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代償21

 カリナはアリサの身体に入り込み、マルグリットと共にムートル国へやって来た。

 アリサの身体は若く軽やかで居心地が良かった。とは言え、アリサの魂を追い出した訳ではなく、間借りしているような状態だ。幸いアリサは自分の身に起きていることに気付いていない。マルグリットに気付かれては元も子もないので、前面に出る事はできないが、マルグリットの様子を探るには十分な環境だった。

 何より身じろぎひとつ出来ないぬいぐるみの中に比れば、申し分なかった。

 あの日、レナからタルメランの伝言を聞いたマルグリットは、ほんの少し動揺を見せた。

「そうですか」

 そして、ただそれだけ言って、黙りこくってしまった。

 伝言を伝えたレナも、今は何かに関わることを避けたいと思ったのか、そそくさと部屋を後にしてしまっていた。

 本当なら、その真偽をレナがマルグリット本人に確認するべきだとカリナも思ったが、今のレナにはこれ以上の負担はかけられない。


 婚姻の儀が無事に終わり、日が暮れる頃には城は片付けに追われる使用人達以外、日常を取り戻しつつあった。

 レナとエヴァは庭へ散歩に出た。

 散歩に誘われた時、何となくそんな気もして覚悟はしていたが、東屋に顔を強張らせたアルセンを見た時、一瞬足が止まってしまった。

「ねぇレナ。レナには今の私の心が見えるの?」

「今は魔力を使う事は禁止されてるのよ、私」

「そう、良かった……」

「でも、手が震えてるのは魔力を使わなくても見るわよ。ごめんなさい騙すような事をして。でも、二人で話しをして欲しかったの。エヴァと知り合ってアルセンは変わったわ」

「そう……」

 意を決して東屋に向かうエヴァの背中をレナは見送った。

 アルセンは東屋に独り向かってが来るエヴァを見て、逃げ出したくなった。

 会いたかった、話をしたかった、エヴァのケーキを食べたかった。なのに、いざエヴァを目の前にすると怖じ気付いてしまった。

「そこで待ってて下さい!」

 エヴァは強い口調でアルセンに叫んだ。

『男ってのはね、言わなきゃ分からないんだよ』、店で働いてくれている既婚者達の口癖だった。

 エヴァはわざとゆっくり歩み寄った。

「お久しぶり、ジャン」

 アルセンは、エヴァにジャンと呼ばれ、何と返事をして良いのか分からず、口をぱくぱくするだけで声にならなかった。

 本当に、この人が謎の多いリエーキと言う国の王なのだろうか。

「違ったわね、アルセン王だったのよね」

 エヴァはアルセンの目を見つめた。

 良いわよ。私の心を読むなら読めば良いわ。

「あ、いや、あの、本当に、申し訳なかった」

 アルセンは、エヴァの心を知るのが怖かった。こんな感情初めてだった。アルセンの魔力を持ってすれば、エヴァの心を支配してしまう事くらい簡単だ。しかし、それでは嫌だった。エヴァに本心から受け入れられたかった。エヴァが、支配された偽りの心ではなく、真心を込めてケーキを作る側に居たかった。

「悪い人じゃないことは、分かってるつもりよ」

 相変わらずエバは、アルセンの目を見て離さない。

「いや、そんな事もないんだ」

「そうなの? そうは見えないわ」

 エヴァに嘘は着けなかった。本当の自分を知って欲しい。知った上で嫌われるのなら、それはもう仕方がない。

「本当に、ついこの間までは、何もかも相手の事を考えもせず、自分の思い通りにやってきた」

 そう、命までも奪って来た。

「レナが、貴方が変わったと言っていたのは、その事なのかしら」

「それは……、分からない。自分が人からどう思われているとか、そう言う事も気にした事が無かった」

 ただ好いて欲しい、愛して欲しい、自分の一方的感情を魔力で押し付け強要していた。今なら分かる。それがどれだけ愚かで虚しい事だったのかを。

「嘘をつかれた事はショックだったし、、まま魔人だったと言うのも信じられない。でも、カーラを救ったのは間違いなく魔力よね」

「そうだ」

「嘘も、立場上仕方がなかったとは思うの。魔人である事だって、貴方の責任と言うと変ね、貴方が選べる事ではなかったんだろうし、仕方がないと思うの」

 アルセンの心に希望が沸いた。

 が、しかし、エヴァの表情は硬いままだった。ケーキを一緒に作ったあの日の様なエヴァの笑顔が見たかった。

「笑ってくれないのか」

「だって笑えないもの。魔力で私の心を見ればわかるでしょ?」

「だめだ見れない」

「どうして!」

 エヴァは自分の声の大きさに驚いた。

「怖くて見れない」

 アルセンは囁くように言った。

「怖い?」

「ああ」

「どう言う事?」

「もし、嫌われていたら……」

「え?」

「嫌われていたら辛くて耐えられない」

 エヴァの目に光る物が見えた。

「そんな……」

 嫌いになれるわけがないじゃない、エヴァはそう言いたかった。

「アルセン王!!!!!!」

 エヴァの言葉を遮ったのはハンスだった。

 走って来たらしく息を切らせている。

「「ギード!」」

 アルセンとエヴァが同時に言った。

「アルセン王! リエーキで暴動です!」

次話も、よろしくお願いします。

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