。でも、また走ったらエヴァに叱られるから」

 レナは、ゆっくりと城の中へと向かった。


 レナが部屋に着くと、アルセンとハンスが難しい顔をして話をしており、エヴァは居心地悪そうに隅に座っていた。

「ちょっとハンス、気を使って頂戴。ここは執務室じゃないわ」

「しかし、レナ今は」

 レナがハンスを遮った。

「分かってるわ。大変な事態よ。でも……」

 レナはエヴァを見た。

「いいのよ、レナ。私には、創造もつかない事が起きているんでしょ?」

 アルセンはエヴァに歩み寄った。

「本当に申し訳ない。国が大変な事になってしまった。直ぐに鎮圧してお店へ伺うよ。待っててくれ」

 東屋でのアルセンとは別人の様で、その肩にのしかかる責任がエヴァには見える様だった。

 待っています。

 エヴァは、そう答えようとした。でも、本当にそれで良いのだろうか。この人は、隣国の国王。私は、ただの娘。こうして王室の人達と交流があるのも、偶然レナの友達だったからだ。自分に何かがあるわけではない。

 エヴァからの返事が得られなかったアルセンは、少し肩を落として、その場から消えてしまった。

「エヴァどうして返事をしなかったのよ」

 そんな事、レナには分からないわよ!

 エヴァは、心の中で叫んでいた。


 リエーキの暴動は、想像以上に国を混乱に陥れた。

「何かあれば、コサムドラも手を貸す」

 ハンスはそう言っていたが、他国に迷惑をかけるわけにはいかない。

 暴動の先導者は、アルセンが信頼していた側近だった。

 国政に魔力を使わなくなった事で、これまで自分達がどれ程虐げられてきていたのを知った国民に担ぎ上げられたのだ。

 しかし、それもアルセンが魔力を使えば何とかななりそうだった。

「さぁ、アルセン」

 魂だけになった父と母は、息子の活躍を期待した。

「出来ない」

 無理だ。魔力を使おうとすると、エヴァの顔が浮かぶ。魔力を使って鎮圧したと聞けば、きっとエヴァは軽蔑する。そして自分から去ってしまうだろう。

 エヴァのケーキ作りは、ひとつひとつの作業を丁寧に、食べる人の笑顔を思い描いて作っていた。

 自分にだって、出来るはず。出来れば、エヴァに胸を張って会える。

「魔力は使わない」

 アルセンは、剣を握り自室を出て行った。


 アリサの中に潜むカリナの耳にも、リエーキの暴動は聞こえて来た。

「奥様、ファビオ様は今日もお戻りにならないのでしょうか」

「そうね。リエーキの暴動が落ち着くまでは無理かもしれないわね。そうだ、アリサ。もし、リエーキの暴動がムートルまで及んで、戦になったら私達と一緒に来る? それとも沈没船ムートルの王室に戻る?」

「奥様?」

「いえ、冗談よ。今のは、内緒ね。でも、この国がもう直ぐ沈没するのは間違いわよ」

 マルグリットは、優雅な微笑みをアリサに向けた。

 カリナはその微笑みを虫酸が走った。

 この女はタルメランの伝言を喜んだのだ。そして、それを利用しようとしている。

 やはり、やるしか無い。

次話もよろしくお願いします。

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