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父の娘・祖母の孫 それが私

 母を亡くした孤児から、皇女になったレナ。

 自分が忌み嫌われる魔人である事を受け入れ、向き合う決心をした。

 しかし、魔人である母を忌み嫌った祖母が、母のお腹の中に居た自分もろとも毒殺しようとした事、その事がきっけかで、母は自分の成長と共に命を削った事を知る。

 祖母と向かい会う事が出来たレナを待っていたのは…

「お二人とも、何か大事な事をお忘れではないですか?」

 ベルの無粋な一言で、古城から城に連れ戻されてしまった。

 折角、お祖母様とお庭を作っていたのに。

「アンドレ様が、城で働く皆にレナ様をご紹介するまで、後少しなのです」

 ベルは、城へ向かう馬車の中で同じ事を何度も言った。

「そんなに何度も言わなくても、分かってるわよ」

「お忘れなのかと思いましてね」

「忘れてないわよ。でも、お祖母様お一人であのお庭を作るのは広すぎるわ」

「レナ様をお城までお送りしたら、私は古城に戻りクリストフと二人でルイーズ様をお手伝いいたしますので、ご安心下さい」

「城で一人なんて嫌よ」

「アンドレ様がいらっしゃいます」

 そうだけど、そうなんだけど、お父様とはまだ何でも話せると言うわけには……。

 それにほら、やっぱり女の人にそばにいて欲しいし、勉強や訓練は古城でも出来るわ。

「こんな時、父親と言うものは側にいてやる事もできないのか」

「え?」

「アンドレ様が手紙にそう書いてらしたので」

 レナは城に戻るしかなかった。



「随分と魔力の制御が上手くなりましたな、姫君」

 ジャメルは、古城から戻ったレナの成長に目を丸くした。

「そうなのかな」

 自分でも、それなりに制御出来ているとは自覚していた。

「でもね、ここは人が多いから、その分気配も多くて、閉め出すのが凄く大変だし疲れる」

 古城に居たのは、ルイーズ達と少数のメイドと兵だけだった。

「楽に出来るよう、訓練あるのみですな」

 そんな事、得意げな顔で言われなくたって分かってるわよ。

 つい、魔力でジャメルの鼻に洗濯バサミを着けてしまった。

「何をなさいます姫君」

「油断してるからよ」 

 今度はレナが得意げな顔をする番だった。



 アンドレは一日に一度は、レナと食事を共にするようにしていた。

 皇女として多くを学び身に付けていくレナは日に日に成長しており、それを見ていられる事に喜びを感じていた。

「毎日忙しそうだね」

「お父様程じゃないわ」

 交わされる会話は、毎日大して変わりはしなかったが、それでもアンドレは満足だった。

 母の喪が明けないレナは喪服姿だが、少女から大人の女性に成長していく様子は誰の目からも美しかった。



「エリザ、私、ずっと気になってたんだけど、城に出入りする者の中には、お父様を良く思っていないわ方もいるのね」

 以前より気になっていた事を思い切って聞いた。

「そうですね。中には色んな人物がおります」

「そう言う人達に、私はどうすれば良いの?」

「と申しますと?」

「意地悪しちゃ、ダメ?」

 父を悪く思う者が居るなんて、娘としては由々しき事態だ。

「ダメです」

「でも、お父様に意地悪をしようとしている者もいるじゃない」

「そんなに人の心を覗いてはいけませんよ」

「わかってるけど……」

 エリザも、それに気が付いていた。

 あわよくば、アンドレ様を出し抜いて自分が国を牛耳ろうとする者達は後を絶たない。

 しかし、何も今に始まった事ではない。

「そうですね、レナ様に出来る事は……」

「なになに?」

 レナが、自分も役立てるのかと身を乗り出して来た。

「そう言う者には、思い切り素敵な笑顔で挨拶してくださいな」

「えええええええ、何それ、つまらない!」

 レナは、すっかり拗ねてしまったが、レナは自分の魅力に全く気が付いていない。

 エリザには、レナの笑顔に酔う者達の姿が目に浮かぶようだった。

「難しい事、聞かれたりしないかしら」

「一言ずつご挨拶なさるだけですので、大丈夫ですよ」

「流石に緊張してきた」

 父の用意したレナ披露目の日は、もう直ぐだ。

「レナ様は、笑顔で居てくだされば十分ですよ」

「そういわれると、笑う事しかできない、能無し言われてる気がするのよね」

「でしたら、しっかりお勉強して下さい」

「そうね」

 レナが勉強への決意をしている頃、レナが去った古城では騒ぎが起きていた。

 


 それは、レナが始めて城にやって来た頃から始まっていた。

 ベルが大きな荷物を持ってルイーズの前に現れた。

「なに、その大きな荷物は」

 ベルが荷物を解くと、中から出てきたのは作りかけのドレスだった。

「それは…」

 ベルが、ルイーズにドレスを手渡す。

「アミラ様からお預かりしたドレスです。後はルイーズ様にお願いしたいと、おっしゃっておられたもので」

 ルイーズは作りかけのドレスを広げ

「あの女も、大した趣味じゃないね」

 無言でドレスを隅々調べ、生地屋を古城に呼び寄せた。



「どうして、レナはこのドレスを着ないんだい」

 ルイーズは仕上がったドレスの前で、不機嫌極まりない。

「まだアミラ様の喪が明けておられませんし、一部の方達だけですので」

「じゃぁ、このドレスはいつ着るんだい」

 急いで手を加えて仕上げたって言うのに、日の目の見ないなんて許さない。

 ルイーズの体から、怒りの炎を見えそうだった。

「アンドレ様は、喪も明ける14歳のお誕生日の後、盛大に披露目を行われる予定ですので、その時にと」

「なんだか私は納得できないねぇ。喪服で披露目なんて。レナは、なんて言ってるんだい」

「レナ様は、ドレスの事はご存知ありませんので」

「そうかい、じゃぁ、もっと派手にしてやろう。生地屋を呼んでおくれ」

「あまり派手なドレスでは……」

「私の孫が地味なドレスで披露目されるなんて、真っ平だよ」

 ベルの悩みは尽きそうにない。



 エリザに髪を整えて貰い、自室で口から飛び出そうな心臓と対峙していた。

 うっかりすると、机の上のペンが勝手に動き回る。

「レナ様!」

 エリザに咎められ、慌ててペンを大人しくさせる。

「どうしよう、勝手に魔力が……」

「集中してください」

「はい……」

 扉がノックされ、メイドがレナに会議室へ行くよう伝えに来た。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 レナは、今までついた事のない大きなため息と一つついて会議室へ向かった。



「今日は皆に紹介したい人が居るんだ。少し時間を貰えるかな」

 出席者の多くは、とうとう王が新しい妃を迎えるのかと思った。

 アンドレに招かれて入ってきた喪服姿のレナを見て、一同息を飲んだ。

「なんだ、まだ子供じゃないか」

 声に出して言う者も居た。

 レナは、その者に向かって最高の笑顔を向けた。

 その笑顔を見た者は、それ以上なにも言えなくなってしまった。

「紹介しよう、娘のレナだ」

 全員が立ち上がり、レナに敬意を示す敬礼をする。

「ありがとうございます。初めまして、レナです」

「確か王妃アミラ様は、お子様を宿されたまま行方不明の筈。本当にレナ様と言う証拠はあるのですか」

 声の主を確認すると、あの嫌な気配を持った男だった。

 名前はドナルド。

 ドナルドに最高の笑顔を送るレナ。

 レナの笑顔に息を呑むドナルド。

 なるほど、エリザが言っていたのはこう言う事なのね。

 レナは、納得して全員に惜しげもなく笑顔を振りまいた。

「行方不明になっていたアミラが見つかったんだが、病気でね。亡くなってしまったんだ」

「なんと!」

 最高齢ドミニクが声を上げた。

「あのアミラ様がお亡くなりになった!」

 ドミニクの目に涙が溢れた。

「母をご存知なのですか?」

 レナが、ドミニクに歩み寄る。

「もちろん、お優しい方でございました。レナ様、よくご無事で」

「ありがとう」

 レナは、ドミニクのシワだらけの手に、自分の手を重ねた。


 

「ドミニクのおかげで、上手くいったよ」

 久しぶりに、父と祖母の3人での穏やかな夕食の席になった。

「そりゃ、レナは私に似て器量が良いしね」

 ルイーズは鼻高々だ。

「お祖母様、そう言う事は自分で言うもんじゃないわ」

 重荷から開放されたレナは、最高の気分だ。

「人が言ってくれないんだったら、自分で言うしかないだろう?」

 がははと豪快に笑うルイーズを、アンドレは何十年ぶりかに見た。

 そうだ、母は元々豪快で明るい人だったのだ。

 自分が母の意にそぐわない相手を妻としてしまった為に、母は別人のようになってしまった。



「それは違うぞ、アンドレ」

 執務室で、久しぶりにジャメルと二人っきりで酒を酌み交わす。

「しかし……」

「そんな事を口に出していったら、姫君が傷付くぞ。姫君はその意にそぐわない相手から生まれたんだぞ」

 ジャメルの指摘で、気がついた。

「一番成長できてないのは私かもしれないな」

「そうだな」

 少し酔った様子のジャメルが嬉しそうに笑う。

「なんだよ、嬉しそうに」

 不満顔のアンドレを見て、ジャンルは声をたてて笑った。

 そんなジャメルにつられて、アンドレも笑い出す。

「姫君が城へ戻られてから、色々事件は起きるが、それ以上に笑う回数が増えた」

「そうだな」

 まるでアミラが居た頃のようだ。

 言葉には出さないが、二人の思いは一緒だった。

「レナの披露目まで、もう少ししかない。レナの事、よろしく頼む」

「まかせておけ」

 こんな旨い酒は、長らく飲んだことがないな。

 アンドレには国の未来すら明るくなったように思えた。

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